貝殻拾い

 貝殻拾いは楽しいものだ。しかしわざわざ苦しみを携えて貝殻拾いなぞしている。君が聞いているのはそんな人間の言葉なのだ。脂肪が見えるまでリストカットを続ける少女の話を軽蔑しながら読んでいる。しかし耳を澄ますと、その根底に強烈な憧憬の心音が聴こえる。蔑視とは抗しがたい魅力に対する奇怪な防衛本能の一種である。

 魅力。自傷はむしろ快感であり、苦しみに数えることは出来ない。歯痛にだって快感が潜んでいる、という不気味な小役人の絶叫が全ての始まりだったことは、君も知っているだろう。貝殻拾いは自傷行為であってはならない。しかしその遊戯の苦痛の目的を、誰が知ろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?