【小説】僕の神様【さくらいうみべ様絵】

さくらいうみべさまの素敵な絵からイメージした二次創作です。(画像4枚目。一応閲覧注意。血液絵です)
他にも素敵な作品がたくさんあるので見てみてください!

「ねえ、許してくれる?」
 彼女はいつもそう言って僕を見た。その度に僕は彼女の柔い髪の毛を撫でたんだ。

 僕はよく、とてもつまらない、取るに足らないようなことで彼女を叱った。夕食の味付けが濃いこと、シャツにしわがあること、シャンプーの位置が昨日と違っていること。彼女はけして言い返さず、しかし興奮する僕をじっと睨みつけた。その威圧的な態度に僕はさらに声を荒げた。時には暴力に至ることもあった。嘘だ。僕は毎回のように彼女の白い頬を殴りつけた。すべすべの柔肌が苺のようにぶつぶつと赤く傷むのを見て、僕はようやく彼女が愛おしいことを思い出す。
 僕が正気に戻るのとほぼ同時に、彼女は一言、ごめんなさい、といじらしく呟く。大粒の涙を一筋流しさえする。最初からそうすればいいのに、そうすれば僕は彼女を傷つけずに済むのに。そんな言葉はもうすっかり忘れてしまって、僕は恥ずかしげもなくその細い腰をしっとりと抱き寄せる。彼女は目を伏せて、ねえ、許してくれる? と上目遣いに僕を見つめる。返事の代わりに、熟れた果実のようなその頬に、優しく触れるような口づけをする。

 もうしないよ、と、自分に言い聞かせるように彼女の耳元で囁くのだけど、僕はいつもいつもそれを忘れて彼女をなじってしまう。出かけたいのに雨が降っていること、窓を開けたら小さな虫が入ってきたこと、夕方の西日が眩しすぎること。一度気に障るともう、目の前が真っ赤に染まってしまって、止まらなかった。もはや中身のない、惰性のような罵声を浴びせ続けても、彼女はその挑戦的な目つきを変えようとしない。結局僕の手が乱暴に伸びる。
 頬、太腿、二の腕、腹、首。白いシーツのようなその全てが、赤汚く染まっていく。海にタンカーの黒い油が漏れ出ていくように。汚していく。壊していく。もう僕の手には負えなかった。

 熟しきって潰れかけた彼女の身体は、痛みに震えながらも僕のそばにふらふらと寄ってくる。やめてくれ。もう近づかないでくれ。もう君を傷つけさせるのはやめてくれ。僕の手の皮膚はボロボロに破けて血が滲んでいた。それでも彼女の声は、優しく健気に僕の耳を容赦なくつんざく。

「ねえ、私を、許してくれる?」
 傷だらけで僕を見つめる彼女は、鮮紅のドレスをまとった神様のようだった。

 僕はいつもと同じように、彼女の艶やかな髪の毛を撫でた。頼りない腰をぎゅっと支えた。もうそうするしかなかった。神様の前では。
 許して欲しいのは、僕の方だ。懺悔するように、祈るように、彼女を抱きしめたまま床に崩れ落ちた。

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