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わたしが仮にサブミッシブだったとして(香菜と、頼子と加菜子のはなし)

こんにちは、私はマゾヒストを自称していますが、サブミッシブを自称してはおりません。

サブミッシブ、と言っても最近のBDSMカルチャーに明るくない方はなんのこっちゃ?と思われると思いますので、簡単に説明しますね。

フィフティシェイズオブグレイが流行源らしいんですが、私は不勉強ながら見てないのでそこは割愛。

D/s(Dom/sub、ドミサブ、ドムサブ)というのが、最近SM界隈で流行っています。(流行ってるなんて言い方すると怒られそうですが、流行ってるだとおもいます、私は)
これは、ドミナント(主)/サブミッシブ(従)という関係性に重きを置く人たちのことです。従来のサドマゾヒズムがプレイでの加虐、被虐に重きがあったのにくらべ、精神的な主従みを重視すると言うと近いでしょうか。
もちろん、その関係性のあり方はその人たちによって千差万別で、普段からバリバリ主従してる人からプレイ中に主従っぽいことをしているだけの人まで、様々です。
「僕はSです(Mです)」といった自己紹介が、マスコミやメディアでの軽いSM(責めるのが好き/気持ちよくされるのが好き)まで広がった結果、BDSMを嗜好する人達はSであるMであるという自己紹介を信じられなくなりました。
その結果、ある程度BDSMに理解があるんだよ合言葉としてドミサブが使われています。まあ、今となっては、何がなんでもえっちなことしたい!マゾはなんでも言うこと聞くんだろ!タイプのお猿さんにまで広がりつつあります。残念ながら今は自称ドミ男本体猿さんが増えつつあるのが現実です。

で、私は自分のことをサブミッシブと自称したことはないです。たぶん。
でもおかしいですね? 私は過去に何度も「導かれたい願望」の話をしています。
筋肉少女帯のうた「香菜、頭をよくしてあげよう」の香菜になりたくて、誰かに泣ける本を教わって名画座に連れていかれたい人生だった。
この「導かれたい願望」はかなりサブミッシブ的であるような気がしませんか? 自分ですらそう思います。

悶々とそんな事を考えていた時に、ふと思い当たったことがあります。それが、頼子と柚木加菜子の関係性です。
(奇しくも、かなとかなこ、なんだな私のキーとなる女は)

柚木加菜子は、名高い京極夏彦の「魍魎の匣」の登場人物です。ここからは魍魎の匣のネタバレに配慮せずにガンガンかましますので、嫌な方は魍魎の匣を読んでください。

「頼子と柚木加菜子の関係性」と先ほど書きましたが、もっと正しく言うと「頼子が柚木加菜子を突き飛ばした理由」こそが、私がサブミッシブを名乗れない、導かれるものとして生きられない理由なのです。
加菜子が電車に轢かれるところから物語は始まります。なんやかんやあって、目撃者である加菜子の友人の頼子は「黒衣の男が突き落とした」と証言します。そこから色々あって京極堂が憑き物落としをするのですが、この加菜子を突き落とした犯人が、頼子です。
物語の冒頭から、本当に冒頭から彼女は動機を言っています。

「靤(にきび)が」と。
※漢字皰のほうでしたっけ? 何も見ずに書いてるので漢字までは忘れました……

頼子にとって、「完璧な存在」であった加菜子。大人びた難しい本を読み、夜の散歩をし、月の光を浴びて輝いていた、まさに頼子にとって導き手であった加菜子。
頼子はそんな彼女の完璧性のなかのほんの小さな「ニキビ」という瑕疵を認めることが出来ませんでした。
それが魍魎の匣の物語全ての始まりです。

これじゃない???
もう、これだよ。

当たり前の話として、完璧な人間は存在しないです。完璧に近い人間がいたとして、四六時中も永遠にも完璧であるなんて不可能なんです。
髭も生えるし体毛も生えるし、風邪もひくし怪我もするし、会社員なら上司に怒られてムカッとすることもあるだろうし、阿呆なこと言ったりするし、私が知ってることを知らなかったりするし。

仮に私がサブミッシブだったとして、ご主人様がもう文句付けようのないドミナントであると思ってしまったら、
完璧性が失われた瞬間に、きっと突き飛ばしちゃうでしょう。

とはいえ、そもそも完璧でない人に着いていくほど、私のプライドは低くありません。完璧でない瑕疵の部分を受容し、愛していくとき、そこにある感情は慈愛であって「導いて欲しい」とはまったく違うものです。
もしあの歌詞の通り、恋が終わったあとの香菜が10年後、20年後に「僕」に再会したとしたら、香菜のほうが「僕」を導いてあげるような、そんな気がします。本や映画ばかり見ていた「僕」に、現実の生き方を教える香菜。
それはそれでとても素晴らしいことでしょう。

いつか導き手が逆転する関係は、そりゃもうD/sの範疇の話じゃねえんだわ??? となるわけです。

結局、仏に逢うては仏を殺し、神に逢うては神を殺し、そうしてすくすく自我を育ててきた私は、誰か一人を盲目に信じることに向いていないのです。

結局は、地球の男に飽きたって話です。


【私ちゃんへ】

世の中の人、そんなことまで考えてないと思うよ

わたしより

面白い本の購入費用になります。