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営業部佐藤くんの距離感が近すぎる話

年初の仕事って張り合いがない。

営業さんも挨拶回りぐらいしかしないから、サポートに回る営業事務はもっと暇だ。

終業間際にフロアに漂う空気はだらけきっていて、なんだかレンジでチンしたお餅みたい。

とりあえず、「のし」がついた挨拶回り用のタオルを追加しておこうかな。

いつも頼んでいるメーカーのサイトを開いていると、背後に気配があった。


「へぇ、こういうタオルって結構種類があるんですね」


営業部の佐藤くん。3年目で、背が高くて今っぽいパーマをかけた男の子。

後ろから、パソコンの画面を覗き込むようにして話しかけてくる。


……ちょっと、……いやだいぶ、距離が近い。


振り向くこともできなくて、でも動揺しているって思われるのも、なんだか悔しい。

そのままの姿勢で、普段の声で、極力何でもないように答える。

「もんめ、って言って、タオルのふわふわ感が違うみたいなのよね」

「ふーん。やっぱりタオルって質がいいと違うものなのかな。浅野さんも、タオルにこだわってたりするんですか?」

ちょっと低めの声が耳に響く。

パソコンのモニターに佐藤くんの顔が映る。

縁が黒い眼鏡を、人差し指の関節で「くいっ」と持ち上げるようにした。

……いや、やっぱり距離が近いって!

「ど、どうかなぁ。今治のものとか、良いって言うよね」

「あー、実家がお歳暮とかでもらったりしてますね。結局使わずにしまっちゃってるんだよなぁ」

椅子の背もたれにそっと手を置かれた気がする……というか、置かれた。

フロアに人がいたらどうしよう!!??

必死で、佐藤くんとは反対側の方へ首をまわした。

びっくりするほど人がいない。

……みんな帰るの早くない!!??


「いま、フロアに人がいたらどうしよう、って思いましたか?」


佐藤くんが、そっと囁いた。

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