歌は言葉の花

山梨県立甲府南高等学校
2021年度大会作品

歌は言葉の花


キャスト

ホノカ 
ヒナ   
チハル  
ユウカ  
シュウスケ

先生 




放課後
学校のどこか
小さい机一台と椅子が数脚
高校生たち
学園祭の準備をしている
初秋
ある日の16時から17時

1 一日目 一句~二句

花を折っているホノカ
スマホをいじっているヒナ

ホノカ  (何かいいたげに)ねえ。
ヒナ    すご。〇〇が○○したって。(ネットニュースの話題を出してください)
ホノカ   へえ。
ヒナ    すごいね。
ホノカ   すごいね。

沈黙

ホノカ   ねえ。
ヒナ    すご。(ネットニュース)
ホノカ     へえ。
ヒナ    すごいね。
ホノカ   すごいね。

沈黙

ホノカ   ねえ。
ヒナ    すご。(ネットニュース)
ホノカ   それはいいからさあ。
ヒナ    すごいよね。
ホノカ   すごいね。
ヒナ    すごいね。
ホノカ   いやそうじゃなくて、手伝ってよ。
ヒナ    なんだ、手伝ってほしかったのか。
ホノカ   そうだよ。
ヒナ    もっと早く言えばよかったのに。
ホノカ   手伝ってくれるの?
ヒナ    やだね。
ホノカ   なんで!
ヒナ    みんないらないって言ってるのにどうしてもやる、ひとりでやるって言ったのじぶんでしょ!
ホノカ   そう言えばみんなもやってくれると思ったんだよ。
ヒナ    人の言ったこと真に受けるタイプだから。
ホノカ   空気読めよ。
ヒナ    空気読むくらいなら本を読む。
ホノカ   一人でやるからっていう言葉の裏を読めよ。
ヒナ    素直なんで。
ホノカ   文芸部だろ!行間読めよ。
ヒナ    文芸部でもわからないものはわからない。わかりたくない。
ホノカ   お願いします。手伝ってください。
ヒナ    お。
ホノカ   ストレートに頼んでみました。
ヒナ    ユウカとシュウスケまだかな。
ホノカ   おい。
ヒナ    できるかな。
ホノカ   できるんじゃない?

ユウカ、やってくる

ユウカ   遅くなりました。
ヒナ    おつかれ。シュウスケは?
ユウカ   来てないですか?
ホノカ   忙しいんだよ。実行委員で。
ヒナ    しょうがないか。
ユウカ   新入部員連れてきました。
ヒナ    え?
ホノカ   今?
ユウカ   入って!

チハル、入ってくる
黙ったまま

ユウカ   チハルです。
ホノカ   こんにちは。
ヒナ    よろしく。

チハル、しゃべらない

ヒナ    よろしく、でもどうして今頃?
ホノカ   何かもう書いてるの?詩?小説?
ヒナ    好きな作家いる?

ヒナ、ホノカ、矢継ぎ早に質問

ユウカ   チハル、ちょっとなんていうか無口で。
ホノカ   大歓迎。
ヒナ    いいよしゃべらなくても。
ホノカ   あたしたちがそのぶんしゃべるから。
ユウカ   時間じゃないですか。
ホノカ   あ、そうだ。

ホノカ、ヒナ、ユウカ、スマホを出してLINEにログイン。
チハル、ユウカのところに行って何か言いたげ。

ユウカ   あ、スマホ?大丈夫。先輩が許可取ってるから。
ホノカ   ありがとう、ヒナ。
ヒナ    あたし取ってないよ。
ホノカ   え、取ってないの?

チハル、あわてる
ユウカの袖をひっぱる

ユウカ   大丈夫、先生も入ってるから。
ホノカ   うん。
ヒナ   「先生、はじめますよ」
ホノカ   既読ついた。
ユウカ   今日も5時までですか。
ヒナ    うん。
ユウカ   チハルもやろうよ。
ホノカ   スマホ持ってる?

チハル、スマホを出す

ホノカ   わたしたち、連句をやってるの。
ヒナ    あ、シュウスケ来た。
ユウカ   シュウスケどこ?
ヒナ    ユウカ、チハルさん招待して。

チハル、ユウカに近寄って

ユウカ   あ、チハル、でいいそうです。招待したよ。

チハル、スマホを操作。

ヒナ    「ようこそ」
チハル   「よろしくお願いします」
ホノカ   「ようこそ」
ヒナ    あ、先生からも来た。「ようこそ、ディープな趣味の世界へ」だって。
ホノカ   「先生、やめてください。せっかくの新入部員です」
チハル   「今日、なにやるんですか」
ヒナ    今日は連句をやります。文芸部の部誌に載せます。
シュウスケ  「シュウスケです。実行委員やってるのであまり行けませんがよろしく。」
チハル   「チハルです。よろしくお願いします。」

チハル、ユウカに話しかける
ユウカにだけ聞こえる
チハル、LINE

チハル   「話すのが苦手です。でも、気軽に話しかけてください。お返事ができなくて心苦しいです。でも文章を書くのは好きです。よろしくお願いします。」

みんなに着信

ホノカ   ようこそ。
ヒナ    だいじょうぶだよ。みんな陰キャだから。
ホノカ   そりゃそうだ。だって連句なんてやってるのうちらだけでしょ。
シュウスケ  「今日連句?」
ユウカ   「シュウスケ先輩、スマホ使ってて大丈夫?」
ヒナ   (チハルに)連句、わかる?

チハル、首を振る

ヒナ   学園祭で売る部誌を作ってるんだけど、みんなそれぞれ作品を載せるわけね。
ホノカ   チハルちゃんも作品載せる?締め切りまだなんだ。

LINEの着信音
(LINEの会話の前には基本的に着信音が入る)

シュウスケ  「大丈夫。生徒会室は先生来ないから」

みんなスマホを見る

シュウスケ  「今日は仕事しながらLINEで参加します」
ホノカ    「了解」
ヒナ     「り」

シュウスケを呼ぶ声

シュウスケ  はいはい。
声 シュウスケ、企画書出てないクラスあるんだけど。
シュウスケ   あ、じゃ、行ってみる。
声 三年二組と一年三組。
シュウスケ   はいはい。

ほかの四人は談笑
シュウスケ、LINEで

シュウスケ  「進めてて」
ホノカ    「りょ」
先生     「ぼくもLINEで」
ホノカ    「知ってます」
ヒナ     「今さら何言ってるんですか」
先生     「優しくしてよ」
ホノカ    「はいはい」
ユウカ    (チハルに)顧問の先生。

うなづくチハル

チハル   「先生、チハルです。よろしくお願いします」
先生    「よろしく」

先生、布団を抱えてくる
パジャマに着替えている
布団を敷いて寝転ぶ
先生がスマホを出す

先生    「今日から連句を始めるわけですが、皆さん発句は見てくれましたか?
ホノカ   「はい」
ヒナ    「お願いします」
ユウカ   (チハルに)どうする?
ホノカ    連句、よくわかんないよね。

チハル、うなづく

ホノカ   「先生、解説頼みます」
先生    「くわしいわけじゃないんだけどね」
ヒナ    「またまた」
先生    「いやほんと。やったことないし」
ユウカ   え!やったことないんですか。
ホノカ   そうらしいよ。
ユウカ   それなのによく。
ホノカ   偉そうにしてるって?
ユウカ   そこまでは言ってないです。
先生    「やったこともないのに偉そうにしてるって思わなかった?」
ユウカ   「わたしは思っていませんが先輩はそう思っているようです」
ホノカ   おい!
ヒナ    わたしを巻き込まないで!
ホノカ   「そんなふうに思っている先輩もいるんですね」
ヒナ    こう書いたらわたしのことになるじゃん。
先生    「冗談です、ヒナさん」
ヒナ    「いい加減にして早く解説してください」
先生    「みなさん、今日も部活は一時間でしょ」
ホノカ   「そうです」
先生    「じゃ、簡単に。連句はみんなで一つの作品をつくる文芸です。だれかが五七五と詠んだら、次の人が七七と付ける。で、まただれかが五七五」
ホノカ   みんなで作った連句を文芸部の部誌に載せます。
ヒナ   毎年必ず共同制作をしてるので、今年は連句。

チハルはポカン

ユウカ   わたしもまだよくわかんない。
ヒナ    そりゃそうだ。
ホノカ   気楽にやろうよ。
先生    「言葉遊びと考えてください」
ヒナ    遊べるかな。
ホノカ   遊ぼう遊ぼう。
先生    「連句には百句続ける百韻や三十六句続ける歌仙などがありますが、今回は、十二句でどうですか?」
ホノカ   「先生、いまいちわかんないんですけど、どうやって続けんるんですか?」
ヒナ     そこなんだよね。
ユウカ   しりとりみたいですね。
先生    「連想です」
ユウカ   連想。
チハル   「イメージですか?」
先生    「すごい、これだれ?チハルさん?そうだよイメージでいいんです。続けるっていうと、ストーリーのようだけど、詩歌なんで、ストーリーじゃないんです」
ホノカ   そうか、物語にしなくていいんだね。
ヒナ    それもう昨日聞いたじゃん。
ユウカ   「同じイメージを続けるんじゃないですよね」
先生    「そうそう、大事なのは、付けと転じです」
ホノカ   これも昨日聞いたね。
チハル  「付きすぎても離れすぎてもいけないってことですか」
先生    「天才が入部しました」

チハル、動揺する
立ち上がって歩き出す
ユウカ、後を追う

ホノカ   どうした?
ヒナ    いいんじゃない。

チハル、いすに座って

チハル   「天才じゃないです」

みんなチハルを見る

先生   「なにがあったか知りませんが、それが付きと転じというやつです」
ホノカ   そうそう、付きと転じ。
先生   「チハルさんが言ったとおり、前の句と突き過ぎてもいけないし、離れすぎてもいけない」
ヒナ   「とりあえず、やってみましょうよ」
ユウカ  トランプみたいですね。
先生   「トランプの新しいゲーム教えてもらうときみたいにね」
ユウカ   かぶった!
先生   「連句は前へ前へと進みます。振り返ってはいけない」
ホノカ   はい。
先生   「昨日出した発句に脇を付けてください」

チハル、ユウカに何か言いたげ。

ホノカ   「だれが付けてもいいんですか」
先生    「出勝(でがち)でいきましょう。いい句ができたらその場で採用される方式です」
ユウカ   だれが作ってもいいんですか。
ホノカ   いいみたい。
ユウカ   (チハルに)参加してみる?

チハル、うなづく

ホノカ   じゃ、最初の句、発句です。これに次の句、脇を付けてください。

稲の花バス待つ人の無言かな  (発句・先生)

プロジェクターで白幕に映し出される

先生   「発句は切れ字つかう、季語入れる、その場へのあいさつ」
ヒナ   「これ、あいさつですか」
先生   「稲の花って地味な花なんですよ」
ホノカ   陰キャだからなわたしたち。
ヒナ   「ちょっとみんな考えます。できたら挙げますから」
先生   「はい、待ってます。ちょっと落ちます」
ヒナ   「はい」
先生   「あ、気取らなくていいよ。普段のことばで詠むこと」
ホノカ  「はい」

みんな顔を見合わせて

ユウカ   先生はどこにいるんですか。
ホノカ   うちだよ。自分ち。

先生、くつろぎだす。
マンガ読みつつ、スナック菓子を食べる

ホノカ   出てこないんだよ。
ユウカ   ずっとうちにいるの。

チハル、脇を考えている

ホノカ   考えるか。ユウカ、花折りながら考えない?
ユウカ   手伝ってください、と言え。

ユウカ、チハル、手伝う

ヒナ    (スマホを見ながら)脇は発句と同じ時と所だって。
ホノカ   なんだか失礼な発句じゃない?
ユウカ   え?どこがですか?
ホノカ   稲の花ってすごい地味なんでしょ。
チハル   稲の花バス待つ人の無言かな

ホノカ、ヒナ、チハルを見る

チハル   稲の花バス待つ人の無言かな
ホノカ   あ!そうか。地味だけどやがて実るっていう意味だよ。
ヒナ    なるほど。
ユウカ   わたしたちもやがて実るんですよ。
ホノカ   実るかなー
ヒナ    秋の句ですよね。

着信音

ホノカ    シュウスケだ。
シュウスケ  「あの人、家で何してるんだろうね」
ヒナ    「シュウスケ、そのうち間違って先生の入ってるグループに何か書き込んだりしないでよ」
シュウスケ  「しないよ」
ホノカ    「ほんと、しないでよ」
シュウスケ  「しないって」
ユウカ    「しないでくださいよ」
シュウスケ  「なに?フリ?」
ホノカ    「絶対しないでね」
シュウスケ 「するわけないだろ」
ユウカ    「絶対ですよ」
シュウスケ 「フリやめろって!」
チハル    「伏線だったりして」

みんな顔を見合わせる

みんな    おー。
シュウスケ  「伏線の方がやりそうで怖いな」
チハル    「すみません、ちょっとふざけました」
シュウスケ  「チハルさん、おもしろいじゃん」
ユウカ    チハルはおもしろいんですよ。

チハル、よそ見

ホノカ チハル、連句もつくってね。

チハル、うなづく

ヒナ      脇くらいつくって帰るか。
シュウスケ 「脇ってどうするんだっけ?」
ヒナ     「発句と同じ時と所」
シュウスケ 「前へ前へ」
ホノカ    「振り向かない」
先生     「あそれからね」
ホノカ     また来た!
先生     「稲の花は初秋。月も入れようか」
ホノカ    「脇にですか?」
先生     「そうそう」
ヒナ     また縛りが増えた。できるのかな、これ。
ユウカ    いつまでにつくるんですか?
ホノカ    いちおう、十二句。三日で。
ユウカ    だって部活、一時間でしょ。
ヒナ     一時間のバス待ちの部活。
ホノカ    やっぱあれ、あたしたちのことだよ。
ユウカ    地味ですからね。
ヒナ     地味から月か。しかも七七.
シュウスケ  「おれ、きょうそっち戻らないから」
ホノカ     「り」
シュウスケ   「バスだよね」
ヒナ      「うん」
シュウスケ  「車窓に見える、で七。次が出てこない」

チャイム
校内放送

声  「本日の下校時間は一七時となっています。校舎内の生徒は消灯戸締りをして校舎の外に出てください」
ホノカ    帰るか。
ヒナ     車窓に見える、何が?
ユウカ    車窓に見えるのは、富士山?
ホノカ    ベタだ。
ヒナ     稲の花っていうのが、地味というかダサいというか。
ユウカ    ここ、このままでいいんですか。
ホノカ    花だけしまおう。

ホノカ、ユウカ、チハル、折った花を袋に入れる

ホノカ    手を貸してくれないか。
ヒナ     なぜ!
ユウカ    全部学校でやったらどうですか?
ホノカ    なに?
ユウカ    学校連句。
ヒナ     転じじゃなくなるな。
ユウカ    いいじゃないですか。作りやすいと思いますよ。
ホノカ    帰ってから先生に聞いてみよう。あ、できたらみんなLINEで送って。
ヒナ     あ、そうか。
ホノカ    「句ができたらLINEで送って」
シュウスケ 「り」
チハル    「り」
ホノカ    帰ろう。発句しかないけど。できるかな。
ヒナ     じゃ、帰りにバス乗って考える。
ユウカ    車窓に見える、なんですかね。
ホノカ    二句目でこんな悩むのか。
ヒナ     帰ろ。

さよならを言い合ってみんな帰る
チハル、戻ってきて折った花を一輪取っていく

チハル    車窓の月はビルに隠れる  (脇・チハル)

チハル、出ていく
先生に明かり

先生     これ、いいんじゃないの。チハルさんの。連句か。彼女たちに悪かったかな。

LINEの着信音
溶暗
音楽

2 二日目 3句~8句

放課後。昨日と同じ教室。
照明徐々に
チハル、大きな袋をもって入ってくる
袋から紙の花を机に出す

チハル    (大声で叫ぶ)わー!

花を折りながら時折大声を出す

チハル    わー!お化けー!

ユウカ、入ってくる
チハルを見る
二人、目を合わせて

ユウカ    わー!
チハル   わー!お化けー!
ユウカ    たまやー!
チハル    わー!
ユウカ    たーまやー!
チハル    わー!

チハル、花を袋から取り出して、机にまく
花は机からこぼれる
音楽

チハル    わー!

ふたり、花を投げ合う
大声で叫びながら

ホノカ入ってくる

ホノカ    なにやってるの。

チハル、黙る
ホノカ、チハルの頭に花をつける
チハル、ホノカに花をつける
次々に花を互いの体につけあう
ユウカも仲間に入る

ヒナ、入ってくる

ヒナ    どうしたの!

チハル、ヒナに花をつける

ヒナ    ありがとう。


シュウスケ、入ってくる
スマホで動画を撮りだす

シュウスケ 「紙の花舞って放課後のはじまり」(第三・シュウスケ)

ホノカ    字余りだね。
ヒナ     もう春行っちゃっていいんだっけ?

LINEの着信音

ホノカ    先生からだ。「取ります」だって。「花の句だけど紙だからね」って。

チハル、シュウスケに花をつける

シュウスケ   ありがとう。

チハル、駆け去って振り向く

ホノカ    わー!
チハル    わー!
ホノカ    わー!
チハル    わー!
シュウスケ  なに?
ヒナ     はいはい、大声はだめだよ。活動停止になっちゃうよ。

ホノカ、チハル黙る
ややあって

ホノカ   ごめん。


シュウスケ、スマホを構えている
ヒナ、スマホをのぞきこんでピース
みんなもピース

ヒナ    「スマホにピース午後の教室」 (四・ヒナ)

シュウスケ、スマホをかまえながら去っていく

ホノカ    バイバイ。
シュウスケ  使うかも!
ホノカ    うん。
ユウカ    なんですか?
ホノカ    学祭のオープニングビデオ。
ヒナ     まじめに準備してるんだ。
ユウカ    そうなんですね。
ホノカ    ことし、実行委員になる人えらいと思う。
ユウカ    どうしてですか?
ホノカ    だって、どうしたってみんなから文句言われるじゃん。
ヒナ     準備は一時間だしね。
ユウカ    えらいんですね。

ホノカ、紙の花を片付けだす

ホノカ    チハル、手伝って。
チハル    はい。
ヒナ     はいって言った。

チハル、固まる

ホノカ    まあ、ゆっくりね。

LINEの着信音

先生   「スマホにピース、取りましょう」

先生、入ってきて、ふとんにごろ寝

先生    「すみません、今起きました」
ホノカ   「もう放課後ですよ」
先生    「放課後に元気が出るのは君たちといっしょです」
ホノカ  「 あたしたちはちゃんと授業受けてますよ」
先生    「そうでしたね、すみません」
ホノカ   「いえ、なんかすみません」
先生     授業で何か出ませんか?
ホノカ   「元素記号二つ覚えて鰯雲」 (五・ホノカ)
ヒナ     元素記号!
ユウカ    二つしか覚えてないんですか?
ホノカ    これ、フィクションだから。
ユウカ    リアルじゃないんですか?
ホノカ    去年は短歌やったじゃん。
ヒナ     うん。
ホノカ       連句の方がフィクション度が強いかも。
ヒナ     ほんとそれ。
ユウカ    次行きましょう。七七。

みんな、何かしながら考えている

ヒナ     机か。

机をトントンたたく

ヒナ     机に刻む…
ホノカ    いいねえ。何刻むの?
ユウカ    不良ですね。

チハルはせっせと紙の花をつくっている

ホノカ    元素記号二つしか覚えないで空見てる子だからね。
ヒナ     よし、「机に刻む二行目の歌詞」(六・ヒナ)どうだ!
ユウカ    いい!
チハル    いい!

みんなチハルを見る
ちはる、笑顔

ホノカ チハル、いいよね。

うなづくチハル

先生    「取りましょう。元素記号も机も。ずっと学校で行きましょうか」

みんな、え?学校?の反応

ユウカ   あたしたち、学校以外知りませんからね。
ホノカ   学校限定の方がやりやすいかも。ほんとの連句と違ってきたけど。
ヒナ    連句は転じ、だからね。学校から転じてない。
ホノカ   みんな同じ、ってなにかでたとえたい。
ヒナ    たとえてたとえて。
ユウカ   #たーとえーてたーとえーて
ヒナ    なんだそれ。
チハル   トウモロコシとか。
ホノカ   トウモロコシのようにか。なになにのようにのようにって去年短歌やった時に習ったね。
ヒナ    のごとく。
ホノカ   それそれ、のごとく。「トウモロコシのごとく列なす生徒たち」(七・ホノカ)
先生    「取りましょう」
ホノカ   やった。
先生    「でもそろそろ元気が出るのもほしいね」
ホノカ   元気か。元気なあ。
ヒナ    次は七七。
ユウカ   君の元気は…
ホノカ   うん。
ヒナ    いいよ。
ユウカ   君の元気は僕の元気だファイト。
ホノカ   それコマーシャル。
ユウカ   コマーシャルはだめか。なんかありますか?
ヒナ    この木何の木気になる木。
ホノカ   あいてますあなたのローソン。
ユウカ   セブンイレブンいい気分。
ホノカ   ああ!
ヒナ    なに?
ホノカ   あの数学のおじいさん、よく微分積分いい気分って言ってるけど、もとはそれか。

ホノカ、寒がる素振りで

ホノカ   寒!
ヒナ    いまそれやってないからね。
ユウカ   なんでみんな七七なんですか?
ホノカ   耳に残りやすいんじゃない?七とか五とか。
ユウカ   日本語のリズムですね。
ヒナ    レッドブル翼を授ける
ホノカ   字足らず、字余り。五、八。
ヒナ    やっぱり外国の企業だからかな。
ユウカ   日本の心がわかってませんね。
ホノカ   七七か。
チハル   そして…

チハルに注目
チハル、固まる

ホノカ   ごめん、注目しちゃった。
ヒナ    あっち向いてるから続き言って。
チハル  そして…

みんなそっぽ向いているが聞き耳を立てている

チハル   そして…
ホノカ   そして?
ヒナ   しっ!
ホノカ   ごめん。

チハル、立ち上がって部屋をぐるぐる歩き出す
みんな、あとをついていく

ユウカ   これなんですか?
ホノカ   わかんない。
チハル   そして!

チハル、駆け出す

ホノカ   そして!

みんな笑いながら追いかける
追いつめて

ホノカ   そしての続きはなに!
ヒナ    白状しやがれ!
ユウカ   先輩それ違うと思います。
チハル   そして。
ホノカ   そして、何?
ヒナ    七七だから。
ユウカ   わかった!
ホノカ   なに?
ユウカ   そしてかがやくウルトラソウル!
ヒナ    まさかこんなベタじゃないでしょうね。

チハル、首を振る

ホノカ   次の句でしょ。

チハル、うなづく

ホノカ    言ってみて。
チハル   「そして明日もマスクをつける」(八・チハル)

みんな、チハルから離れる
軽いため息

ホノカ   なるほど。
ヒナ    送っとく。
ホノカ   取るかな。
ヒナ    全然、元気じゃないよね。

LINEの着信音

先生    「取りましょう」
ホノカ   前へ前へ。
ヒナ    なに?
ホノカ   連句は前へ前へ、だよね。
ヒナ    うん。
ユウカ   ちょっと後ろ向きですか?
ホノカ   うん。
ユウカ   前へ前へって難しいですよ。あたしたち、陰キャじゃないですか。

ヒナ    うん。
ホノカ   そう?
ユウカ   先輩も教室だと暗いんでしょ?
ホノカ   そんなことないよ人気者だよ。

うしろでヒナが手を振って違う違うのムーブ

ホノカ   (ヒナに)やめてよ。
ユウカ   暗くないんですか?
ホノカ   あのねえ、陰キャが陰キャを認めたら、それはもう陰キャのど真ん中じゃないからね。

LINEの着信音

先生    「第三からここまでとてもいいですよ。ホノカさん、ちょっとここまでみんなに読んであげてください」
ホノカ   「わかりました」

ホノカ、スマホを見ながら

ホノカ   稲の花バス待つ人の無言かな  (発句・先生)
     車窓の月はビルに隠れる  (脇・チハル)
     紙の花舞って放課後のはじまり (第三・シュウスケ)
     スマホにピース午後の教室 (四・ヒナ)
     元素記号二つ覚えて鰯雲 (五・ホノカ)
     机に刻む二行目の歌詞 (六・ヒナ)
     トウモロコシのごとく列なす生徒たち (七・ホノカ)
     そして明日もマスクをつける (八・チハル)

みんなうなづいたり、視線を交わしたり

先生    「今日の第三から八まで、紙の花、スマホのピース、元素記号、机に刻む、トウモロコシ、明日もマスクまでとてもいいですね」

ホノカ   「ありがとうございます」
先生    「君たちほんとうにがんばってますね。自分の作品はどうですか」
ホノカ   どうですかって言ってもねえ。
ヒナ    できたかってこと?
先生    「進展はありますか?」
ホノカ   どう?
ユウカ   ホノカさん、小説ですか?
ホノカ   うん。
ユウカ   BL?
ホノカ   違うよ。
ユウカ   ヒナさんはエッセー。
ヒナ    うん。ユウカは詩?
ユウカ   はい。

チハル、ユウカのそばに寄って
ユウカ、チハルの顔を見ながら

ユウカ   詩を書いてるって、どうしたらいい詩書けるかなって、クラスじゃ言えないじゃないですか。文芸部入ってほんとうによかったです。連句も思ったより楽しいです。

チハル、拍手
みんな、拍手

ユウカ   ありがとうございます。(拍手を手で抑えて)でもでも、まだあたしの取られてないです。
ホノカ   あ。
ヒナ    次、次がんばろう。次は、五七五。
ユウカ   今回、12句までですよね。

LINEの着信音

先生    「こちらも今清書してみました。皆さんがんばってますね。それに比べて私なんてまったく」

みんな顔を見回す

ホノカ   まったく、だって。
ヒナ    そりゃ、まったく、なんだけどね」
ホノカ    取り合えず、返してみよう。「先生、『私なんて』は体に良くないですよ」
ヒナ    「そう教えてくれたじゃないですか」
先生   「そうでした。私は私でなんとかしてみます。一生懸命治します」
ホノカ   一生懸命ってよくないんじゃない?あたしたちだって先生、がんばってってならないから。
ユウカ   難しいですね。

チハル、思い出したように

チハル   校庭の…
ユウカ   あ、また作ろうとしている!
ホノカ  チハルすごいね。
ユウカ   次あたし!
先生   「それはともかく、そろそろ恋を入れましょう」

みんな、え!

先生    「恋は二句続けること」
ホノカ   今までけっこう気軽に作っていたのに急にこんなルール持ち出して。
ヒナ    夕方近くなって元気になったかな。
ユウカ   朝はダメなんですか?
ホノカ   うん。
ユウカ   あの、それ、サボりとどう違うんですか?
ヒナ    うーん。違うんじゃない。サボりはサボりだし、先生はほら、医者とか行ってるんでしょ。
ホノカ   違わないらしいよ。
ユウカ   えっ。
ホノカ   なんかサボりとの区別って難しいんだって。
ユウカ   そんなもんですかね。
チハル   あの。

みんなチハルを見る
チハル固まるが、気を取り直して

ホノカ   なに?
チハル   あたしも、お母さんは病気だって言うし、お父さんは無口だって言うんですけど、どっちかなって。
ユウカ   チハル、長い。大丈夫?
チハル   大丈夫。
ヒナ    チハルがこんなに長くしゃべった。
ユウカ   あたしもチハルがこんなに長く、46文字も、最初の「あの」入れたら48文字もしゃべるのは聞いたことないですよ。
ホノカ   文字数のカウント!
ユウカ   自然にわかります。今のは9文字です。正しく言うと9音。
ヒナ    そりゃ教室で浮くだろうな。
ホノカ   チハル!

チハル、ビクッとする

ホノカ   どっちでもいいじゃん。
ヒナ    うん、どっちでもいいよ。チハルはチハルだよ。

LINEの着信音

先生   「恋って言ってもほのかでいいですよ」
ホノカ   あたし?
ヒナ    いや、ほのかな恋でもいいですよって。
ホノカ   あたしらしい恋ってこと?
ユウカ   違います!
ホノカ   あたしらしくか。ちょっとシュウスケにLINEする。
ヒナ    (驚いて)なぜ!
ホノカ   いやなんとなく。

ホノカ、LINE

ホノカ   「シュウスケ、恋だよ」
ヒナ    それ、やばくないか。

LINEの着信音

シュウスケ  「いきなり何」
ホノカ   「恋」
シュウスケ  「えー、そういうのは、グループじゃない方に言ってもらわないと」

ヒナ、ユウカ、チハル大喜び
みんな口々に「キャー」

ヒナ    完全に誤解してるな。
ユウカ   悪い奴ですね。こいつ。

ユウカ、ホノカを指さす

シュウスケ   「えっと」
ユウカ   えっとですよえっと。
ヒナ    えっとはヤバいですよ、皆さん。
シュウスケ  「みんなに見られてもいいの?」

みんな  「キャー」

シュウスケ 「正直、全然そんなふうに考えてなかったんだけど」
ユウカ   これはちょっと行く末を見守りましょう!
チハル   (大声で)はい!

チハル、思わず、ユウカの肩をぶつ

ユウカ   落ち着いてください、チハルさん。
ヒナ    こういうの好きなんだな。
ユウカ   この子、あいのりとか好きなんですよ。

チハル、キャーキャー言ってる

ユウカ   「ホノカさん、こうなったらもうちょっと釣ってもらえませんか。

チハル、ユウカの肩をぶつ

シュウスケ   「今日、いっしょに帰る?」
ユウカ   釣れたー!
ヒナ    もういいでしょ。ね。

ヒナ、ホノカに確認

ホノカ   えー。
ヒナ   「あのさあ、文芸部の、先生も入ってるグループの方見て」
ホノカ   ああ、言っちゃった。
ヒナ   何言ってるの。
ホノカ   もうちょっとこのままで。
ヒナ   おい!
ホノカ   今日、いっしょに帰ろうって。

ユウカ、チハル大喜び
チハル、ユウカに耳打ち

ホノカ   何?
ユウカ   あと付けていいですかって。
ホノカ   バカ!

LINEの着信音

シュウスケ  「文芸部をやめたいと思います」
ホノカ   え!
ユウカ   えー!
ヒナ    やばいやばい。やり過ぎた!
ホノカ   「ごめん、なんか変な書き方しちゃって」

着信を待つが来ない

ホノカ   まずいまずいまずい。ごめん、ちょっと行ってくる。
ヒナ    もう今日時間だよ。
ホノカ   あっ、じゃ、このまま解散で。花、ちょっと持って帰られる人は家で進めてください。じゃね!

ホノカ、出ていく
LINEの着信音

先生   「恋はうまくいきそうですか」
ヒナ    うまくいくかな。
ユウカ   ホノカな恋。
チハル  (大声で)恋かあ。

みんな、チハルを見る
チハル、逃げる

ヒナ    恋かあ。
ユウカ   恋かあ。

チハル、椅子に座って花をつくる

ヒナ    いや、もう帰ろう。よーし!今日はここ、このままでいいよ!
ユウカ   やった。
ヒナ    みんなで妄想しながら帰ろう!
ユウカ   えー!だれにします?相手。
ヒナ    妄想の?
ユウカ   あたし言ってもいいですか。
ヒナ    いいよ。
ユウカ   もしかぶったら譲ってくれますか?
ヒナ    人によるよ。
ユウカ   えー!
ヒナ    わかった絶対譲るから言って。
ユウカ   じゃ、あたし善逸で。

みんな、「おー」

ヒナ    なるほど。
ユウカ   かぶりました?
ヒナ    あたし、煉獄さんで。
ユウカ   そう来ましたか。
ヒナ    チハルは?
チハル   (ためて)鬼舞辻。

ヒナ、ユウカ、かなり引く

ヒナ    帰ろう。
ユウカ   帰りましょう。

ヒナ、ユウカ、出ようとする

チハル   頭を垂れてわれにつくばえ。

ヒナ、ユウカ立ち止まる

ヒナ    帰ろう。

ヒナ、ユウカ出ていく
チハル、部屋に残って

チハル   つくばえ。

チハル、去る

先生の布団に明かり

先生    ああ、恋か。恋は二句続く。続くのかなあ。

LINEの着信音

先生   「元気?」えー!ここでLINE来るか?「元気じゃないから休んでるんだけど」「そりゃそうだウケる」「おい」「これから行こうか」「え?来るの?」「何か食べたいものある?」「カレーかな」「いいねえ、じゃ作っといて」「作ってくれるんじゃないの?」「だってあたし働いてるし」「なるほど」「頼むね」「り」「ビール冷えてる?」「うん」「飲んでいい?」「いいよ」「送ってくださる?」「いいよ」「あのさあ、ずっと休んでていいよ」「ありがと」「じゃあ、8時かな」「り」

先生、スマホの画面を見て

先生    うーん、学校行くか。

溶暗

3 三日目 9句~12句

音楽
教室
チャイム

ユウカ、チハル、入ってくる

ユウカ   これは?夏休みバケツかぶっていい気持ち
チハル   『全校ワックス』!
ユウカ   ダメか。恋でもないし。恋か。恋ねえ。これは?BTSバター踊ってカッコいい。
チハル   (大声で)おまえもしかして才能ないな!
ユウカ   あるよ!絶対、九はあたしが出す。

ホノカ、シュウスケ入ってくる

ユウカ   こんにちは。
ホノカ   みなさん、ごきげんよう。

ユウカ、チハル、固まる
ホノカ、シュウスケ机に向かい合って座る

ホノカ   今日、仕事?
シュウスケ  うん。
ホノカ   もう行く?
シュウスケ  うん。
ホノカ   スマホ、生かしといて。
シュウスケ  うん。
ホノカ   じゃね。
シュウスケ  うん。

シュウスケ、出ていく

ユウカ   あいつうんしか言わなかったすよ!
チハル   うんしか言わないあなたを見てる
ユウカ   なぜすぐできる!
チハル   通せんぼのごと手を広げて夏の夕
ユウカ   いいじゃん。
チハル   教室を出ない二人と赤とんぼ
ユウカ   天才か!
チハル   美しくなくてもいいねヒヤシンス
     ポエムどんより放課後の空
     私には私のカバンひばり鳴く
     明日からどうしていこうラフランス
     月が二つ浮かぶのを見る
     ユウカ チハル、どうした?
チハル   どうしようとまらない
ユウカ   友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
チハル   それ石川啄木。

LINEの着信音

先生    「九がなかなか来ないね。苦労してる」
ユウカ   「そうなんです。でもどうしてもわたしがつくりたいんです」
     「どうすれば言いたいことが見つかるんですか」
先生    「あなたのいいなあと思う風景を詠んで、ああこの人はこういう気持ちでいたんだなあと人に思わせることだね」
ユウカ   察してもらうのか。いい風景いい風景。
    「ほっぺたにナルトを付けて帰り道」
チハル   何それ。

LINEの着信音

先生    「それはさすがに意味不明で取れません」
ユウカ   「二人でラーメン食べたんです!」
先生    「ラーメン食べるとほっぺたにナルトが付くんですか!」
ユウカ   「付きませんか逆に」
チハル   ほかのにしようか。
ユウカ   どうしよう。ホノカさん!
ホノカ   なーにー。
ユウカ   ホノカさん?
ホノカ   なーにー。
ユウカ   ダメだ使い物にならない。
チハル   花すごい多い。
ユウカ   君と折る色紙のホノカ
     ダメか。折る折る。花を折る。ホノカさんホノカさん。
    「ほのかほのか紙を折りつつ君待つか」(九恋・ユウカ)
チハル   いいと思う。
ユウカ   ほんと!

LINEの着信音

先生   「取りましょう」
ユウカ   やったー!
先生   「目に浮かびますね」

チハル、スマホでホノカの動画を撮り、先生に送る

チハル   「こんな感じです」
先生    「次も恋です。七七です」
ユウカ    もう任せる

ヒナやってくる
大きな袋に花

ヒナ    つくってきた。
ホノカ   ありがとう。どうして?
ヒナ    つくったら悪いの!
ホノカ   おやツンデレでしたか。
ヒナ    見たよ。恋の句。ほのかほのか。
ホノカ   なに?
ヒナ    見てないの?
ホノカ   スマホスマホと。
ユウカ   あ、すみません、ちょっと名前借りました。
ホノカ   いいよー別にー
ヒナ    うれしそうだな。
ホノカ   じゃ、あたし付けよ。
    「君の作ったカレーでビール」

LINEの着信音
連続で鳴る

先生    「なんで知ってるんですか!
ホノカ   「どうしたんですか?」
先生    「取りませんよそんなの」
ホノカ   じゃ、仕方ない。
     「先生、これはどうですか?」
     「この学校の魔人の存在」(十・ホノカ)
ヒナ    これ恋?
ホノカ   恋だよー
ユウカ   魔法使いくらいならわかりますけど。恋は魔法ってか。
ホノカ   魔人がいるんだよ。学校には。
先生    「取りましょう」
ユウカ   「先生、連句で取る取らないって決める人って名前あるんですか?」
ヒナ    名前あるの?
ホノカ   知らない。
先生    「どれはさばき、と言います」
ホノカ   裁き、か。裁判の裁。裁かれるの?わたしたち。
ユウカ   「裁判の裁ですか」
先生    「裁判の裁じゃないです。あなた方を鯖いたりしません」
     「手へんに別れるで捌きです。手羽先というときの捌きです」
ユウカ   「手羽先ですか」
先生    「打ち間違えました。手捌きです」
ホノカ   でも裁かれるのといっしょだね。

チハル、手を挙げて

チハル   次、いいですか。
ホノカ   いいよ。
チハル  「図書館は森どこまでも分け入って」(十一・チハル)
先生    「取りましょう」
ホノカ   魔人からの転じだね。
チハル   はい。
先生    「いい連句になりましたね。連句のルールはかなり無視してますが。最後の句を詠んだら読み上げをお願いします」
ホノカ   読み上げにふさわしい舞台をつくろう。

ホノカ、机を寄せて袋から花を出す
机に花を並べる

みんな椅子に座る
床にも花がこぼれている

ヒナ    わたしたち、死ぬの?
ホノカ   死なないよ。
ユウカ   「最後の句ってどんなのがいいんですか?」
先生    「最後は発句が秋なので春がいいですね。連句は前へ前へだから、過去を振り返らずに前を向いて、軽く穏やかに終わりましょう。連句はエゴ、保身、自慢、想像力の欠如、自己陶酔はダメですよ」
ホノカ   「前へ前へ、ですね。
先生    「そうそう」
ホノカ   「先生も前へ前へ、進みましょう」

先生、たちあがって大きく深呼吸

先生    「連句は振り向かない」
ホノカ   振り向かないって。
ヒナ    よく言ったね。
チハル   楽しかったです。みんなでつくるのがいいです。
ヒナ    ふつうにしゃべってるね。
ホノカ   わたしつくるね。
     「歌は言葉の花なのだから」(十二・ホノカ)
先生    「みなさん、よくできました」
ユウカ   「先生、待っててください」

ユウカ、ライブで動画を送る

先生    「ああきれいだ。白い花がたくさん。みんな、死ぬの?」

みんな笑う

ホノカ   いい部誌になります。ありがとうございました。また連句やりましょう。

みんな、拍手

ホノカ   では、ごほうびに花を付けましょう

みんなで花を付けあう
笑いながら


音楽

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