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2021年1月から2月にかけて私が聴いたもの

 誰かと音楽の話をしたいだけ。いつもそう。私は猛烈にD.A.N.の話がしたい。昨年末に配信リリースされたD.A.N.のライブ・アルバムの話を。そうです、つまり2020年間ベストの続きの話を。

LIVE ARCHIVE:STRAND/D.A.N.

 昨年10月に有観客で開催され、配信も行われた渋谷WWW Xでのライブの音源をマスタリングしたアルバム。私は配信で観たのだけれど、その日のD.A.N.の演奏がはじまる前に映し出された映像が印象的だった。渋谷の交差点をゆっくりと通り過ぎて公園通りを上り、パルコを左に曲がって少し進んでWWW Xの前に到着する様子を車の中からカメラで映し、入口へ向かう階段を静かに登って会場の中まで進んでいくのを、(わっ、ライブの疑似体験みたいで嬉しい……)と目で追っていると、辿り着いたのは客席ではなくステージの上で、いつもはスタンドで満員になるスペースに椅子を置き、そこに間隔を空けて座っている観客と対面した演者側の目線に立つというなかなか凝った演出からスタート。人前での久しぶりのライブを行う喜びと、数ヶ月ですっかり様変わりした現実を目の当たりにした複雑な心境を見ているほうも同じく感じ取ったところで、それを一掃するかのようにさらりと「Pool」ではじまり、緊張感をほぐすあたりがスマートというか、洒落ていた。
 ライブの定番「Sundance」や「SSWB」や生で演奏することで見事に化けまくる「Aechmea」などなど聴きどころは満載。しかし!しかしです。終盤の「Pendulum」から「Tempest」への流れがもう凄まじくて、何かとてつもないものが発生しているのがわかるというか、D.A.N.のライブ特有のグルーヴを最大限に生かして音源に閉じ込めることができた貴重な記録じゃないかなこれは!と大声で言いたい。サポートメンバーが増えて出せる音が広がったことで、持ち味のリズムの部分がより締まったようにも聴こえる。一度観たライブでしかも配信のみだし、と軽い気持ちで流していたら瞬く間にぐわっと胸を掴まれてしまい、彼らの底力を見せつけられたような気持ち。余計な言葉をほとんど使わずひたすら音楽のみをストイックに追求し、表現し続けるD.A.N.のことを心底惚れ直した2021年のはじまり。

鳥鳥鳥/Deca Joins

 とにかく年末にリリースされたものは埋もれがち。12月の終わりにひっそりと解禁されていたDeca Joinsの「鳥鳥鳥」もそうなりそうで、なって欲しくない好作品だと思う。数年前にアジアのインディーが面白いと気付いてから I Mean UsやEverforやThe Fur.など台湾の音楽を夢中で聴いたけれど、その中でもデカ・ジョインズは特にお気に入りのバンド。1stの「浴室」はメロウな台湾ポップスかと思えばジャズ・フュージョンっぽい顔を見せたり、時々エモく変化したりと、泥臭さと軽やかさを兼ね備えた素敵なアルバム。加えて彼らは演奏も上手くてライブも魅力的。一昨年ミツメが呼んだイベントでは物販CDが終了直後に無くなっていたほど。より淡く穏やかに傾倒したEP「Go Slow」を挟んだうえでどちらの温度も保ったまま上手く作られていて、一枚を通しての流れがスムーズで聴きやすいところに今どきのアルバムらしさがプラスされたように感じた。間合いの計りかたが洗練されていてプレイリストにも対応できるというか。でも昨年のライブ音源のシングルを聴いたら思いっきり重厚なバンド・サウンドを披露していたりと、なんだか掴みどころがない。謎謎謎。

 1月の早朝はDeca Joinsのアルバムと、昨年から気に入っていたK-LONEの「Cape Cira」を交互に流す毎日だった。K-LONEは紙エレ年末号の個人の年間ベストで河村さんが選んでいたのを見て、そういえば夏によく聴いていたなと思い出して再加熱。同紙面の特集ページにしれっと混ざっていてもおかしくないエレクトロニック・リスニング・ミュージックな音。自覚はあるのだけれど一昨年のWARP30周年で色々と聴き返してみたあたりから耳がテクノに寄っている。というか戻っている気がする。

 それから昨年渋谷パルコに移転したテクニークがなんとUTとコラボしたらしく、それに合わせてプレイリストが公開されていたのを聴いてみたら非常に楽しくて、連日かけっぱなしにしていた。

 テクノ・クラシック多めの新旧織り交ぜたプレイリストで、私はSpotifyユーザーではないのでシャッフル再生しかできなくて、聴いていると何が出るかな?状態でそこがまた楽しい。イントロドンで正解できるくらいしっかり覚えている曲もあれば、何これかっこいい!とときめく未知の曲もあるし、改めて聴くと今これありだな〜と聴き返す曲(Carl Craig関連など)もある。不意打ちでCJ Bollandの「Camargue」が来た瞬間は思わずわっ……と両手で顔を覆った。新宿リキッドルームのことや、なんやかんや色々思い出してしまって。よくあるテクノのプレイリストと違うのは、日本のものがしっかり入っているところ。『VITAMIN』前後の電気グルーヴの曲を選んでいるのが日本のテクノの現場らしいチョイスだし、ヨコタススムが豊富なのも嬉しい。そして2003年辺りまでのトラックはほぼちゃんと覚えている自分に驚く。子供の学校のクラスが何組かはすぐに忘れるくせにね。


 あとはAndrew Weatherallの命日に知った生前のこのMIXも何度もずっと聴いていた。

 最後に来日した時のDJにかなり近いテイスト。これを延々と聴いていたいと思う音を引き伸ばしながらじっくりと時間をかけて展開していく。私が思うDJの表現そのものという感じで、一旦聴き始めたら止めどころが見つからなくて困った。いろんな意味でこれを今、家で聴けるのは本当に贅沢なことだと思う。ダンスありきのチルなのにチルばっかりでダンスが足りない状態が続いていた時に、心身のバランスを整えてくれた。

Drunk Tank Pink/Shame

 今年最初に買った今年のレコードはShameの『Drunk Tank Pink』。『Songs of Praise』から早3年、リズムに磨きをかけてゴリゴリのポスト・パンクに徹した結果のような、これを待ってたという期待通りの勢いのある音が針を落とした瞬間から鳴り響いたので、思わず笑みが溢れた。シェイムはいつの時代に生まれてもきっと同じ音楽をやっていただろうな。貫く姿勢こそが格好いいと、このレコードを聴いている42分間だけは信じてしまう。そして新しい音楽の持つエネルギーにいつまでもやられていたいと心底思った。次にシェイムのアルバムが出たらここで買おうと決めていたBig Love Recordsで購入した私のレコードは、ピンクではなくブルーのカラー盤でサイン入り。レコードは買うと自分のものになるのが良い。なんか頑張ろうって思う。

 あとはシェイムと同じサウス・ロンドンのArlo Parksや、ナイジェリア出身のEmeka Ogbohなどを聴いていた。


Covers/Marika Hackman

最後に、Marika Hackmanのカバー・アルバムを。2021年に選ぶ2020年のベスト・アルバムに選ぶとしたら間違いなくエントリーする、つまり昨年取りこぼしていた作品。カバーは何を選ぶかがまず重要で、RadioheadやAirやElliott Smithなどの人選含めどれもこれも素晴らしいけれど、特にThe Shinsの「Phantom Love」、Alvvaysの「In Undertow」、そしてラストを飾るBeyonceの「All Night」がもうたまんない。原曲とは違うアプローチでアレンジされ、寧ろ原曲より好みかも、と思わせるほどダークで美しいサウンドに仕立て上げていて、憂いのある歌声にもかなり心を打たれてしまった。これを機にマリカ・ハックマンの過去作を聴いてみたけど、これがいちばん優れているのでは?と思う。
 昨年はWhitneyやJames Blakeもカバー作品をリリースしていたし、コロナ禍の傾向のひとつなのかもしれない。最近では私のご贔屓のChristian Lee HutsonによるABBAの「Dancing Queen」のカバーや、Death Cab For CutieによるTLCの「Watefall」なんていうユニークなカバー曲もあった。デスキャブのBenjamin Gibbardは数年前にTeenage Fanclubの『Bandwagonesque』を丸ごとカバーしていた時にも感じたけど、歌うとデスキャブになってしまうのが面白い。そして「Watefall」を聴くとほらほら、自然と「Pool」が聴きたくなり、私はまたD.A.N.の話に、ふりだしに戻る。

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