アラフォー上海留学日記【110日目】
6/15 土
空港まで約1時間半、出発が遅れたのと、途中でトイレに行きたくなり下車したのとで、ちょっと時間が心配なうえ、太った青年が隣の席に尻を押し込んできたためすごくきゅうくつな思いをしながら電車に揺られる。
春秋航空のカウンターは一番端っこ、空港内をめちゃくちゃ歩かなくてはいけない。航空会社界での春秋航空の立ち位置を表している。搭乗は余裕で間に合った。セルフチェックインを勧められたが、外国のパスポートは対応していなかったので、結局カウンターでチェックイン。
チェックインも済ませたことだし、一服しよう。室内に喫煙所はないのでいったん外に出る必要がある。外に出ると、入る際にまた荷物検査がある。果物のかごを持っている人が、これも(X線に)通さないといけない?と聞いていてちょっとおもしろかった。
パン屋でパンを買えてホッとする。春秋航空には機内食などという気の利いたものはないからな(有料なら提供可)。水筒に水を汲んで準備は整った。保安検査を通ったあと、免税店のノリで車が売っていたのにはおどろいた。
機内で単語の勉強をするつもりが、少し本を読み進めた段階で爆睡。昨日2時まで単語カードを作っていたのはなんだったのか。あっというまに沈阳着。
以前沈阳にきたのは20年くらい前のことだっただろうか。北京にきたついでに足を伸ばしてみたが、雪降る極寒で外も出歩けず、結局ショッピングモールで暖を取るくらいしかできなかった記憶。たしかあのときが初中国だったはず。
沈阳行きの切符を買おうと北京駅で列に並んでも、自分の番が来ると没有と言われてなかなか買えず、何度が並んでようやく買えたっけ。あのときの北京はまだ社会主義国家っぽい商店が多く、商品はショーケースに入れられており、やる気が一ミリもない店員に頼んで出してもらう必要があった。
ニーハオトイレも健在だったな。入ったらだだっ広いコンクリの平面に溝があるだけで、阿姨が並んでおしゃべりしながら用を足しており、どうしてもそこで用を足せず、自分の思い切りのなさを知ったのだった。
そして沈阳では、土日で銀行が休みにつき両替ができずに手持ちの人民元が日本円にして100円くらいという有り様で、カップ麺とあんこのお菓子みたいなのでしのいだっけ…
それに比べ現在。Alipayで沈阳の交通カードを紐付けて、飛行機を降りたらあっという間に地元民と同じ方法で電車やバスに乗れる。すごい。
中央公園で地下鉄を降りてバスに乗るために地上へ出ると、道路がひろい、空いている、空が広い、スケールが大陸だ。上海にいるとついつい忘れてしまう大陸のデカさを、東北はやっぱり味わわせてくれる。
駅前の停留所を見逃してしまい、ひとつ先の停留所まで歩く。公園のまわりはなんかすごいのどかで人通りもほとんどなく、ほんとにこんなところにバスくんの?とハラハラしはじめたところで無事バスがきた。
途中、路上に軌道が見えた。これは間違いなく路面電車。帰りは路面電車にのりたい。
沈阳南站という停留所で降りたものの、だだっ広い道路に放り出されたような場所だ。地図を見つつ前の人について小道を抜ける。突如、鉄道駅がどーんと現れた。中国の新駅あるある。なにもないところにどーんパターンだ。駅前の広場ではスピードスケートの練習をしているキッズがいた。
乗車まで1時間半くらい時間があるのでなんか胃に入れておきたいのだが、コンビニ兼簡単な食事を出す店が一軒のみ。選択肢は30元のまずそうな飯のみ。しかたがないのでコンビニでパンを買う。
コンビニにはハルビンビールが並んでおり、東北を感じる。赤いホーローのマグカップに入った白酒を発見。マグカップ白酒、アツい。しかも、マグカップに描かれている絵がひとつひとつ違うなかに、スヌーピー柄ものもがあった。スヌーピーの白酒はおもしろすぎる。買い。
買ったパンは甘じょっぱいふしゃふしゃした食感。小さいスーツケースを引いたちびっこたちがわらわら歩いていた。子ガモの行列みたいでかわいい。
私が乗る電車は齐齐哈尔からはるばるきたようである。この地名を最初に地図帳で見たとき、中国なのに中国じゃない漢字の羅列とチチハルという異国の響きに心を掴まれたのを覚えている。
満州移民たちが夢を見て開拓に励んだ土地でもある。この地に沈む夕日はそれはそれは紅く、大きかったそうだ。日本への引き揚げの際、チチハルからの帰国は苛烈を極めたとも聞く。地名ひとつでぐわっと脳裏がかき乱される心持ちがする。
電車は6人がけのテーブル席という謎仕様。こんなのはじめて見た。斜向かいのおばさんがふくらはぎをぐりぐり押しながらずっとげっぷをしている。げっぷのでるツボかなんかなのか。
1時間半弱で20:36丹东着。近いもんだ。駅構内で中朝国境ツアーの手配ができるようになっており、北朝鮮との国境にきたのだという気持ちが盛り上がる。この電車が終電だったようで、駅前はもはや暗い。毛沢東像の前でヤングが踊って動画を撮っていた。
ホテルにオイルヒーターがあるところに冬場の寒さが偲ばれる。シャワーはカランがなぜか足元についており、これも冬場の寒さ対策だろうか。あったかいお湯が出るまでのあいだ、冷たい水が体にかからないようにという。
エレベーターを降りようとしたら阿姨の群れがすごい勢いで乗り込んできた。いや私を奥に押し込んでどうすんの、と東北のババアの勢いに思わず笑ってしまった。
ホテルから歩いて10分、鸭绿江へ向かう。朝鮮特産店はもちろん、ふつうのスーパーでも北朝鮮の特産品を売っている。看板にはハングルが踊り、国境の街という実感がわいてくる。
川の向こうは北朝鮮。暗い。先輩が鸭绿江の高層ホテルに泊まることをおすすめする、向こうがわが真っ暗で壮観だからと言っていたのを思い出す。ただ、橋から南側には灯りがちらほら。丸い形が印象的なホテルの窓には灯りがともっている。どんな人が泊まっているんだろう(中国側に見せるために電気をつけているだけかもしれないが)。
ぼんやり川を眺めてもいられない。川沿いの出店も撤収の時間、来る途中の店もほとんど閉まっていた。この街は夜が早い。
23時までやっている店でハマグリのガソリン焼きを彷彿とさせるメニューがあったのでそこに向かう。北朝鮮国営だそうである。朝鮮人が平壌の玉流館と同じ味だと認めたという平壌冷麺も食べたい。
20分ほど歩いて22時ころ到着。が、客はおらず、テーブルに椅子がかけられている。完全に店じまいモードだ。朝鮮ガールが、営業はすでに終わりました…と、申し訳なさそうに出口まで送ってくれた。
大众点评で探しても、営業している店がぜんぜん見つからない。夜が早すぎる。しかたがないのでタクシーでホテルへ戻った。タクシー代はなんと7元。安!
コンビニも24時間営業ではなく、宿近くの店舗はすでに閉まっている。少し歩いたところにかろうじて一軒便利店があったが、コンビニというより個人商店。ごはんはない。初めて見たビールと味卵を買ってすごすごと帰った。
中国で初めての街に行くと、必ずと言っていいほど食にありつけない問題が発生する。外卖すりゃいいんだろうが、外卖の容器をみた瞬間に日常に引き戻されるようで気が進まない。知らないビールと卵でじゅうぶんだ、と負け惜しみ。