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フジロック2016 電気グルーヴLIVE

長年活動している大好きなグループだし、フェスのライブレポなんて書くつもりじゃなかった。検索すればすぐにセットリストや沢山の情報を知る事が出来る時代に、メモすら取らない人間のその一瞬だけの曖昧なレポートなんて必要性がないだろうと思って。でもやっぱり、書く。何故ならそういう気持ちだから。

フジロック20周年のラインナップがほぼ出揃った後に、もったいぶるように最後の方に発表されたスペシャルゲストの電気グルーヴ。私がフジで電気を観たのは2006年のみ。2001年からの活動休止中に私も結婚そして出産をしていたので、その年のライブは久しぶりに観た電気で、サービス満載な選曲も大きなグリーンステージを揺らす圧倒的な盛り上がり方もとても思い出深かった。今年の始めに電気グルーヴの映画の中で初回と2014年のフジでの素晴らしい映像も観ていたし、もう一度あの場所で電気を観たいという気持ちが強く、先にチケットを取っていた日曜に名前が加わったのを見たその日は比喩ではなく本当に泣いた。

別にフジロックに固執しているわけではないけれど、ワンマンのライブはいくら近くでやっていても平日だし、子供がいる今の自分にはハードルが高い。そしてフェスブームより遥か昔からあって、国内外の魅力的なグループが集まる日本で一番大きなお祭りの一番大きなステージ、そこに大好きな電気グルーヴが登場するのは何とも気分がいい。

7月24日の夜。昼から遊び回った後、直前までホワイトステージでバトルスを堪能。徐々に体温が上がってピークの曲「Atlas」のイントロが来た瞬間にグリーンへ移動予定の時間になり、一瞬このままずっとバトルスで…という考えが頭をよぎったが、友人に肩を叩かれハッと我にかえる。前回2006の時、もたもたしていた私達は遠くから聴こえる一曲目の「N.O.」に驚いて入口ゲート付近からグリーンステージに向かって急いで走るというミスを犯している(それまで電気はその曲をライブでやらなかった)。今回はちゃんと登場する所から観るって約束したじゃないか。

バトルスの強いドンドコリズムに後ろ髪ひかれながら暗い道をひたすら歩き、グリーンステージに到着。右端から躊躇せず進み前方の柵の近くまで辿り着くと、間髪入れずに大きな音が鳴り始めた。ステージに目をやると「コンニチワ 電気グルーヴデス」との文字が。間に合った!

「Shangri-la」が始まると見せかけての「Hello!Mr. Monkey Magic Orchestra」。お揃いの黄色のシャツに黒いパンツ、ハットを被って登場。会場にいる全員が名前を知っているんじゃないかというほど人気者のピエール瀧が右へ左へと動きながら怪しくその場を操り、夜中の23時に観客を沸かせる。後ろを振り返ると物凄い人の数。みんなレッチリが終わってもまだ帰っていなかったんだ。暗闇にライトで照らされて浮かぶ波のような圧巻の景色の中に今、自分もいる。

披露した曲は覚えているもので「Missing Beatz」や「Shameful」「Baby's on Fire」「Fall'in Down」などの2010年以降の曲から「バロンダンス」や「ジャンボタニシ」「あすなろサンシャイン」などの昔の曲まで、曲間には「スコーピオン」や「ダイナソータンク」を混ぜたりと嬉しい流れ。TB303のブリブリした音に五島良子の透明な歌声が絡む懐かしの「新幹線」の最中に、後ろのモニターに新幹線の車内表示に似せた流れる文字でゆっくりと

「もう終電終わってるから踊るしかありません」

と映り、それを観ている全員が一気に爆発。湧き上がる歓声。反射的に両手が挙がる。

うわー嬉しい。電気グルーヴってね、昔は評論家達には評価されてはいたけど、口は悪いし見た目も良くないし下品だしいつもふざけてばかりで、一部の熱狂的なファン以外には嫌われることが多くて肩身が狭かった。ライジングサンの1回目でロックバンドに混じって演奏した電気グルーヴは明らかに浮いていた。90年代にイギリスやドイツのテクノをいち早く日本に紹介して広めた石野卓球は電気グルーヴという肩書きを重そうに背負っていたような時期もあったし、その後の電気グルーヴの活動にもどかしさみたいなものを感じていた事もある。だけどずっと続けて年月が経ってみると、気づいたらみんなに愛されるグループになっていた。音でしっかり踊らせて、その流れの中でちゃんと自然に笑わせてくれる唯一無二の存在になって、みんなに受け入れられていた。その光景がなんだかちょっと誇らしくもあり。

途中、瀧が「フジロックのお客さん最高!」と言っていたけど、フジロックの電気グルーヴこそ最高だよと胸の中で返す。そして「N.O.」という何十年も前の曲を惜しみなく歌い、サビの部分で観客にマイクを向け、よくわからずちゃんと歌えないみんなにプンプン!と怒ったジェスチャーをする卓球。終始、変な踊り。何あれ。無邪気なおじさんだな。可愛い。

お馴染みの「富士山」で「ふっじさーん!ふっじさーん!たかいぞたかいぞふっじさーん!」と大合唱させられ、興奮の中、本編は終わり。熱は冷めぬままに、まだ聴いていない曲を望んで帰れない人達の拍手は続く。ほどなくして2人にしか似合わないあの似顔絵Tシャツを着て再び登場。ステージに戻ってきた卓球が、

「急いでたのでおしっこ漏らしちゃいました。」
「フジロックには思い入れがあるので嬉しいです。あと明日死にまーす。」と。

電気グルーヴは嘘ばかりつくけれど、どれが嘘でどれが本当かはあの楽しそうな顔を見ればわかる。

そしてアンコールではさっきイントロだけ流してやらなかった「シャングリラ」をしっかりやって、最後は「虹」。美しくキラキラとした名曲。とりこじかけになる。そういえば電気グルーヴはアンコールを絶対やらないグループだった。今はもうやっているらしいけど、私には初めてだ。…今夜はなんていい日なんだろう。途中泣きそうになる事が何度かあったけれど、そんな感傷的な気分の頭をはたくように目の前では瀧が陽気なダンスでサービスを続ける。

「観てください、聴いてください、楽しんでください、電気グルーヴで御座います!」

ライブ中に石野卓球がいつも叫ぶ言葉を噛み締めながら、楽しい夜は終わろうとしている。

最後に心が洗われるような素敵なものを夜空の下に落とした後、後ろのブースから前方に駆け寄った石野卓球がピエール瀧におんぶされて退出。確認はしていないけれど、それをみた全員が笑顔だった、はず。

#DENKIGROOVE

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