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気がつけば1年以上の月日が

All about Africaさんに6話の連載を書いてから1年以上が過ぎていた。時間の経過は、恐ろしく早いものだ。
当時、連載を読んだ方からの反響がそこそこあり、仕事の話もいくつか頂いた。近頃、あれからスーダンがどうなっていったのか知りたいとの連絡が読者さんから入り、スーダンのことを書きたいという意欲が再び湧いてきた。

止まらぬインフレーション

スーダンポンドの下落が止まらない。AAA第一章を書いた2020年3月は1ドルが100SDGと2017年2月から約6倍通貨の価値が落ちていたことを記事にした。それから、スーダンポンドの下落は止まることなく、2021年6月現在なんと1ドル470ポンド程で取り引きされている。
500mlのコーラの値段は、2017年が5ポンド、2020年3月30ポンド、2021年6月が150ポンドとなっている。これはコーラに限った話ではなく、ほぼすべてのサービスが4年で30倍ほど高騰をしていることを意味する。なぜこんなにもインフレが進んでしまったのか。


生活の崩壊

40年続いた内戦の後、2011年に南スーダンが分離し主要な輸出品であった石油資源の75%ほどが南スーダンに移った影響などから、スーダンは毎年ゆるやかにインフレが進行していた。2019年にはインフレによる生活必需品の値上げと物資不足に耐えきれなくなった市民の抗議デモが発生し全土に波及し拡大、軍も市民側についたことによって30年続いたスーダンの軍事政権は崩壊した。
街の壁の至る所に自由を求める絵が描かれ、歌や詩、SNSを巧みに利用した非暴力の革命は輝かしいものであった。一方その裏では革命による混乱で経済活動は縮小、貿易赤字は過去最高を記録していた。

経済の建て直しを図る新政権は、軍事政権時代に課せられていた米の経済制裁解除と経済の自由化を押し進めてきた。新政権はイスラエルとの国交の樹立、スーダンが関与したとされる米大使館へのテロに対する賠償金の支払い、そしてあらゆる人権への取り組み(女子差別撤廃条約など)が評価され2020年12月に米のテロ支援国家リストから削除された。5月にはパリにてスーダンの債務救済と経済に関する世界会議が行われ、延滞・未払い・罰金によって600億ドルに膨らんだ債務の整理が行われた。債務の85%が延滞、未払い、罰金であったとされている。
これだけをみるとスーダンの経済改革は順風満帆のように見えるが、改革と足並みを揃えるようにコロナウィルスが世界で流行し、世界の経済状態は悪化している。外貨準備金がほとんどないスーダンは、対外取引のために2021年2月に、政府指定レートと闇市場でのレートを1本化し、政府指定レートを55ポンドから370ポンドへ引き上げた。これは海外からの投資を歓迎し、銀行取引の増加を見込んでのものだったが、医薬品を含む輸入品の高騰につながった。そんなこんなでスーダンはインフレ率が300%後半を記録し1ドル470ポンド、たったの1年間で物価が4倍以上に跳ね上がるという危機的状況のなかにある。

経済改革はスーダンにとって必要なものであるとしても、改革によって取り残されていく市民の暮らしはどうするのだ。
世界銀行が出している「国際貧困ラインで暮らす人」の定義では、 貧困層とは1人あたり1日1.9ドル(約200円)以下で生活する層と設定されている。 2015年の段階では、世界人口の10%にあたる7億3,600万人が国際貧困ラインに該当するという。最近の報道では、現在スーダン国民の80%が貧困ラインで生活しているとの調査結果が出された。その内の21%が栄養失調状態にあるとされ、家庭の貧困により300万人の児童が学校に通学できていないとされている。


さらに今月6月には、政府が長年出してきたガソリンなどへの燃料への補助金が撤廃され価格が2倍程になった。公共交通機関の値上げはもちろん、輸送コストの増加によって野菜など国内で生産されているものも一気に値上がりをみせた。現在、スーダン人の通勤にかかる交通費の平均は1000ポンド(250円)とされ、1日の給料よりも交通費のほうが高いというアンバランスな状況となってしまっている。既に庶民の暮らしは崩壊してしまった。

そんな状況を目の当たりにして、お前はこの1年何をしていたんだと思われるかもしれない。路上生活者への炊き出し、学校への給食支援、制服の寄贈など日本のみなさんの力を借りて、小さいながらも活動を継続してきた。ただ、社会課題の多さに解決策を見いだせず、無力さを感じる日々で途方に暮れることがよくある。
昨年記事に書いたようにパンドラの箱を開けたスーダンはあらゆる災難に襲われている。ただし、パンドラの箱の話には続きがあって、慌てて閉めた箱の中には小さな希望が残されていたという話。私は、1月に産まれた小さな娘を希(のぞみ)と名付けた。私の手を力強く握りしめる小さな掌に一縷の希望を託し、今日の現実に立ち向かっていきたい。

https://all-about-africa.com/sudan-saiki6/

皆様からの温かいサポートは、日本に憧れを持ち、日本に留学する夢をもつスーダン人の若者が日本語を学ぶ活動に使わせていただきます。