透明な夢をなくしたようで

よく透けた爪先
波紋が広がるアスファルトに
冷えた音だけを残す
いつもの帰り道のように
振り向いたあとの呼吸
「このユーザーは存在しません」に
小さくさようならを告げる


思っていたよりも遠くに来ていた
噂のメニューが見つけられず
舌に馴染んだカフェオレにして
マスクの内側で嘘つきになる
白い表紙の本を開いている人
生きているんですか と尋ねれば
静かに首を振った


右耳の先を欠けさせている
散歩のルートを間違えたまま
海風のにおいにくらくらした
約束を覚えているのは
いつも私ばかりだから
種をおくろうと思ったのだ
眠っている人は目覚めない


透明な夢をなくしたようで
駐車場がひどく広い
白線からはみ出して落ちる
あなたの影から花が咲いている
うすももの花びらが甘くて美味しい
名前を教わりたかったのに
もう踏みかためてしまった


遺失物係をたずねて
乾いた風を吸いこんだ
錆の浮いた郵便ポストに
詰めこまれた声を聞く
誰が魔法をかけていったのか
ていねいに編まれたマフラーの端に
古びた切手を見つけた


ここまでお読みくださり、ありがとうございました