少女がめくる指先の季節に


耳をふさぐばかりでいる
あなたはもう詩を語らない。
月の裏側に隠したものが
消えるのを待ち続ける
そこには小さな墓があった
誰からも手向けられることのない
夜のような場所だった


果実の割れる音
合図として猫は逃げだした
落とされた首輪の鈴に
反射する光は罪状めいて
遠ざかる日の背中を
沈黙とともに突き刺す
こんなにも冷えた世界


少女がめくる指先の季節に
忘れものを尋ねに来る人
古びた記憶がずいぶんたまって
あふれては海をつくる
浸された足首にからまるのは
誰からの贈り物だろう
息継ぎを覚えた理由かも知れない


静寂と孤独を天秤にかけて
息をつく
星の破片を窓ガラスに散りばめ
夢の味がしたらいいのにと
頬をふくらす
名前を欲しがっていた少年の
青い瞳を思い出しながら


行先の示されない切符を
そっと握りしめる
「無事です」とメッセージを残し
少し考えて「お元気で」と足す
かわきかけた花束のさびしい匂い
いつの間にかよく似ていたことが
やさしく記憶になることを願う


ここまでお読みくださり、ありがとうございました