国語辞典

アルバイトからの帰宅中に唐突に思い立ち、国語辞典を買った。持って帰るのは重たいしオンラインで買っても良いかと思ったが、国語辞典は書店で買ったほうが誠実な気がして、アルバイト先と自宅のちょうど中間にある、北千住の書店で購入した。

昔から国語辞典が好きだ。小学生のころは学級図書に入っていた国語辞典を「あ」から順番に読破してやろうと試みたし(飽き性なので「け」あたりで敗れた)、高校生になり電子辞書を買ってからは授業中暇さえあれば思いついた単語を調べていた。

国語辞典は僕たちが日々使う単語の意味を改めて考えさせてくれたり、今までの人生で一度も使ったことが無い単語を教えてくれたりする。でも僕が国語辞典に一番惹かれるのは、単語の並び方だ。母語の単語という極めて有機的なものが、極めて無機的に、五十音順で整然と並んでいる様子がとてもおもしろい。

例えば僕の名前「みきひろ」は、単語の並びとしては「みぎひだり」と「みぎへならえ」の間に入る。「みぎひだり みきひろ みぎへならえ」が並び立つのは、国語辞典の上だけだろう。大変にシュールで味わい深いと思う。

匂いや質感も良い。新品の辞典のインクの香りは爽やかだし、使い古された辞典の少し湿気たような香りには知的な空気を感じる。指に吸い付くような滑らかで冷たい辞書用紙は意味も無くページをめくりたくなる。

大きさは小型版が好きである。本棚に収めると非常に地味に、しかし確実に存在を主張してくるあの大きさがお気に入りだ。通常版と内容を同じにすべく、ぎりぎり不便ではないレベルまでフォントサイズを小さくしているところもいじらしい。

棚に収まる新品の新明解国語辞典を眺めながら800文字を一気に書けてしまうほど、国語辞典が好きである。


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