今はただ白い雪野をふざけてるように歩んでゆくのが正しい/不凍港

昨夜、不凍港『不凍港』から10首を選び、作者の不凍港(ふとうみなと)さんとあれこれ話をするスペースを楽しく終えて、特に言い残したことはないのですが、せっかくなのでこの一首について書き残しておきます。

文末に10首選すべてと、歌集購入ページを書いておきます。あと9冊ですってよ!

まず、結句「正しい」の力強い言いきりにどきりとします。正しさを無造作に掲げることそのものは、詩から遠い態度のように思います。しかし、今回の正しさは「ふざけてるように歩んでゆく」という、ひどく緩やかな時間の中にあります。キリッと行進するような正しさを押し付けられれば反発したくもなりますが、ふざけ歩きのようなことが正しいと言われてしまうと、そうかもしれない、と腑に落ちる読者は多いのではないでしょうか。

なんとなく、登場人物はふたりのような気がします。大切な人とふざけ歩く掛け替えのない景を思い浮かべます。読者の過去と共鳴すれば俯瞰的と感じるかもしれませんし、現在と共鳴する読者には主観的なうたに感じる歌かもしれません。

「白い雪野」は、誰も踏み荒らしていない雪原に、ふたりで足跡や、ときどきふざけて倒れ込んだり、いろんなあとをつけていくような想像ができました。まっさらな雪野にはわたしたちの痕跡が残りますが、それほど時経ずに消えてしまうことになるでしょう。この道行きは何も残さないのかもしれない。それでもそれを「正しい」と言いきるからこそ、初句「今はただ」が未来の不確かさを暗示し、よりこの時間の掛け替えのなさを感じます。

雪の短歌はいくつもありましたが、選の中にはこの一首しか入れませんでした。歌集で読んでほしいなあ。

ぶつければただの手であってそれでも確かに君と繋いだ手だな/不凍港

堤防の並木にかくれあてもなく歩いた午後を忘れられない

切株は切株のまま今出川図書館前を動けずにいて

今はただ白い雪野をふざけてるように歩んでゆくのが正しい

せんそうだと知っていたらこんな時間まで蝶を追いかけなかった

僕が生き急ぐと君は面白がって付き合ってくれる ダメじゃんか

受験生、高校生、あなたを好きでいることの順に終えていった

おとぎ、ば、な、しのよ、お、な、ふしぎ、な、こ、のせ、かい、はリコーダー練習の時間

本当に会いたい人は一人しかいないのに指で消そうとする線

それはもうゲームシステムによるくないすか愛で死ぬか生かされるか

https://kokeshi777sada.booth.pm/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?