狂乱心酔ラブよかバカ

夜はいつも限定された。
夕方から終電まで。
密室しか、だから居場所がなかった。
人形にはなりたくないと握り拳を振り上げた。白い壁を叩いて喚いた。
平然とあの男は言ったの。
「君は人形じゃない。僕の綺麗な入れ物だ」って。
私には人形と入れ物の違いがわからなかった。
10代だった。
自分の体が何かを入れるためにあるとは思えなかったけれど、始まると体は彼の言うようにいとも容易く入れ物になった。
そうなるともうどうでもよくなった。
時折、視線を留めるために色を探した。
だけど見つからなくてきつく目を閉じた。
痛いのには慣れなかった。
だけど痛みに声を上げる度にため息が被さった。
気持ちよくなんてないのに。
私を繋ぎ止める手段は目しかなかった。
だから、男の首を噛んだ。
噛みついた。
彼は怒らなかった。
面白そうな顔をした。
まるで戦利品を手に入れたように。
縛られたのはそれからだ。

入れ物に縛る必要なんてない。
私は生き物で、人間で、女。
あなたの女。
好きにして。

終わると本を読まされた。
そそらない内容の本を読んだ。
世界は穏やかに満たされていた。
快楽を知るのはもう少し後になる。
だけど、私は手首の跡に平穏を見つけた。
ああ、やっとと涙ぐんだ。

だって、知らなかったんだもん。
性愛には終わりがあると。

それから入れ物は
色んなものを入れられた。
突っ込んでと懇願する頃には、痴態という媚びを覚えた。

夏だった。
それは、唐突に来た。

そして、私は全てを失った。
全てを。

哲学も、倫理も通じない世界に私はそれから痛めつけられた。人格は崩壊した。

誰も助けてくれなかった。

人は私の外見を褒める。
入れ物なんすけど。
私は嘲笑することを覚えた。

月日はながれ、
母親になった私は、この体から子供を産むことをやってのけた。

入れ物は内側から解き放たれるんだと、今は思う。

哲学を、倫理を、私はきちんと理解していない。
だけど、必要かもしれないとか、思ったりはする。

体は未だに当てにならないが、
私は余り賢くない頭を案外信頼してる。

バカだから。
バカだけど。

つまり、まだ生きるにはましかもとか思えるくらいおめでたい。

そんな仕上がりに満足はしていないが、ま、いっかと、夕方、ため息をつく。

まあ、悪くない。

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