金持ちに見えるじゃねえか

息子がD&Gのボクサーショーツを履いていた。
通常3枚500円だの百均だのが、ドンキになり、いきなりD&G。。
当然、私が買い与える訳ではなく、ましてや自分で買えるはずもない。
勿論、元夫の仕業。
高校生にブランドもの!否。
それは精巧にできたパチモノだ。
ブランドの価値もそれの持つ意味も知らない息子は嬉々としてそれを履いていた。
内実を知る私は途端に息子がアフリカ人に見えた。

元夫はアフリカ人のアパレル。服屋。
店に固執しすぎ、閉店を拒み、にっちもさっちもいかず最後は失踪した。
私は連帯保証人として、全てを被った。
いや、未だに被っている。
そして、
彼はまた、店を出しているのだ。

天才か、きちがい。

「それさ、ブランドものだよ。しかも偽物」

「まじで?!
あ、だけどいーや。もう履いちゃったし」

私はパンツを取り上げた。
「返してきなさい」
息子は返さなかった。
「履いてしまったものは返せない」と頑なに。
キャラメル色のライトスキンは、いつの間にか父親より背が高くなった。
この子は、外見のせいでそれは苛められ、今は同じ外見のせいでもてはやされている。

私は理不尽だろうか?
頭がおかしいのだろうか?
離婚まで、私は幾度、変わらぬ現実を前に途方に暮れただろう。
あれから2年。

後日、息子から報告があった。
父親に会ったらしい。

「聞いたらさ、なんでブランド物を売るの?って。
あの人さ、客が買う。
金持ちに見せたいからだ、だって」

金持ち。リッチ。
彼らアフリカ人は差別から切り離されない。
差別の方が彼らから切り離されては困るのだ。
世の中を支配するために弱者は常に必要なのだから。
同等の扱いを求めるなら
金か美が、才能が、とてつもなくいる。
平等なんか、ない。

リベンジ?
金持ちに見せることが?

私はすっかり考え込んでしまった。

息子はなにを思ったかこう加えた。

「偽物とか聞けなかった。
そんなことは、絶対に聞けない」

聞いたら、確かめたら、現実がわかってしまうものね。
私は、それを飲み込んで、パンツを洗濯機に放り込んだ。
一回の洗濯で見事に伸びきってしまったD&Gはそれでも柄がシャレていた。

今日も、洗濯日よりだ。
空が青い。

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