孤独のびっくりドンキー
『びっくりドンキー Advent Calendar 2017』14日の記事です。
第1章 大都会”トーキョー”
2017年6月某日——
東京
まだ6月だというのにこの日の最高気温は26℃と異例の暑さだ。
茨城に住んでいる私がなぜ東京に来ているのかというと、どうしても参加したかった勉強会があるからであって、決して今から向かう場所で昼間から自堕落な行為に勤しむためではないということだけ今のうちに言っておこう。
時刻は13時。
とにかく暑いしお腹がすいた。
満身創痍だ。
そんな私が向かったのは、そう——
びっくりドンキーである。
第2章 聖域”サンクチュアリ”
もしこの世の中に絶対的な存在があるとすれば私は間違いなく「びっくりドンキー」と答えるだろう。
何が絶対的かは自分でも分からないくらいそれは曖昧で抽象的なものになってしまうが、あえて更に分かりづらく伝わりづらい別の表現をするならばLIKEとLOVEのどっちも取りと言ったところだろうか。
とにかく私はびっくりドンキーが好きなのである。
照りつけるような日差しから逃れるように向かったその店内は、どこか茨城でも見たことがあるような、見る人が見ればとても騒がしい、見る人が見れば安心できる装飾の数々が施してある。
店内に広がるハンバーグの匂い。
どうして壁にギターや椅子が貼り付けてあるんだなんて考えさせられてしまうようなインテリアたち。
昼間だということを忘れてしまいそうになる暖色のライトが照らす店内。
席に案内されると現れる大窓のようなメニュー表。
その大窓を覗き込んで見えた世界に思わず「ああ、自分はびっくりドンキーに来たんだ。」と実感する。
ここはびっくりドンキーだ。
茨城でもない、東京でもない、びっくりドンキーなのだ。
第3章 憧れ”ロンギング”
私の住んでいる茨城は車社会だ。
無論、私も茨城にいる時は移動手段として車を利用している。
車を利用することでどうしても制限しなければならない行為がある。
それは飲酒だ。
飲酒を行った直後に車を運転することは決してあってはならない。
例えそれがびっくりドンキーからの移動であっても例外ではない。
私はびっくりドンキーでひとつの憧れがあった。
びっくりドンキーでお酒を飲みたいという憧れが。
席に着いてから5分ぐらい経っただろうか。
私は店員を呼び注文をお願いした。
「ナゲット&ポテトと、ハンバーグ&コロコロステーキ、それと……」
「ドンキーオーガニックビールを中で」
心の中で止まっていた時が動き始めた気がした。
第4章 真実”トゥルー”
ついにびっくりドンキーでお酒が飲めるという昂揚感に胸が躍りまくった。
そんなわくわくを抑えられない25才児の前にまず運ばれてきたのが「ナゲット&ポテト」だった。
太く短いポテトは男女問わず豪快に一口で食べられてしまいそうなサイズ感。
そして食感はカリカリとほくほくのバランスが絶妙だ。
思わず笑みがこぼれる。
心の中でうまいうまいと大騒ぎだ。
まだポテトしか食べていないのにこの高まり、ナゲットを食べたら一体私はどうなってしまうのだろう。
私はナゲットへ手を伸ばしかじり付いた。
しかしその味は驚くほど普通だった。
普通のどこにでもありそうなナゲット。
強いて言えば肉厚で食べ応えがあると言ったところだろうか。
いくらびっくりドンキーとはいえ何でもかんでも美味しいとは限らないか……。
あれだけ高まっていた気分も気付けば冷静になっていて、私はかじった残りのナゲットを一緒の器に載っていた薄茶色のソースに付けて食べた。
衝撃。
電撃。
感激。
心の準備が出来ていなかった。
口に広がる酸味、マヨネーズのようで味に深みがあるあのコク。
具現化した旨味成分とでも言おうか。
その薄茶色のソースは紛れもなくディッシュサラダに載っているあのソースだった。
普通が特別に変わった瞬間を私は文字通り味わったのである。
こうなってしまってはもはや冷静ではいられない。
心の中でマジかよ!マジかよ!と未だに状況を呑み込めていない自分がいた。
そこに追い討ちをかけるように運ばれてくるものがあった。
第5章 黄金”ゴールド”
かつて世界中を旅した冒険家マルコ・ポーロが日本を「黄金の国ジパング」と名付けたそうだが、私は目の前に運ばれてきた黄金色のそれを見て思わず納得をした。
憧れのアイドルを目の前にした際に、ファンが言葉に詰まって何も喋れなくなってしまうという様をテレビショーで散々見てきたがそれに近い感覚だった。
いや、少し違うかもしれない。
私はこの目の前の黄金と言葉が無くても分かり合っていたのかもしれない。
グラスに手をかけ、グッと流し込む。
エリクサー。
ファイナルファンタジーにエリクサーという体力と魔力を全回復できる最強のアイテムがある。
暑い気温の中、知らない土地での慣れない電車&徒歩移動に疲れ果てた身体を癒すそれは間違いなく私にとってのエリクサーだった。
クセが無く飲みやすい、そしてうまい。
何がどうオーガニックなのかは正直分からないが、ドンキーオーガニックビールはうまいという事実がそこにはあった。
そして私はこの味に、この瞬間にずっと憧れていたという事実も確かにあったのだ。
第6章 傑作”オールスター”
びっくりドンキーに来ると私は必ずハンバーグとライスそしてディッシュサラダが一緒のプレートに載ったバーグディッシュの中からひとつを注文する。
そんな私が頼んだ主菜がハンバーグステーキとコロコロステーキが一度に味わえる「ハンバーグ&コロコロステーキ」だ。
普段であれば絶対に頼まないであろうこのメニュー。
その値段はチーズバーグディッシュの300gと同じである。
ましてやびっくりドンキーに来てハンバーグだけでなくステーキ肉を食べようなどと、それは贅沢の極み。
注文した直後は正直ちょっと欲張りすぎたかと少し反省したが、その反省もこれを目の前にしたらもはや意味など成さなかった。
もしこの世の中に絶対的な存在があるとすれば私は間違いなく「びっくりドンキー」と答えるだろう。
そしてこの世の中で絶対に揺るぎないものがあるとすれば私は間違いなく「びっくりドンキーのハンバーグ」と答えるだろう。
それはハンバーグの悦びを教えてくれて、
それはびっくりドンキーの悦びを教えてくれて、
それは食べる悦びを教えてくれて、
それは生きる悦びを教えてくれる。
びっくりドンキーのハンバーグには生きる答えが詰まっている。
私はハンバーグをお箸で切り分け頬張る。
そこにドンキーオーガニックビールを流し込む。
夢は見るものでなく、食べるものだった。
最終章 キセキ
もしこの世界にびっくりドンキーがなかったら。
そんなことをふと考えてみた。
何度も言うが、びっくりドンキーのハンバーグには生きる答えが詰まっている。
びっくりドンキーが存在していないということは、もちろんそのハンバーグも存在していないということで、すなわち今の私も存在していないということだ。
そんな悲しい世界があってたまるものか。
気付けば私の頬を伝う熱いものがあった。
そうか、私はこんなにもびっくりドンキーのことを……。
瞬間、フフッと自然に笑みがこぼれた。
びっくりドンキーは確かにあるし、私はびっくりドンキーのことが好きだということを、あまりにも当たり前のように思っていたのだなと知ったからだ。
びっくりドンキーがある世界。
びっくりドンキーがある街。
びっくりドンキーがあって、私がいる。
びっくりドンキーがあるということが実はとても特別な、それはもうキセキなのではないかと私は思ったのだ。
すべての食事を食べ終え、ビールの最後の一口を飲み干した私はお会計を済ませて店を後にした。
そして心の中でこう呟くのである。
また来よう、びっくりドンキーに。
『びっくりドンキー Advent Calendar 2017』14日の記事です。
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