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aikoがaikoになる前「あの子へ」

新年あけましておめでとうございます。
早速ですがあることに気づきました。「もしや自分はもうaikoを受け取る側でなく、aikoを与える側なのでは」と。なので、今年は少しずつでも皆様にaikoを与える人間としても精進していきます。

aikoがaikoになる前「あの子へ」

僕が17年間愛してやまないaiko、夢にまで出てきて「私と仕事どっちが好きなの?」と悩ましい質問をぶつけるaikoは「花火」のヒットで世の中に知られるようになった。

aikoが緑色の長方形の部屋で「夏の星座にぶらさがって、上から花火を見下ろしてー」と歌うPV。そのとき1999年、夏。人類の多くがaikoを発見した瞬間である。

「花火」はaikoの3枚目のシングルで、その前に「あした」「ナキ・ムシ」というシングルもリリースしている。つまり、aikoは「花火」がヒットする前からaikoをしていた。

そしてaikoには、「花火」よりも「ナキ・ムシ」よりも「あした」よりも前、メジャーデビュー以前のインディーズ時代がある。

「あの子へ」はインディーズ時代の曲で、ロージーのカップリングに収録されている。

「あの子へ」は初期の初期、インディーズ時代のaikoの雰囲気がすごくよく出ている曲だ。aiko初期は「友達とみんなで夜遅くまで遊んでそのまま雑魚寝して、そこに好きな人もいました」感。これが素晴らしい。

目が覚めるとあなたの顔が こんなに近くにあるから
驚いて胸が高鳴る 「好き」なんて言葉 口にしたくなる

「あの子へ」はこのように始まる。

ここでaikoはあなたのことが好きだけど、その思いはまだ伝えていない。
なぜか? 『「好き」なんて言葉 口にしたくなる』だからだ。口にしたいけれど、まだ口にしていない。

頬のうぶ毛も閉じてる瞳も長い睫毛も
あたしのものになったらいいな なんて考えてる

aikoは眠っているあなたをずっと見ている。無防備なあなたの頬のうぶ毛まで見ている。

頬のうぶ毛は普段起きて話しているときには落ち着いて見られないだろう。特別で幸せな時間だということがわかる。幸せすぎるから、あたしのものになったらいいとまで考える。

ところで、なぜaikoは付き合ってもいないあなたの寝顔をこんなにゆっくり見られるのだろう?

それは、これが友達みんなとの雑魚寝だからだ。ちなみに僕の歌詞解釈がそうだというだけでなく、aiko界の聖典「aikobon」でもそのように書かれている。

特別なイベントがあるでもなく、なんとなく集まってダラダラと遊んで気づいたら寝てしまっていた。早朝に1人だけ目が覚める、そしてスヤスヤと眠るあなたを見て「あぁ、幸せだなぁ」と顔をずっと眺めてしまう。

二十歳のころのaikoの感性と生活がある。

今のaikoももちろん素晴らしいし大好きだし最高だ。ただ、「あの子へ」のような歌詞は今はもう書けないんじゃないかと思う。これは二十歳のころのaikoの歌詞だ。

そしてそれは聞く側も一緒であり、「あの子へ」は今になって聞くと、共感というよりは懐かしい景色を久しぶりに見たような感覚になる。aikoのハタチも終わったし、聞く側のハタチも終わったのだ。

あたしの横 小さなイビキかいて眠るあなたを
少し笑ってみつめるあたしは きっと世界一幸せ
すべてあたしが守ってあげる
だから早く受け止めてね

aikoの世界は「あなたとあたし」であり、二人でいればそれだけで幸せなので、「世界一」的な幸せを競うような表現はあまりしない。でも、その時、世界のことを何も知らなくても狭い部屋の雑魚寝の中でaikoは世界一幸せだったのだ。

そして、この先の人生で何があるかわからないけれど「すべて守ってあげられる」そんな気がしていたのだ。


10代から20代前半の早朝にそんな瞬間があったよね、と青春の一瞬を思いだせる一曲が「あの子へ」である。

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