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引き出しが、開いた

ニュースを追いかけてしまう

【ウクライナ】の今について
今の自分に出来ることなんて無いのだけれど
その国について少し心当たりがあった

ひまわり
チェルノブイリ
麦畑

すぐに思い浮かぶワードはこのあたり
しばらく考えて記憶の引き出しを開けていくと

10年程前に亡くなった義父が
海外で仕事をしていた時に
現地で秘書をしてくださったのは
聡明なウクライナの方だった

子どもが通っていた幼稚園には
ロシアと日本のハーフのお子さんもおられた

全く関わりが無い国でもない


20年程前に我が子と「育児サークル」に通っていた
家から10分程の公民館で20数名の母子と
保育士の資格を持つ「先生」が集まり
体操、ゲーム、工作、読み聞かせ等を楽しむ
子どもと母親たちの交流の場所だった

ある日、公民館の受付の方から
「見学者がいる」と紹介された

金髪碧眼(例えが古いな)のお母さんと
西洋画に描かれた天使のような男の子だった

その後から公民館横にある図書館の職員さんが顔を出し
「実は…」と話してくれた

見学に来た母子はウクライナから
留学生として来た方のご家族で、
2週に一度母子で絵本を借りにくるのだけど
来日されて日が浅く地域に馴染みもないので
図書館の職員さんが隣の公民館で育児サークルやってるから見てみる?と声をかけたと
(慣れない英語でなんとかやりとりされたらしい)

お母さんは躊躇っていたようだけど
部屋の入口でたくさんの子どもが遊ぶ様子を見て
男の子が一緒に遊びたい!と意思表示したそうで

先生や参加者に了解を得て部屋に招き入れると
始めはもじもじとお母さんの後ろに隠れていた男の子
どうかしら…?と見守っていると
お絵描きをしていた参加者の男の子が
大きな丸の中に小さな丸をいくつか描いて
色を塗り隠れていた男の子に差し出した

「アンパンマンやで!知ってるか?」

男の子はびっくりしていたけどすぐに
「アンパンマン!」と大きな声で答えて
二人はすぐに打ち解けた

見守っていたお母さんもようやく安心した表情になり

あとは体操もゲームも読み聞かせも(言葉はわからなかっただろうけど)存分に楽しんでくれた

途中におやつタイムがあり、見学者さんの分まで
数がなくて買い足しに行こうか?と
数人の参加者母で相談していたら
子どもたちが「ひとつあげるよ」「これもどうぞ!」と男の子に次々渡し、結局彼が一番たくさんの
おやつを手にした。

「ほんの少し日常会話くらいなら」できると言う
サークルの中のお母さんとウクライナのお母さんで
英語でやりとりして
またよかったら遊びにおいで!毎週この曜日と
この時間に私たちはいるよ!と伝えた

彼らはそれから二週に一度の割で遊びに来てくれた
図書館で借りた本を返しに来るタイミングで参加してくれたと思う

最初にアンパンマンの絵を渡した男の子とは
特に仲良しになったようで、その子が散髪して
五分刈りの短髪になったときには「おおーっ!」と
叫び声を上げてずっとその頭を撫で回していた
(ヒトじゃない生き物みたい!って言ってるみたいよ?と通訳をしてくれたお母さん談)

お母さんも男の子も徐々馴染んでくれた
言葉がなくてもこんなに楽しい気持ちを
共有できるんだな、と
(ちゃんと通じるに越したことはないが)感心した

いくつか解している日本語があり

「こんにちは」「ありがとう」「ごめんなさい」
そして「お父さん」「お母さん」「ぼく」


子どもたちは互いの名前を教えあおうと必死だったけど「たくや」が「ターク」「みほ」は「ミュー」になり
それがまた楽しくてみんなは自称を彼が呼ぶ名前に
合わせるようになった

モノの名前、色の名前、ポケモンのキャラクター
(これは覚えるの早かった!)子どもたちからその子へ
「ぼくたちのことわかってよ」
「きみのことも教えてよ」とする意欲はすごかった



五回か六回目の参加の時にお母さんが
少し申し訳無さそうに私たちに告げた
「通える学校が決まったので今日が最後です」

あぁ、そうなんだ
寂しいね、仲良くなれたのにね
私たちや先生がそう伝える後ろで
彼らは今日もはしゃいでいて

最後って本人も知らないと聞いて
じゃあ私たちもそれは言わないでおくね

いつものように体操して、ゲームして、工作して、
おやつしてから読み聞かせして
「じゃあ今日はここまで!」と
先生が最後の挨拶をした後

彼が突然言った
「あたらしくおぼえたことばがある」と
なんだろう?教えて?と促すと
彼は満面の笑みで

「さようなら!」と言い放って

照れ隠しに部屋を飛び出して行き
後を追いかけたお母さんともそれきりになった

しばらくは「なんであの子来ないの?」と
ぐずる子どもたちがいた
学校に通うんだって!お友達ふえてるといいね!
また遊びに来てくれるかもよ?
そんな言葉で宥め賺し、半年程経った時に
図書館の職員さんから
「来年あたり帰国されるそうよ」と話を聞いた

元気でいるなら、いいよね と
ウクライナから来た母子と私たちの関わりは
あの日の「さようなら」で終わった、と思っていた



そして20年経過して 今のこの状況


ロシアの侵攻を初めに聞いた時に
ずっとしまいこんでいた引き出しがいきなり開いた
血の気がひいた


あのお母さんは?あの子は?

ろくにフルネームすら覚えていない
ましてやニュース画像を検索したところで
流れた年月が長すぎて


あの子は立派な青年になっただろう
お母さんも変わらず家族思いの
美しい人のままでいるだろう


想像を巡らせるほどに残酷な現実に行き着く


あの子が戦いの場にいるのかも知れない
お母さんもお父さんも離ればなれになったのかも
詳しい事情は一切わからないけれど
決してあってはならないことが
私が知っている人の身の上に起きてしまった

考えても詮無いことか
ここで私が泣いていたって何も変わらないけれど
あの子が あのお母さんが
もしかしたら我が子で もしかしたら私に
なってしまうかも知れないのに

祈るなら どの神様が真っ先に願いを叶えてくれますか

お願いだから 無事でいて

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