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金融商品取引法51条と証券検査

1.はじめに

こんにちは。

今日は、証券検査における金融商品取引法51条の運用状況について解説します。私はかつて弁護士資格を有する任期付き公務員として、財務省関東財務局の証券取引等監視官部門で証券検査官を務めていました。


通常、金融商品取引法に関する専門書籍を見ていると、金融商品取引業者等における行為規制は、金融商品取引法35条の3~45条に定められているとされています。

しかし、証券検査の現場における実際の運用においては、金融商品取引法51条(登録金融機関の場合は51条の2、適格機関投資家等特例業務の場合は63条の5第1項)も重要な役割を果たしています。これらの条項は、金融商品取引業者等に対する業務改善命令に定めたものになります。

(金融商品取引業者に対する業務改善命令)
第五十一条 内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

金融商品取引法51条

2.証券モニタリング概要・事例集の「法令違反行為別の勧告件数」の結果について


証券取引等監視委員会は、2017(平成29)年11月以降、毎年、「証券モニタリング概要・事例集」を公表しています。この報告書は、証券モニタリングを通じて把握した問題点等をまとめています。

その中の「法令違反行為別の勧告件数」では、直近数年間に勧告がなされた事例について、どの法令違反行為が、何件認められたのかの数字を、業態別(第一種、投資運用業、投資助言・代理業、第二種、適格機関投資家等特例業務)に公表しています。

令和4年8月付けの証券モニタリング概要・事例集の「法令違反行為別の勧告件数」によると、直近数年間の証券検査において、最も勧告がなされた法令違反行為は「業務の運営等に問題がある行為」で、その数は「11」です。

この「業務の運営等に問題がある行為」が、金融商品取引法51条(登録金融機関の場合は51条の2、適格機関投資家等特例業務の場合は63条の5第1項)のことを指すのです。

勧告事案においては、これらの条文の「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当すると認定されています。


3.最近の勧告事案について

例えば、最近の勧告事案において、「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当すると認定したものは以下のようなものがあります。


金融商品取引業者に対するもの

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2022/2022/20220617-2.html


登録金融機関に対するもの

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2023/2023/20230609-2.html


適格機関投資家特例業務に対するもの

https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2017/2017/20171107-1.html


勧告文に記載のように、証券取引等監視委員会においては、金融商品取引業者等の具体的な業務運営の状況を認定したうえで、当該状況について、投資者保護上問題あるものと認められるとしたうえで、「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」と認定しております。


4.監督指針について

では、具体的にどのような場合に、「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当するのでしょうか。

その参考になる指針として、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針があります。

同監督指針のII-5-2には、「金商法第51条から第52条の2第1項までの規定に基づく行政処分(業務改善命令、業務停止命令等)」と題して、行政処分の内容を決定する際の勘案要素が列挙されています。

その勘案要素は、大きく以下の3つとなります。「当該行為の重大性・悪質性」にはさらに8つの要素が、「当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性」にはさらに4つの要素があります。

  • 当該行為の重大性・悪質性

  • 当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性

  • 軽減事由


「当該行為の背景となった経営管理態勢及び業務運営態勢の適切性」の要素として、「内部監査部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。」、「コンプライアンス部門やリスク管理部門の体制は十分か、また適切に機能しているか。」、「業務担当者の法令等遵守に関する認識は十分か、また、社内教育が十分になされているか。」などが挙げられています。

また、「軽減事由」として「金融商品取引業者等自身が自主的に利用者保護のために所要の対応に取り組んでいる、といった軽減事由があるか。」が挙げられています。

これらのことから、行政当局においては、金融商品取引業者等が日頃からの内部管理体制の構築に注力しているかについても行政処分を行うかにあたり重要視していることが伺えます。


5.まとめ

このように証券検査においては、個別の行為規制の条文に該当しない場合でも、金融商品取引業者等の具体的な業務運営の状況に投資家保護上の問題があると認められるものについては、「業務の運営に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」と認定し、勧告を行っております。

監督指針の内容から、行政当局が、金融商品取引業者等が日頃からの内部管理体制の構築に注力しているかについて重要視していることが伺えることから、金融商品取引業者等においては、監督指針に記載の観点から、自社の内部管理体制の在り方等について見直してみるということも考えられます。

以上、証券検査における金融商品取引法51条の運用状況について解説しました。

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