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【一人対話】失恋の方が勝ると思うんだ

登場人物
ぼく:僕です。
ぼく2:僕ですが、「ぼく」のアンチです。


ぼく「突然ですが、恋愛よりも失恋の方が勝っていると思うんですよ」

ぼく2「何言ってんだこいつ」

ぼく「まぁちょっと端折りすぎましたね。ある種の創作論において、恋愛ものよりも失恋ものの方が勝ると言えるのではないかというわけですよ」

ぼく2「端折らなくても何言ってんだこいつ」

ぼく「創作物の楽しみ方というのは人それぞれですけれども、キャラクターに自分を投影する形で楽しむ、というのも一般的な楽しみ方の一つだと思うんですよね」

ぼく2「それはそうだが。しかし、そういう楽しみ方をしないことも同じくよくあるな。壁なり神なり、第三者視点から創作を楽しむのも多いはずだ」

ぼく「もちろんそれはそう。しかしそういう場合であっても、あまりにも自分の思考回路や倫理観からかけ離れたキャラクターを受け入れるのって難しいですよね。共感できないキャラに対してストレスを感じる、というのは普通にあることでしょう」

ぼく2「それで?」

ぼく「さて日本は現在はちゃめちゃに草食社会になっているわけじゃないですか。恋愛至上主義と恋愛市場主義が入り乱れ、あぶれたオスはいわゆる弱者男性を名乗るわけです。恋愛――ここでは交際関係を意味しますが――そのレアリティ自体が上がっているわけなんですね。」

ぼく2「そうか? 昔の見合いやらなんやらで結婚してた人々だって恋愛結婚じゃないんだから、恋愛自体の総数は変わらないんじゃないのか」

ぼく「本筋はそこじゃありませんぜ。遙か昔から恋愛を描いた作品というのは娯楽だったんですよ。源氏物語、好色一代男、島崎藤村の初恋に三島由紀夫の潮騒、昔からそういうのはありましたけれどもね、どんどん大衆向け、ターゲット層を老若男女に押っ広げ、形を変えていってるんです。ロマンスの神様が歌われ、花より男子が流行り、逃げ恥の恋ダンスを踊るわけですよ。そして娯楽の幅は社会の発展と共に広がっていく、つまり恋愛にまつわる娯楽もどんどん増加していくんですよ」

ぼく2「おいおい、恋愛の娯楽が溢れている、つまり供給が多いんなら、価値が下がるのが道理じゃないか?」

ぼく「そうですとも、価値は下がりました。言い換えれば、恋愛は誰にとっても手が届くお手軽なものだ、という認識をする人が増えたということです」

ぼく2「そういう意味か。恋愛に対する価値観が変わり、恋愛がもっとポピュラーなものになったということか。だとしたらそれは娯楽の供給によるものよりも社会の変化によるものだと思うが」

ぼく「車輪の両輪ですよそんなの。さて、恋愛は皆手が届くもの、という間違った錯覚に我々は汚染されてしまったわけですが」

ぼく2「本性あらわしたな過激派」

ぼく「そうやって汚染された環境でも、恋愛に全くありつけない人間がいるわけですよ。もちろん望んでいるにもかかわらずありつけないタイプの人々です。恋愛が一般的な娯楽とされる社会で恋愛を望みながらも恋愛できない人がいる、そんな状況下では恋愛と失恋どちらが体験しやすいか? お答え下さい!」

ぼく2「……失恋。だがそもそも失恋も恋愛もしている人だって大勢いるだろうが」

ぼく「失恋したことないけど恋愛したことある人より恋愛したことないけど失恋したことある人の方が多いでしょうがッ! つまり全体の総数で見れば失恋の方が恋愛より体験人数が多い、つまり共感できる場面が多く普遍的、つまり失恋ものは恋愛ものより感情移入するタイプの物語の楽しみ方を行いやすいッッッ!!!

ぼく2「ちょっと待て! さっきも言ったが物語の楽しみ方はそれだけじゃないだろ! そもそも共感できるかどうかはキャラの性格や行動原理に対するものが主であって、シチュエーションや経験体験に対するものではないだろう! 体験で感情移入が決まるならハリー・ポッターやマーティ・マクフライにも共感できなくなるぞ!」

ぼく「ホラ認めたな恋愛なんて魔法やタイムトラベル同様のフィクションだってこと!」

ぼく2「んなこと言ったら創作物全部フィクションだろうが! それにフィクションを楽しむのは自分が絶対に達成できないことを投影したキャラ上で楽しむみたいなとこあるだろ! 空を自由に飛びたいなハイタケコプターみたいなもんだよ!」

ぼく「だが実際に体験することで作品鑑賞に奥行きが出るのは事実だろ! 競馬を見るとウマ娘がより面白くなるみたいな! それにインプットだけじゃなくアウトプットもでそうだ! 失恋の方がリアリティある創作が生まれやすい土壌があるはずなんだ! 恋愛は選ばれし人間にしか体験できないが失恋は誰に対してでも門戸が開かれているんだぞ! 新規参入の枠が幅広い、という点でも失恋は勝っているだろう!

ぼく2「それって勝る劣るが決まるものじゃないだろ! というかアレだろ、どうせお前が失恋経験しかないうえに、経験したものをベースにしてしかリアリティのある創作ができないからそう言ってるんだろう!

ぼく「ミ゜」

ぼく2「おい?」

ぼく2「おい、どうした? おーい」

ぼく2「死、死んでる……」


 というわけで丁_スエキチでした。言葉が刺さって出血多量で死にました。

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