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三好達治と谷川俊太郎

三好達治先生と谷川俊太郎先生の詩からいくつかをまとめました。

最初に略歴を載せます。以下、敬称は省略させていただきます。
三好達治は1900年(明治33年)に生まれ、1964年(昭和39年)に亡くなります。1930年、第一詩集『測量船』を刊行し、叙情的な作風で人気を博しました。谷川俊太郎は1931年(昭和6年)に生まれました。1950年、父の知人であった三好達治の紹介によって『文学界』に初めて詩が掲載されます。1952年、処女詩集『二十億光年の孤独』を刊行しました。
三好達治 - Wikipedia
谷川俊太郎 - Wikipedia


もしも百年が この一瞬の間にたつたとしても 何の不思議もないだらう

大阿蘇, 三好達治:霾 (aozora.gr.jp)

まずは、引用するまでもないのではと思うほど、あまりにも有名な文句です。ありふれた称賛ですが、平穏な目前の丘陵から一気に地球規模の悠久へ誘い出してくれます。「大阿蘇」は1939年の『霾』に記載されています。こちらと並んで代表作とされるのは下記でしょう。

母よ 私は知つてゐる
この道は遠く遠くはてしない道

乳母車, 三好達治:測量船 (aozora.gr.jp)

「乳母車」は1930年の『測量船』に記載されています。もちろん冒頭から美しいのですが、この最後が格別だと思いました。このように読者の視界をぱっと上げて世界を広げる余韻は魅惑的だと思います。わたしもぜひ目指したく意識しています。「乳母車」は三好達治とその母親の関係を表現しているとされます。一方、三好達治自身が父親になったときの心情が反映しているとされる詩が「涙」です。わたしは母親より父親にコンプレックスがあるからか、こちらのほうが印象的です。

とある朝 一つの花の花心から
昨夜の雨がこぼれるほど

小さきもの
小さきものよ

お前の眼から お前の睫毛の間から
この朝 お前の小さな悲しみから

父の手に
こぼれて落ちる

今この父の手の上に しばしの間温かい
ああこれは これは何か

それは父の手を濡らし
それは父の心を濡らす

それは遠い國からの
それは遠い海からの

それはこのあはれな父の その父の
そのまた父の まぼろしの故郷からの

鳥の歌と 花の匂ひと 青空と
はるかにつづいた山川との

――風のたより
なつかしい季節のたより

この朝 この父の手に
新らしくとどいた消息

涙, 三好達治:艸千里 (aozora.gr.jp)

三好達治は1934年に長男と1937年に長女を授かりました。「涙」は1939年の『艸千里』に記載されています。その後、1941年から日本は太平洋戦争に突入し、1945年に悲痛な傷跡を負って終戦します。三好達治の詩にも戦争の影響がみられます。1946年の『砂の砦』から表題の作品を引用いたします。

私のうたは砂の砦だ
海が來て
やさしい波の一打ちでくづしてしまふ

私のうたは砂の砦だ
海が來て
やさしい波の一打ちでくづしてしまふ

こりずまにそれでもまた私は築く
私は築く
私のうたは砂の砦だ

無限の海にむかつて築く
この砦は崩れ易い
もとより崩れ易い砦だ

靑空の下
太陽の燃える下で
その上私の砦は孤獨だ

援軍無用
孤立無援の
砂の砦だ

私はここで指揮官だ
私は士官で兵卒だ
砲手だ旗手だ傳令だ

鷗が舞ふ
鳶が啼く
私はここで戰つた

私はここで戰つた
無限の海
無限の波

波が來て白い腕の
一打ちで崩してしまふ
私の歌は砂の砦だ

この砦は砂の砦だ
崩れるにはやく
築くにはやい

これははかない戰場だ
波がきてさらつたあとに
あとかたもない砂の砦だ

わたしのうたは砂の砦だ――

三好達治, 砂の砦:砂の砦 (ssl-lolipop.jp)

さて、月日が流れて1952年、谷川俊太郎の処女詩集『二十億後年の孤独』は三好達治が贈った序文で始まります。この冒頭から突如引き込まれます。さすがという言葉は使いたくないのですが、三好達治の揺るぎない腕前に帽子を脱ぎます。

この若者は
意外に遠くからやってきた
してその遠いどこやらから
彼は昨日発ってきた
十年よりもさらにながい
一日を彼は旅してきた
千里の靴を借りもせず
彼の踵で踏んできた路のりを何ではからう
またその暦を何ではからう

はるかな国から──序にかへて, 三好 達治:fc2.com

それに対する谷川俊太郎の感謝の返しも平凡以上かつ華美以下で粋だと思いました。詩集に収められた作品も三好達治の紹介に恥じない才能を感じます。

三好達治先生に大変な御好意をいただいた.ありがたいと思う気持をどう表せばいいかわからない.

あとがき, 谷川俊太郎:iwanami.co.jp

こうして谷川俊太郎は爽快と活動を開始します。わたしはこの処女詩集が好きですが、もっとも好きな詩は「三つのイメージ」です。こちらは1990年の『魂のいちばんおいしいところ』に記載されています。

あなたに
火と水と人間の
矛盾にみちた未来のイメージを贈る
あなたに答えは贈らない
あなたに ひとつの問いかけを贈る

三つのイメージ, 谷川 俊太郎:exblog.jp

火・水・人間の三つのイメージが丁寧に書き出されたあとの最後の段落を抜粋しました。この部分でぐっと心を掴まれます。それはまるで三好達治を彷彿とさせる技法でした。この詩はとても素敵です。さらに三好達治と谷川俊太郎の一つの共通点を感じるという点でも思い出深いです。


以上、三好達治と谷川俊太郎の詩からいくつかをまとめました。余談ですが、『ミステリと言う勿れ』に三好達治が登場します。ドラマ版のその回に出演された柄本佑さんがかっこよくてどきどきしちゃいました。

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