猫のプシュケ【原文】
2013年に発表した絵本『猫のプシュケ』の元の文章です。
(ほんの一部修正しました。)
楽しんでね。
猫のプシュケ
港の街に一人ぼっちの女の子がいました。女の子はことばを話すことが苦手で
小学校へ行っても一人ぼっちでした。
あるあたたかな春の日のこと。女の子は悲しくなるといつも、家の近くの浜辺へ貝がらをさがしにいきます。きれいな貝がらをさがしていると少しの間だけ、かなしい気持ちを忘れることができたからです。
でもその日みつけたのは、小さな小さな猫でした。真っ黒なからだに、キラキラとかがやく金色の瞳に女の子は夢中になりました。
女の子はいつかの晩にお母さんが読んでくれた絵本をおもいだしました。愛のかみさまが永遠の恋におちるはなしでした。女の子はそのはなしをきいた夜は星のかがやきがましたようにおもいました。そして、猫の瞳をみているとその夜の星とおなじようにみえたので、その愛のかみさまの恋人の名を小さな小さな猫につけたのでした。
この日から、小さな女の子と小さな小さな”プシュケ”のせいかつがはじまりました。女の子は大事な宝物がふえたときのように元気になりました。猫のプシュケもすくすく大きくなりました。女の子と野原へ行くと大きなバッタをつかまえては女の子に自慢げにみせるので、女の子は「きゃー!」と声を出して驚くのでした。
ふたりはまいにちまいにちいっしょに遊びました。プシュケは風呂がにがてだったのでお風呂いがいは、ふたりはずっといっしょでした。
すっかりこころの元気をとりもどした女の子はじょうずにことばもはなせるようになりました。そして友達もすこしづつふえていきました。
一方猫のプシュケは女の子に恋をしていました。もうずっとまえに名前をもらった頃からでした。でもプシュケは叶わない恋だと知っていました。
そうして月日は流れていくうちに、女の子の友達は増え、友達と外で遊ぶようになりました。そういうとき、プシュケは一人ぼっちでした。
そして、大人になった女の子には恋人ができました。プシュケは彼が大嫌いでした。プシュケの目の前で女の子の肩を抱いたり、髪をなでたりするからでした。でもプシュケは、毎晩女の子のベッドで丸くなったり、毎朝キスをして起こすので、彼に負けた気にはなりませんでした。
プシュケは毎晩毎晩、眠る女の子を見ては、月に願うのでした。”どうか女の子への愛が伝わりますように...”と。プシュケは毎日女の子へつたえました。むかし女の子が小さかったころは、つたえることができたからでした。
そういうときプシュケはぎゅっと抱きしめてもらえました。でも今は女の子にはつたわりません。
プシュケが”愛しているよ。ぼくの愛のかみさま。”というと、女の子は「ごはんはもうないよ」といいます。
プシュケは毎晩泣きました。こころがどこにあるのかも、涙はどこからくるのかも、プシュケには考えてもわかりませんでした。
ある晩お月さまがプシュケにいいました。それはプシュケにもわかっていたことでした。プシュケはもうずいぶんとしをとっていたのでした。でもプシュケの目の前にひろがる世界も、プシュケのこころもむかしと全く変わっていませんでした。
そうして、さいごのよるのこと。いつものように、女の子がいいます。「おやすみ。わたしのプシュケ。」プシュケもいつものようにこたえます。”おやすみ。僕の愛のかみさま。”
女の子がねむりについた頃、プシュケも永遠のねむりにつきました。おつきさまが空に一番高くのぼってかがやいていました。
女の子はその夜不思議な夢をみました。プシュケとであったあの浜辺で、プシュケとまだ幼い女の子が遊ぶ夢です。女の子が今までで一番きれいな貝がらをみつけてはしゃいでいると、プシュケがこういいました。
「僕のかわいいかわいい愛のかみさま。僕はいつのまにかきみをうんとおいぬかしてとしをとってしまったよ。きみはもう一人ぼっちじゃないけれどいつまでもきみを愛しています」
女の子はそのことばをはっきり理解できました。とてもとてもこころがいたみ、プシュケを抱きしめようとしたとき、プシュケはすーっと波とともに消えてしまいました。
この夢はおつきさまのはからいでした。その夜の星はプシュケの金色の瞳のようにキラキラとかがやき、プシュケのからだのように深い漆黒で、永遠の愛の色によくにていました。
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