「かわいいの再分配」〜動物への関心とけもフレの意義〜
こんにちは、丁_スエキチです。
「かわいいから」って飼うな
先日、とある番組でスナネコが登場したそうです。かわいいですね。
しかしながら、取材した先はスナネコを取り扱う「ペットショップ」であり、飼育環境はお世辞にも良好と言えない場所でした。そのような場所を取材することは、イエネコとは異なり本来野生動物であるスナネコを「かわいいから」という安易な気持ちで飼育するという世論の形成につながる可能性があり、それはメディアとしてどうなのよ、という話で炎上していたようです。
この問題はスナネコに限らず、絶滅危惧種であるコツメカワウソでも起こっています。カワウソかわいい。確か某絵具しんちゃんあたりでペットとしてのカワウソのネタが放送されて炎上していたような。
いずれにせよ、「かわいい」という理由で動物の安易な消費を行うことは大問題です。
イエイヌやイエネコのような、既に品種改良されてペットとしての飼育の方法論が一般的な動物でさえ、責任を持って飼育することが大変であるのに、ましてや飼育向きでない野生動物を安易に飼おうとするな。日曜7時半にダーウィンが来るのを待て。あるいは適切な飼育がなされている動物園に行け。
「かわいいは正義」はヒトのみにあらず
さて、「かわいい」によって動物が被害を被りかねない話でしたが、逆に「かわいい」によって動物が恩恵を受けることもあります。
至ってシンプル、「かわいい」と保全のためのお金が集まるのです。かわいいスナネコが視聴率を集めるのと同じです。
絶滅危惧種の保護にはお金がかかります。
WWTはヘラシギの実情を伝えるだけでなく、その見た目の可愛さを前面に押し出すことで募金を募ることができました。
絶滅危惧種を保護するためには――残念ながら――守るべき種が多くの人にとって興味深い見た目である必要があります。
溶けかけの小さな氷に乗っかって環境問題を象徴するホッキョクグマも、WWFのロゴになっているパンダも、結局つきつめてしまえば「かわいいから」象徴やロゴになっているわけです。絶滅危惧種のタガメやクモをメインにしたって広告塔にはならず、お金は集まらないのです。
絶滅危惧種の保護の寄付金は、その動物の目の大きさが重要な要素である、という話もあるそうです。
こちらの話を紹介している本は和訳もされているそうなので、春休みに読みます。(読んでないのに語ってすみません)
結局、見た目がかわいい動物は保護や保全の対象になりやすく、そうでない動物は注目されない、という不平等があるわけです。「かわいいは正義」のルッキズムは、ヒトだけでなく動物にも存在するのです。おそろしや
「かわいいの再分配」が起こった
さて、皆さんはけものフレンズというメディアミックスプロジェクトをご存知でしょうか。
「けものフレンズ」は、サーバル、カラカル、キタキツネ、コアラなど、フレンズとなった動物たちの大冒険を描く物語です。
世界中の動物を種類を問わずに擬人化していくという、今までありそうでなかったキャラクターとして誕生しました。
動物が擬人化したキャラクターを中心としたアニメ、ゲーム、漫画、舞台などの様々な作品をはじめとした、作品群およびプロジェクトであり、「原作である動物」のためにWWF ジャパンと協力してイベント会場やコラボ企画などで募金活動を行ったりもしています。(まぁ、一時期イベントで動物かり出してやらかしたことはある。最近は一応大丈夫)
実際、2019年のライブ会場の物販スペースのそばにはWWFの募金箱が置いてあり、少なくない数のファンが募金を行ったとされています。
また、けものフレンズが社会に与えた好影響としてこのようなものもありました。
アニメ「けものフレンズ」の放送により、登場した動物の検索回数および寄付額が増加した、という論文です。東京大学の先生がけもフレで論文書いた、というのがインパクトでかくて話題になりましたね。海外でも紹介されたようです。(閲覧数2千弱だけど。あとサムネがカバなのすこ。)
けもフレによって動物への関心が高まったのは、もちろんアニメの爆発的とも言える流行が大きな要因だと思います。しかし、それだけではないと僕は考えます。
けものフレンズは動物たちが擬人化によって「かわいい少女の表象」を纏います。もともとかわいいジャイアントパンダも、知名度の低かったアリツカゲラも、かわいいかと言われるとちょっと迷うアイアイも、皆等しく「フレンズ」というかわいい存在に変換されるのです。(アイアイ、ごめん)
「かわいい動物」も、非「かわいい動物」も、等しく「かわいいフレンズ」になる、いわば「かわいいの再分配」が起こったのです。
これまで「かわいい動物」の特権でありアドバンテージであった、興味関心の入り口、注目を集める見た目というものが、ぱっちりお目々の美少女キャラクターとして等しく擬人化されることにより、すべての「かわいいフレンズ」のものになったのです。
みなが等しくかわいくなることで、動物保護に蔓延るルッキズムを解決する、そんなブッ飛んだ解決策が「けものフレンズ」だと言えるのではないでしょうか。実際に、それまで注目されていなかったショウジョウトキが脇役としてのアニメ登場を機に注目を集めるようになるなどの効果があったようですが、もしかするとそれは「かわいいショウジョウトキのフレンズ」のおかげだったのかもしれません。
「かわいいの再分配」を広げろ
さて、けもフレにおける「かわいいの再分配」にも批判すべき点があります。
たとえば冒頭のスナネコ騒動。これがアニメに登場したスナネコやカワウソではなく、アニメやゲームに登場していないもっと無名な動物だったら番組をそもそも批判していたのか? そもそもフレンズ化されていない動物だったら? 今後もフレンズ化されないであろう魚類や無脊椎動物だったら? と考えることもできます。
「かわいい」擬人化がされているから興味関心が向いているのであって、擬人化されていることを知らない、あるいは擬人化されない動物には興味関心が湧かないのではないか? ということです。もちろん、そういった側面はあると思います。僕含め大抵のオタクはミーハーですし。
しかし、けもフレはそれに対抗する手段を持っていると思います。
まず、けものフレンズの二次創作として「オリフレ(オリジナルのフレンズ)」を作る文化が存在するということ。公式ではまだフレンズ化していない動物に加え、魚類や昆虫といったさまざまな生物を自分でフレンズ化する、そのような創作を楽しんでいるファンは決して少なくありません。我々ファン側が「かわいい」の再分配を行ったっていいのです。
そして、動物園・水族館とのコラボが沢山行われていること。動物園で飼育されているのはけもフレに登場した動物だけではありません。東武動物公園のワピチ(アメリカアカシカ)、羽村市動物公園のシマハイエナ。どちらもフレンズ化はしていないけれど、何度も動物園に足を運んだヒトなら知っているヒトも多いはず。多摩動物公園の昆虫園、オービィ横浜のメガバグズで昆虫について知ったヒトだって沢山居るはず。けものフレンズの動物園コラボをキッカケにして、これまで知らなかった生き物に興味関心が湧くということがきっとあるはずです。それがたとえフレンズという「かわいい」の外にあったとしても。
まとめ
・「かわいい」動物の安易な消費は問題だが、逆に「かわいい」動物は保護の寄付金を集めやすいという動物版ルッキズムがある。
・けものフレンズは擬人化によって動物を等しく少女のキャラクターに変換、つまり「かわいいの再分配」を行い、ルッキズムを解消している。
・擬人化による「かわいいの再分配」が行われていない生き物も、オリフレ文化と動物園・水族館コラボによって興味関心の対象になる。
スナネコの扱いに苦言を呈するのはアニメに登場した動物だからに過ぎない、という側面はたしかにそうかもしれません。でも、そもそもけもフレが無ければスナネコのかわいさも習性も飼育の大変さも知らないままだったはず。けもフレをキッカケにして、けもフレに限らず様々な生き物に、そしてさらには自然や環境なんかにも注目するような、幅広い視点を持っていけたらいいな、と思っています。
というわけでそんなけもフレをすころうぜ、というお話でした(違う)。
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