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奈良岡功大 vs Lee Zee Jia (マレーシアOP2023) #データで観るバドミントンPart1

さて、ゲーム分析投稿の第1回目はマレーシアOP2023より、日本の奈良岡功大選手とマレーシアの Lee Zee Jia(以下ジージャ)選手の試合を取り上げて分析、解説をしていきたいと思います。試合動画はこちらです↓↓↓

バドミントンが好きな方だとご存知の方も多いかと思いますが、対戦相手のジージャ選手の説明を簡単にすると、こんな感じでしょうか。

  1. 身長が高く(186cm)、手足も長い

  2. 長身とパワーを活かしたアグレッシブな攻撃が魅力

とにかく長身から放たれるスマッシュにパワーがあり、攻撃を軸とした選手です。あの桃田選手をも倒したことがあります。
対する奈良岡選手は身長173cmと決して大きくはなく、プレースタイルとしてはテクニックとラリーで勝負する。と言ったところでしょうか。

両選手のざっくりとした紹介はここまでにして、早速本題に入ります。
収集した試合データ全てをお話しするのは難しいので、面白いデータをピックアップして、僕なりに解説をしていきたいと思います。

この試合の注目ポイントは奈良岡選手がどのようにして相手の長所を封じ、短所を突くか です。




攻撃をさせない為に

まず初めに、両選手がショットを何本ずつ打ったかをみてもらいたいと思います。上から3つずつ、主にコート後方からのショット、コート中央から、コート前方から、という順番になっています。

両選手のショットごとの本数

ご覧の通り、奈良岡選手はスマッシュが128本、ヘアピンが169本でこの2つが目立ちます。
対してジージャ選手はショートリターンとヘアピン、ロブが100本以上と、この3つがかなり多いです。
このデータだけでも、奈良岡選手のヘアピンから、ジージャ選手がロブ→奈良岡選手スマッシュ→ジージャ選手ショートリターン。こんなラリーが多かったことが推測できます。

本数だけでは割合が分かりずらいので、円グラフにしてみました。

奈良岡選手のショット割合
ジージャ選手のショット割合

奈良岡選手のラリーはヘアピンとスマッシュで50%以上を構成しているのに対し、ジージャ選手はロブ、ヘアピン、ショートリターンで約75%を占めています。奈良岡選手は5 本に1本はスマッシュを打っていますが、ジージャ選手は10本に1本しかスマッシュを打てていません。
ジージャ選手のショット割合だけ見ると、レシーブに自信があるディフェンス型の選手で、相手にわざとスマッシュを打たせているのかな?とも思えてしまいます。
あとで取り上げますが、ジージャ選手は長い手足を活かしたクロスリターンも得意で、そこから相手の体勢を崩して攻撃の起点にすることも多いです。
しかしこの試合に関してはジージャ選手がレシーブから攻撃に繋げるラリーをしていたと言うよりも、奈良岡選手がスマッシュを打たせなかった、ジージャ選手がスマッシュを打てなかったといった表現の方が正しと思います。

結論として、ジージャ選手の攻撃を抑えるために奈良岡選手が取った戦術としては、スマッシュを自分から打つというのが1つ挙げられると思います。
相手のスマッシュをどうするかではなくそもそもスマッシュを打たせないようにする方向性で、自分から積極的に攻めるという手段を取ったのではないかと思います。
その為に自分からヘアピンを多く打ち、相手にロブを上げさせるような戦術で試合をしていたと思います。

ここでポイントなのが、ヘアピンの精度が高くないとこの戦術は通用しないということです。パターン練習ではないので、ヘアピンを打てばロブが返ってくる、という訳ではありません。浮いたり、相手に読まれていたらプッシュされる事もありますし、ヘアピンを打ち返されてロブを上げる側になることだって当然あります。
ロブの倍以上のヘアピンを打っていたので、読まれたり対応されることもあると思いますが、その中でもロブを上げさせ続けた奈良岡選手のヘアピン精度の高さがうかがえるデータでした。


相手の弱点を攻める

長身でスマッシュが強く、長い手足でレシーブをしてくる、そんなジージャ選手の弱点とはどこでしょうか。
聞いたことがある方も多いと思いますが、ボディですね。
ジージャ選手に限らず、身長が高い選手はスマッシュに角度がつきますし、単純に届く範囲も広いので、何かと有利なことが多いと思います。
ですが長身選手の特徴として、ボディが弱いというのはあると思います。

「ジージャ選手のボディを奈良岡選手が狙って攻めている」というのはよく聞く話なのですが、実際どのくらいジージャ選手に効果的だったのかをデータで見てみたいと思います。

打球位置の割合

まず、コートを9分割し、打球位置の割合を見てみます。
(サーブレシーブも含むので、センター前が多くなっています。)
奈良岡選手の打球位置から、ジージャ選手は基本的には4隅に配球していたことが分かります。バック奥とフォア前が少し多いことから、ラウンドでスマッシュを打たせて、クロスリターンというジージャ選手の得意パターンがこの試合でも多かったことが分かります。
反対にジージャ選手の打球位置はフォア前が多く、他は大体同じくらいです。奈良岡選手がスマッシュを多く打っていたので、コート中央にも約27%配球していますし、ボディは8.4%と比較的高い割合で打っていることが分かります。センターもそうですが、フォア奥が比較的少ないので、フォア奥からのスマッシュは警戒していたのでしょうか。

次にジージャ選手のコート中央での失点についてです。

ミッドコート(コート中央)におけるエリア別の失点について

上からフォア、ボディ、バックの順で並んでいます。
総打数:そのエリアで打球した合計
相手エース:そのエリアに奈良岡選手がエースを決めた数
エラー:そのエリアでのジージャ選手のエラー数
相手エースの1打前:レシーブが浮いて次の球をプッシュで決められた、など
合計失点:相手エースとエラーの合計
右2つ:その本数÷総打数

相手エースではボディに決められた数が最も多く9本、相手エースの1打前も、ボディが最も多く10本でした。
合計失点ではボディが13本、バックが12本とボディとバック側での失点が目立ちます。

ボディは相手エースの1打前になった割合が21.7%、そのエリアでの失点率が28.3%と、かなり失点に絡んでいることが分かります。そのボディよりは低いですが、ほぼ同じような数値だったのがバックで、こちらも失点に多く絡んでいました。反対にフォアはかなり低い数値なので、比較的得意としているのではないかと推測できます。

ボディが弱点であるというジージャ選手の噂(?)は、この試合に限っては本当でしたね。ボディと同じくらいバック側も失点に多く絡んでいたので、バック側もあまり得意ではないと考えられます。反対に失点の少なかったフォア側は、相手を崩すクロスリターンや早くて強いドライブなど、得意なショットが多いエリアなのでしょう。


まとめ

奈良岡選手は、ジージャ選手に攻撃をさせないために自分からネットを切り、ロブを上げさせ、スマッシュをジージャ選手の不得意エリアに打ち込むという戦術を徹底し、勝利したと考えられます。
この戦術を貫けるヘアピンの精度と、狙い通りにスマッシュを打ち続ける体力、コントロールがあってこそなので、改めて凄さを実感しました。


追伸:バドミントンでのデータ活用について

ここまで読んでいただきありがとうございます。
初めてのゲーム分析投稿ということで、もう少し深掘りしながら、僕が今回書きながら改めて感じたこと、面白いな〜と思ったことを書いているので、最後まで読んでいただけるととっても嬉しいです。

まず、2ゲーム目の終わりのインターバル時の中西洋介コーチのコーチング(動画49:35~聞き取れた部分だけ)を要約するとこんな感じでした。
相手はバックハンドの対応が遅れてるから、フォアストレートとフォアボディはどんどん打って良い。」と、まさにコートサイドでのコーチの感覚と試合のデータが一致していて、そのようなコーチングをその場で出来る日本代表コーチの凄さを実感しました。

次に、奈良岡選手がフォア前でストレートヘアピン→相手がストレートロブ→フォアボディスマッシュという流れで得点したラリーが2本ありました。
2ゲーム目の20-17(48:38~)と、3ゲーム目の17-18(1:15:32~)です。
リプレイを見ているような再現性も凄いのですが、さらに凄いのがこの2本を決めている場面です。ファイナルに行くための2ゲーム目ラスト1点と、ファイナルゲームで初めて点数を逆転された直後です。
いわゆる勝負どころでフォア奥からボディスマッシュを打ち、2本ともしっかり得点していました。

少し話は逸れますが、今年のWBCで大谷選手がトラウト選手を三振に抑えて優勝したシーンは覚えていますでしょうか。三振を奪った球種は確かに強烈なスライダー(スイーパー)でしたが、空振りでストライクを2つ奪ったのは真ん中のストレートです。2球目なんてど真ん中です。あれはトラウト選手が意外とストレートを打てていないというデータがあったからこそ、あの場面で自信を持ってストレート勝負ができたそうです。
(Yahoo! JAPANの記事より)

(上を踏まえて対戦動画も是非!)

バドミントンに置き換えると今回のようにボディが弱い、バック側の対応が遅いというコーチや選手の感覚的な部分とすり合わせるためにデータを取り、試合中の戦術構築やコーチング、ねらいなどが正しかったかどうかの判断材料として利用することには十分価値があると思います。他の競技のようにリアルタイムでの情報戦略活動は難しいにしても、試合後のミーティング材料にしたり、大事な試合前のプランニングに使ったり、どうにでも使うことは出来ると思います。

特にジュニア世代や中高生などは引き出しが多くないので、おおよその配球傾向だったり、ミスが多いエリアやショット、スマッシュを決めてるコースなどなど、少しデータを取ってみるだけでも、勝てなかった相手に勝てちゃうなんてことがザラにあると思います。

また、相手に勝つためだけじゃなく、自分で自分の試合データを取ってみることで練習すべき弱点が見えてきたり、自分で気づいていないことに気付けたりと、こういうことをやってる人があまりいないからこそ、やってみる価値が大いにあると僕は思っています。

もし良ければ僕がやらせていただきます。
将来的にゲーム分析サービスをビジネスとして成立させられたらな〜とは思っています。
今回のデータはほんの1部なので、見せられるデータで全体を通してどのように収集・分析を行なっているのか、を次に投稿予定です。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
1発目と言うことで気合を入れすぎて長くなってしまいました。
これからもなるべく定期的に、こんな感じで勝手にゲーム分析して勝手な解説をする投稿を続けていきたいと思います。

不明点や質問等ありましたら、どうぞお気軽にコメントください。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!!!

#バドミントン #ゲーム分析 #スポーツアナリスト  
#バドミントンアナリスト #データで観るバドミントン




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