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動物医療者には幾つも落とし穴がある

臨床獣医師として一人前若しくは老練になるまでには
他の分野同様に幾つもの落とし穴を避けて進まねばならない。
穴にはまって、別の道に進しかなくなったり
勘違いをして未熟なまま年老いる例は多い。
そんな落とし穴の一つをお話しする。
若い人は
先端獣医学、その道の第一人者の処で修行すれば
自分も第一人者として飼主さんに
そのこの未来像を語れると思ってしまう
学校の授業と臨床現場の違いとして
現場は例外が普通であり
典型はしっかりとデータを吟味して診断として探し出すものだと
経験不足から理解出来ない
特に高度動物医療施設ってやつは長期の診療機会が少なく
最後の結果まで経験できないので
中堅処でも間違ってしまう。
拙は脳神経が専門だからその話をするが
小脳腫瘍で、短い一生もう好きなように生活させますと話していた飼主夫婦
旦那さんの方が先に亡くなって、
奥さんはこんなに長生きするんだったら手術しても良かったわと2年目に話された。
頸椎形成不全による水頭症の仔
手術も危険すぎる状態に、誰もが何時死んでもおかしくないと診断し
ちゃんとは歩けない期間の方が多かったが
乳母車でおかぁさんと散歩しながら享年は14歳を越えた。
脳炎で痙攣をおこした仔は、検査機関では先が永くないと云われたが
拙が経験上、今のヤマを越えれば決して短くないと励まして治療を続け
検査後は一度も痙攣が無く、10年生きた。
真性てんかんの仔は
痙攣を時々おこしはしたが、フェノバルビタールに肝臓をやられることなく
長寿表彰を貰い17歳目前で亡くなった。
無論、飼主さんが全員そんな人ばかりではない
CT検査結果を話した瞬間に安楽死を希望し
覚醒を中断してそのまま麻酔から覚めることがなかった例もある。
救いのはずの動物が治らない病気を持つ事に弱い精神が耐えられない人
医療従事者に多いが、落とし穴に嵌まった獣医師と同じく
賢すぎて先が見えすぎ、思考が最後までショートしてしまう人
もいる事を認めた上で
一旦は馬鹿になって、頭から全てのデータを捨てて
飼主とその仔との間にある幸せは何か
について考える事をお勧めする。
統計資料や教科書は、あくまで参考。
何が大事なのか、何が幸せな一生なのか、
どうすることが家族にとってbetterなのかは個別案件だと思う。
獣医師である私にはわかっている!と名探偵になりたい気持ちもわかるが
そこは落とし穴だよ
一旦はまると、何回でもその結論に向かって走ってしまい
自分で抜け出すのは難しくなる。
拙も別の穴に入って少々おかしくなっている藪獣医師やから
あまり偉そうな事は云えた義理じゃないが
自分の前には幾つもの穴がある
そう思いながら日々診療しよう

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