国葬の日は祭日にしませんか、祝日と言うと語弊があるので/深山睦美
うたの日無冠の短歌を紹介するシリーズ第100回
2022年08月20日『祭』の一首
かっこいい。上の句だけ読むと一瞬、シンプルに国葬賛成なのかなと思わせて、祝日だとお祝いしてるみたいじゃないですか、と言うことを提示します。言ってることはそれだけなので、賛成とも反対ともなんとも言っていません。
しかし、そもそも政府側は「祝日にしよう」とは言ってないんですね。ということはこの歌は、大前提として作中主体か、あるいは世間の一部に祝いたい気持ちがあったことを暗示して、にもかかわらずあたかも弔いの気持ちが強い顔をして、「祭日にしませんか」と言っている。そういう歌ではなかろうかと思います。
「語弊があるので」の言葉選びが的確ですよね。「不謹慎なので」とか「良くないので」では皮肉感が出ないところを、この1単語で随分見え方がちがう。「まるでお祝いしたいみたいじゃないですか、それは語弊がありますよ」と言い、祭日は神道では死者の霊を弔う日ですから、提示するものとして正しい。
微妙に傍観者感もあって、たぶん国葬すること自体に強く意見する気持ちもなさそうなところも面白いです。お祝いしたいというより、「お祝いしたいと思ってる人もけっこういるみたいですよね、わたしは違いますけど」などと、言わんでも良いことを言っているのかもしれません。変なところに刺さってしまうような、すごい歌だと思いました。
うたの日ではどんまいのお歌でした。正直ビックリで、わたしならハートを付けたと思います。それくらい好きな歌でした。
他の歌もいくつか引いておきます。解釈に一定の知識を要求することが多くて、難しいというよりは、文脈が分からないと読み解けないものが多い印象です。言葉自体が難しいことは多くなくて、だからこそ単語検索して理解できるものではないというか。
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