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証券取引等監視委員会の「勧告」:弁護士が解説

1.はじめに

はじめに、私自身の経歴について簡単に触れておきます。

私は弁護士資格を持つ任期付き公務員として、財務省関東財務局の証券取引等監視官部門で証券検査官を務めていました。

この記事では、証券取引等監視委員会(以下「委員会」)が行う「勧告」について解説します。

なお、証券検査の際して行われる「勧告」を念頭に解説しますので、内部者取引(インサイダー取引)で問題になる課徴金命令についての勧告についてはまた別の機会に話ができればと思います。


2.勧告の法的根拠

委員会が行う勧告の根拠となる法令は金融庁設置法20条となります。

金融庁設置法20条1項では、委員会が、証券取引検査等を行った場合において、必要があると認めるときは、行政処分その他の措置について、内閣総理大臣・金融庁長官に対して「勧告」をすることができると定められています。

「勧告」についての定義規定は金融庁設置法には定められていませんが、その意味するところは、「ある行動や措置を行うべきだと公的な立場から勧めること。」という国語辞典とおりとなります。

要は、金融商品取引業者に対して証券検査を行った結果、法令違反などの問題が認められてた場合に、委員会が内閣総理大臣・金融庁長官に対して、当該金融商品取引業者に対して行政処分(業務改善命令・業務停止命令・登録取消しなど)を行うよう勧めることが「勧告」となります。


なお、委員会自体には、金融商品取引業者に対して行政処分を行う権限はりません。

これは、委員会がいわゆる八条委員会(国家行政組織法8条に基づいて創設された合議制の機関)であり、三条委員会(国家行政組織法3条2項に基づいて創設された委員会)ではないことに由来します。

そのため、委員会としては、証券検査によって問題がみつかった場合に、委員会行政処分の権限を有する内閣総理大臣・金融庁長官に対して勧告を行うことにより、金融商品取引業者に対する行政処分権限の発動を促すことになります。


3.勧告の影響

勧告に至った事案については、検査終了後、速やかに公表することになっていますので、委員会のウェブサイトにおいて勧告の内容を確認することができます。

上記のように勧告そのものは行政処分ではありませんが、その後(※)に行政処分が行われることに加えて、勧告事案の公表に際しては、検査先の名称などが公表されることから、検査先にとっては公表にともなうレピュテーションリスクの影響もあります。


例えば、以下のような記事も確認できるところです。

日経新聞:千葉銀行、株主総会で頭取陳謝 仕組み債販売をめぐり


※監督指針の「Ⅱ-5-4 検査結果に基づく監督上の処分に係る標準処理期間」によると、「検査部局から勧告書若しくは検査報告書(写)を受理したときから、1ヵ月(財務局長から金融庁長官への協議を要する場合又は処分が他省庁との共管法令に基づく場合は2ヵ月)以内を目途に行うものとする」となっております。


そして、委員会からの勧告をうけて行われる行政処分には、登録取消しも含まれます。

最近の勧告事案においても登録取消しまで行われた事案が確認できます。

登録が取り消されてしまうとその事業ができなくなるので、これは非常に重い処分となります。


少しややこしいのが、上記のように財務局等が実施する検査であっても勧告を行うのは委員会となりますが、行政処分を行うのは基本的に管轄の財務局長となります(金商法194条の7第3項、施行令42条2項)。

これは、行政処分の権限が財務局長に委任されているからです。

そのため、委員会が行う勧告の内容は委員会のウェブサイトで公表されますが、勧告を受けて行われる行政処分がどのような内容であったかを確認するためには、金融庁や財務局のウェブサイトをみる必要があります。


4.弁護士の関与の重要性

検査で法令違反等が認められた場合、検査終了後に主任検査官から、検査で認められた法令等違反行為等及び留意すべき事項が伝達されます。

これを「講評」と呼びます。

検査で認められた法令等違反行為等の事実関係について、当局と検査先との間で意見に相違がある場合には、検査先は意見申出制度により事実関係や検査先の意見を書面(意見申出書)で提出することができます。

しかしながら、意見申出書の提出期間は講評が終わった日から3日間(講評が終わった日の翌日から起算し、行政機関の休日を除く。)と非常にタイトとなっております。

このようなタイトなスケジュールであることに加え、勧告が行われる場合の上記のような影響を踏まえると、検査先にとっては早い段階から弁護士が関与することが望ましいと考えます。


以上、証券検査における「勧告」について解説しました。この情報が皆さんの理解の一助となれば幸いです。

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