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ContractSを退職した今と、法律家としての未来

2021年もあと数時間で終わりですね。
皆さん、今年も多方面で大変お世話になりました。

今年は、僕の人生の中で一番変化が激しかった2020年にも劣らず、なんとも激動な一年でした。一番大きかったイベントといえば、ContactSを退職し、2年越しに司法修習に臨んだことです。いまは75期の司法修習生として修習に励んでいます。

年の瀬ですし、改めて自分の中で区切りをつけたいと思ったのと、特に最近は「修習に行かずスタートアップに入ろうか悩んでいる」「スタートアップの雰囲気を知りたい」等の(一風変わった)進路相談を受けることが増えました。そこで、今年一年の締めくくりに代えて、いわゆる #退職エントリー 的なものを書いてみようと思いました。

はじめに

司法試験合格後、司法研修所から届いた段ボールをひっくり返し、書き方もろくに分からない修習の事前課題を解きまくっていた2019年の秋。「ビジネスサイドのリアルな空気を感じ取りたい」と思ってContractS(当時はHolmes)のインターンに臨んだところから、人生が大きく変わりました。

「正式にHolmesにおいでよ」と声をかけていただき、悩みに悩んだ挙句に段ボールいっぱいの白表紙を返送し、清水の舞台から飛び降りる思いでHolmesに正式入社するまでたった2週間。そこからの2年間で、本当にたくさんのモノをContractSからもらいました。

なぜ司法修習ではなくContractSを選んだか

ContractSは、「契約」の本質的な課題の解決に取り組むスタートアップ。……というだけだと一体何をやっている会社なのか謎かもしれませんが、現在の主軸事業としては、企業の契約業務を一通りオンラインで実現できるSaaSプロダクトの提供(「ContractS CLM」)と契約書のデジタル化支援(「ContractS SCAN」)があります。

僕が入った当時のContractSは社員が約40名、シリーズAの資金調達済みで社員も急激に増え、会社が色々な意味で急拡大しているフェーズでした。当時の僕目線では、ContractSにいるメンバーは、僕がこのまま法曹としてのキャリアを歩んでいたらまず出会えないスーパープレイヤーの塊のような集団でした。

これからContractSがやろうとしていることを、このメンバーと一緒に少しでも社会に届けたい。個人的にも間違いなくユニークなスキルセットを得られる。スタートアップの会社が大きくなるその瞬間を体感できる。だったら今この瞬間に入るしかない。そう思いました。

ContractSの門を叩くまでは73期で司法修習に行く気満々で、司法修習生フォーラム(当時は「七月集会」)のメンバーになったり仲の良い同期の友達ができたりした(今も仲良し)のだけれど、あのときContractSに行く決断をして本当に良かったと思っています。

ContractSに入ってから何をやったか

ContractSでなにをやったのか、というと、実は法務的な業務はほんの一部でした。メインは完全にビジネスサイドで、少なくとも通常のルートを歩んできた修習生と比べると特異な経験(であると同時に、一般的な社会人からするとある意味当たり前の経験?)をさせてもらったのではないかなぁと思っています。

いま最も注力すべき部分で最大限の成果を残す

ContractSに入社して所属したのは"CEO室"。いわゆる社長室的なポジションなのだけれど、この時のCEO室はちょっと異質で、「いま最も注力すべき場所で最大限の成果を残す」ことをミッションに動いていました。必要ならどこにでも行って何でもやる、という働き方だったので、セールス、マーケ、カスタマーサクセス、新規事業担当、プロダクト開発と、気づけばビジネスサイドの仕事を一通り経験させてもらっていました。

スタートアップらしい話として一つ、入社して1ヶ月経った頃、室長の酒井さんから「明日、スーツで来れる?」とSlackが来たんですね。次の日、修習用に仕立てたスーツに袖を通して出社したら、「今日からセールスやろう!まずは営業同行からよろしく!」と言われてお客さま先に出向いた時は流石にスピード感が速すぎてびっくりしました。けれど、今となってはセールスがビジネスサイドにおける仕事のキホンだとわかるので、外に出してくれたことには感謝しかないです。

マーケでは連載記事の寄稿をして、セールスでは過去最高額契約をいただき、カスタマーサクセスでは東証一部上場企業からスタートアップまで幅広く活用支援に伴走してプロダクトリニューアルを乗り越え、プロダクト開発でも開発陣と密にコミュニケーションをとり、とにかく少しでも結果に結びつけるために働いていました。

契約業務領域のDXに向き合う日々

色々な部署のメンバーと一緒に仕事をしたので、仕事の内容は多岐にわたっていた一方、短期〜中期目線でやるのはつまるところ「契約業務領域のDX」を色々な視点でひたすら考えるということ。セールスならお客さまの求めるソリューションを組み立て提案する、カスタマーサクセスならお客さまのDX実現にプロダクトを通じて伴走する、プロダクト開発ならどんな価値をプロダクトで表現すればお客さまに喜んでもらえるのか考える。

法務部に限らず色々な業種・業界・部署・人から見た契約業務を知り、それを立体的にとらえて、何が本質的な課題解決に繋がるのか見つけ出すという仕事は非常に難解であるがゆえに、お客さまから嬉しいフィードバックをいただいた時には自分も嬉しくて、それが次の仕事に臨むモチベーションになりました。

少しだけ入り込んだ話をすると、契約業務領域のDXはまだまだ発展途上で、一部業務のデジタル化(特に電子契約や契約書管理)から取り組んでいる企業が多いです。契約業務というのを企業の仕事の中で「作業」に分類し、いかに作業効率を上げるかという視点が強いからだと思っています。けれども、この先の日本でも間違いなくCLM(Contracts Lifecycle Management)の考え方は台頭してくるしContractSはその未来にBetしている(だからこそプロダクト名にも「CLM」が冠されています)ので、契約DXが作業の効率化を超えて企業資産になっていく未来が来るはずです。
(この辺の話は今回の趣旨からはズレるので省きますが、ご興味ある方は是非お話ししましょう!)

未来を見据えて頑張るというのは、時には先が見えにくくなって迷う時もあります。でも、いま目の前にあるものに全力で取り組み、また未来に目を向けることを繰り返しているうちに、いつの間にか前に進んでいるものだとも思います。こうした営みを2年間やり続けることができたのは非常に有意義でした。

また、法務部の皆さんが日々どんなことを考えて仕事をしているのかとか、法務と一口にいっても企業によって千差万別なんだなとか、企業にとって"法務"とはどうあるべきかを考える示唆がたくさんあって勉強になりました。

なぜContractSをやめたのか、あるいは法律家としてのこれから

こうして書いていると、「え、なんでContractSやめたの!?」とか「もう修習行かないのかと思ったよ!」とか言われそうです(というか後者についてはお客さまからも言われた)。このタイミングで退職したのには色々と理由があるのですが、「改めてアドバイザリーとして様々な企業に関わってみたい」と思ったことが大きいです。

今までは事業会社のプレイヤーとして走りながら考えたり、時には意思決定をして、間違っていたら修正してという日々を過ごしていました。一方、アドバイザリーがクライアントの意思決定に勝手に介入したり、ましてや意思決定をすることはできないし、許されません。むしろ、企業法務を扱う弁護士には、法律分野のプロフェッショナルとしての立場からしっかりとしたアドバイスをすることが最低限のラインとして求められます(と思っています)。

ContractSに入る前の僕は、ビジネスのことを何も知らない自分がクライアント企業に対しどうアドバイスできるんだろうと不安だらけでした。もちろん企業法務の領域で活躍していらっしゃる弁護士の皆さんは、その大多数が学生→司法試験→修習→弁護士というルートを進んでおられると思いますし、だかといって特段困るということも無いのかもしれません。ですが、僕にとってはそれがどうしようもなく不安だったという話です。

ContractSでビジネスサイドのプレイヤーとして経験を積み、様々な業界・部署の方々と仕事をした今は、当時と比べると自信がつきました。契約ひとつを取っても、その裏にあるビジネスや、ビジネスを動かす人々の考えを理解するための取っ掛かりが掴めるようになったからです。(その分、法律の知識が抜けているので今必死に取り戻しています……)

ビジネスと契約は表裏一体ですが、やっぱり契約はあくまで「裏方」なんだろうと思います。クライアントが真に求めているものは法律的に正しい答え(だけ)じゃなくて、ビジネスの成功です。我々法律家に相談が来るのは、良くも悪くも、ビジネスが成功するために法律的な問題があるから。ビジネスの成功に繋がらないアドバイスは、法律的には正解だとしてもクライアントからすれば無価値です。

けれど、どんなスポーツにもしっかりルールがあるように、プレイヤーが意識していなくてもビジネスにだってルールがある。しかもビジネスにおいては、ルール自体が複雑なだけでなく、まるでカードゲームの大富豪のように、プレイヤーがローカルルールを作ることだってできる。そのローカルルールがたちまち業界のスタンダードになるかもしれない。

こんな面白いことってなかなか無いと思うのです。

となると、それぞれのビジネスを深く理解したうえで法律家としての立場からビジネスに伴走することが、ある程度の抽象レベルでビジネスロイヤーに求められるものなんだろうと思うのですね。まだおぼろげな部分もありますが、ContractSで得たこれまでの経験を活かして、改めて自分が法律家として提供できる価値があるかもしれない。そこにチャレンジしたいという思いが強くなり、このタイミングでの退職を決断しました。

諸先輩方からすると、なんとも青臭い話だなぁと映るかもしれませんが、とりあえずやる気には満ち溢れているんだなとご理解いただければと思います(笑)。ここまで育てていただいたContractSとメンバーの皆さんには改めて感謝です。これから法律家として一人前になることで恩返しをしていきますね。

ちなみに今は、ありがたいことに色々な諸先生方とお話しをさせていただいています。突然ご連絡をしたりアポイントのお願いをしたりと無礼をはたらくこともあると思いますが、何卒ご容赦いただけますと幸いです。

また、こんな僕ですが、皆さんの役に立つことが少しでもあれば嬉しいので、スタートアップでのキャリアやリーガルテックの話など、聞きたいことがあればお気軽にご連絡ください。

来年も公私ともに色々な変化がありそうです。
改めて、2022年もよろしくお願いいたします。
2021.12.31



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