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きいろちゃんの短歌まとめ 11

記憶ではぜんぜん足りず記録する あなたと食べる全てのパスタ

君はもうまともな大人に成り果ててタイムカプセルを掘りにも来ない

雑炊をざつに作って日本酒を追加で頼む関係だった

楽しみにしていたはずの続編を読まずに積んで年が暮れてく

ふるさとで笑ってた頃思ってた三十五歳はこんなんじゃない

いつものじゃないんだ今日は裏切りの期間限定茄子味噌つけ麺

まだ君が正方形であったころの辺の長さを忘れられない

贈り合ううちに孤独は変形し白くて小さい子犬になった

自分だけ好きならよかった 嫌われる怖さがぼくの脛をこすった

限りある世界ですけど今日もまたふたり並んで炒飯定食

もう何に耐えてるのかさえ分からずに最終電車に持ち込む孤独

真夜中にふたり揃ってヒトを脱ぎ、異形のままでミルクを啜る

賞とかに縁は無いけどこの歌はまあまあ自分らしくて好きです

この街で君は私の神さまで「I♡歌舞伎町」の後光が差した

なりましょう、代打救世主(メシア)に あなたから涙が消えるまでのあいだは

ライターの火をつけられずに笑われたところが土曜のハイライトです

またあした作るときには変わってる味も我が家のカレーらしさで

目と鼻と口を備えて人類はだいたい相似してるんだけどな

素揚げした茄子を添えれば独りでもちゃんと生きてるような気がする

使い切った優しさを補充するために今夜もミルク風呂に浸ろう

一年にひとつずつ買う犬の絵で我が家はすこし騒がしくなる

「珊瑚って動物なんだ」と酔うたびに語る君との百度の逢瀬を

色褪せた図書室の隅に隠された、ぼくにはあれが知恵の実だった

少しずつ潤いが減る肌を抱くあなたは変わらず温かくって

弱くなることも許され新居には白い子犬の絵を飾ります

忙しいだけだろうとは思っても鳴らないスマホはやけに静かだ

夕闇が迫りくる街 デパートの屋上でふたりきりで眺める

永久歯さえもだいじに出来なくてプッチンプリンをそのまま食べる

諦めることばかりやけに上手くなり私は大人になったのだろう

溶けかけの飴といっしょに感情を噛み砕いては飲み込んでいる

「仲いいよ、ふつうに」なんて言われるしふつうにカレーは大盛にする

瑕疵があるから人間は愛しくてえぐみがあるからまた食べたくて

王国は奪還できず お布団のど真ん中から猫が退かない

束の間の午睡よ、大人のわたくしも不思議の国へと迷い込ませよ

美しく涙を流しわたくしは上手に夏の被害者になる

あの夏の絆は消えず文庫本の栞にしているライブの半券

秋深し 開園したてのリス園で胡桃を齧る音だけ響く

かんたんに奇跡を起こすため今日もSNSで君を見守る

どうしても埋めたい隙間に注ぎ込む恋愛漫画に共感出来ない

運命を賭けるとばかり前髪をあともう3ミリ切る木曜日

抜け落ちたマツエクがやがて地に還り恋が咲いたらまたマツエクする

生きるのが上手な人はガムを飲むタイミングすらも分かるのでしょうね

どこまでも歩いていこうpollyanna ピザは太陽みたいに丸くて

パンドラの箱ならよかった、休み明けのメールボックスに希望などない

推し以外をハズレと思いたくなくてランダムグッズを買えないでいる

大さじも小さじも勘でレシピには起こせず名前もつかない日々だ

劣情を隠して頼む日本酒でうずら醤油漬けをむさぼる

昔ほど奇抜な服が選べずにそれでもわたしを認めてほしくて

わたくしの世界は睡蓮鉢のなか 君が作ったビオトープに棲む

恋人が出来るにつれて淋しさはインフレしていき東京は秋

歯並びも矯正されて生き方を間違うことに臆病になる

赤色の記憶が揺らぎ枯れ朽ちた曼珠沙華ばかりやけに目につく

すこしずつ強い部分を手放して弱いふたりになって寄り添う

大切にされたい例えば満月の日には電話をしてくれるとか

また今日も死ぬことばかり考える 冷蔵庫にまだ茄子があるはず

誘うのが苦手でごめん 今日もまた近所の猫の写真を送る

ひき肉になってあなたと混ざり合い美味しいミートドリアになりたい

白シャツをカレーうどんで染め上げて知らない街を行進しよう

強すぎる意志を隠した黒髪で息をひそめて生活をする

この秋の主役は僕で陽キャらの声も魔法で風景にする

「生きているみたいですね」と道端のビニール袋に声かければ雨

何年も放置していた鞄だし、もうないパン屋のシールもあるし

心臓の脆い部分にあてがえば貴方の言葉が浸透していく

ヒーローが参上してきて高熱の私にハーゲンダッツをくれた

平日の新宿御苑は異界めき四阿(あずまや)でふたり途方に暮れた

恋人になる気はないと釘を刺し「ふたり」に新たな名前を付ける

失くなったペットボトルの蓋たちが高天原へと亡命して行く

恋情を共有したくて君が好きそうなケーキの写真を送る

丸井戸を降りた先にも春があり、あなたがいない異界を生きる

八月を駆け抜け少し気が抜けている間に秋刀魚が通り過ぎてく

地続きのふるさと遠く地続きの小さき自分が思い出せない

熱狂の教祖になろう、よく知らんフェスでいちばん大声を出す

おしまいの予感まるごと飲み込めばモンブランケーキはほろ甘くなる

生きるのに必要のない歌だからあなたに読んであげたいんです

様変わりしても母校へ行く坂に二十歳の私の気配が残る

感情を貰った分だけ返すためカレーのお肉を多めによそう

人工の流れ星には願いごと叶えてくれる犬が住んでる

隈取りのフェイスパックをつけたまま書いたメールが切なくならない

何人も忘れてこれたし大丈夫、長夜におでんがじんわり染みる

わたしにも原罪があり今晩のカレーに林檎を入れ忘れました

手遅れになってしまったこの街の全てにふたりの想い出がある

こんにちは、まだポン・デ・リング好きですか? 私はひとりに慣れてきました

人間はやめた私はペンギンになるので明日は有給にする

遠雷や きっと何処かの楽園で犬らはあなたを思い出してる

青春の舞台装置としてぼくは夏の終わりに蝉を降らせる

でも同じ夢は見れないそれぞれの心で孤独を進化させてく

泣き疲れ眠ったはてに見た夢が幸せすぎて泣いてしまった

罵ってくれることさえなくなって諦念満ちる十七年目

性能で選んだレンジは古ぼけてホットミルクが優しくなった

それぞれの速度で生きるわたしなら暫くここでお茶にするから

ペンギンのぬいぐるみ二つ置いたまま 机のうえでは恋人のまま

ママチャリで国道を行く青春はブックオフへと続いていたり

そこにいる気配があって新月の闇がぼくらを(ひとりを)包む

夏からの犯行声明 夕立の匂いに干したシャツを想った

わたしにも勇者の名残が残ってて別れのLINEを送る 朝だ

きっとこれは涙になるはずだった水 ポカリの結露ごと飲み込んで

アパートの前でくつろぐ黒猫に不安はあるかと尋ねてみたり

未来から訴状が届き五年後も何とか生きていることを知る

わたくしを養分として咲く花に言葉をつけてください かしこ

飼い獏がぶくぶく太る起きている時間が減った老猫のわきで

轟音に震えるぼくはいつ消えた 打ち上げ花火を眺めて冷酒

リモートでなんでも出来る時代にも触れたい人には触れられなくて

気狂いの指揮者によって夏空の明るさのままではじまる驟雨

玄関の木彫りの熊と目が合って あ、鮭フレークまた買い忘れた

人間は自分で機嫌を取れますが、犬は取れない。早くお帰り

逢うたびに泡風呂のもとを持ち帰るラブホテルの夜を夢とせぬため

物言わずスクショを撮ってアプリ消す上司が出てきたマッチングアプリ

何をして生きているのかわからないインチキおじさんみたいに生きたい

空っぽの箱を天まで積み上げてきみは笑った神様みたいに

愛情はルビンの壺めき足枷のようにも見えて、幸せですか?

半熟の黄身が上手に出来たとき見せたい相手が好きなひとです

おじさんがポメラニアンに囲まれたウクライナからのインスタ止まる

単純な引き算である世界引くわたし、イコール、きみ⊂世界(きみはせかいにふくまれている)

願掛けのように髪は伸び続け今年もあなたのとなりの夏だ

傷ついたとか簡単に言うけれど、本当の傷はこれからつける

白鳥が帰る頃には帰ります 鳥海の山のふもとの町へ

平然とトンボの羽をもぎ取った彼が佇む銀行窓口

はじめての痛みのあとでひとり立ち自販機で買うなっちゃん 甘い

繰り返す前世の痛みに処方するショートケーキ(遺伝子組み換え)

突然の誘いにほとんどスッピンで飲みに行く日がしあわせなので

AIに君のすべてを吹き込んで君をわかったつもりの夏だ

ゆっくりとアスパラガスに肉を巻き延命していく君がいる夜

八本の脚を動かす複雑さ あなたを救う手順のひと

スコオルと晴天交互に繰り返し過ぎゆく時よ八月九日

面白い本の購入費用になります。