【備忘録】幻のファミコン版ファイナルファンタジーIV


はじめに

ファミコン版ファイナルファンタジーIV』という、幻の作品をご存知だろうか。

『ファイナルファンタジーIV』は、1991年7月19日にスーパーファミコン用ソフトとしてスクウェアから発売されたFFシリーズの4作目。
発売決定した当時は『V』として発表されており、『IV』はファミコン用ソフトとして開発中だったという逸話がある。

ここからは、それぞれ『ファミコン版FF4』『SFC版FF5』と表記していくが、『ファミコン版FF4』についてはハッキリしたことが分からず、様々なウワサが広まっている。
今回、『ファミコン版FF4』の情報を改めてまとめてみた。


◆ファミコン版FF4の実像

当時のゲーム雑誌でどのような情報が出ていたか、ファミリーコンピュータMagazine、ファミコン通信、マル勝ファミコンの3誌を中心に紹介していく。

・第一報

どの雑誌でも第一報は『SFC版FF5』の発売決定についての記事。その中で『FF3』の続編が『FF5』になった経緯として『ファミコン版FF4』について記載がされている。画面写真などは無い。

ファミリーコンピュータMagazine 1990.11.16

えっ?『V』?いったい『IV』はどうなったの?と思った人もいるんじゃないかな?実は『IV』はファミコン用のソフトとして企画が進行しているらしいとの情報も入ったんだ。こちらのほうは、まだ実際に発売されることは決定されてないけれど、そんな理由でスーパーファミコン用には『F.F.V』と名付けられたんだ。

ファミリーコンピュータMagazine 1990.11.16
増刊ファミコン通信 Vol.1

ー IVはファミコンで発売するんですよね?
スクウェア ファミコンです。現段階ではまったく未定ですが、開発は進めています。
ー じゃあ「V」が先に発売しちゃいますよね?
スクウェア 開発は『III』が終了した時点から、『IV』、『V』同時にスタートしたのですが、進行状況及び市場動向を検討し、スーパーファミコン用の『V』を先に発売することに決定しました。現在『IV』のスタッフは全員『V』の開発にかかっています。

増刊ファミコン通信 Vol.1
マル勝ファミコン 1990.11.23付録

ファミコンでは「III」までがリリースされている『FF』シリーズ。その最新作となるSFCソフトは、いきなり『V』が登場する。???『IV』はどうしたの???
縁起の悪いナンバーだから、1つ飛ばしたのかな?理由があるのです。実は、『IV』はFC用ソフトとして、現在も企画が進行しているのだ(寺田憲史さんもスタッフに参加している)。ただし、『IV』の発売は決定してないとのこと。こちらの発売は、今後のリリースを注意しておくように。

マル勝ファミコン 1996.11.23付録

・第二報

第一報から3か月後。『SFC版FF5』改め『SFC版FF4』の第二報にて『ファミコン版FF4』はその姿を見せることなく開発中止が報じられた。

ファミリーコンピュータMagazine 1991.2.22

タイトルを見て仰天の人もいるかも知れないが、結局スーパーファミコン版の題名が『V』から『IV』に変更された。
端的に言えば、ファミコン版として作られていた『IV』が、製作中止となり、『V』が『IV』へと繰り上がってしまったワケ。

ファミリーコンピュータMagazine 1991.2.22

と、ファミリーコンピュータMagagineが変更をあっさり伝えたのに対して、ファミコン通信とマル勝ファミコンではスクウェアからのFAX文面について書面を多く使って紹介している。
そのFAX文面にて開発中止の理由について曰く、

ファミコン通信 1991.2.22
マル勝ファミコン 1991.2.22 付録

(前略)
昨年末の状態で作品性を検討いたしました結果、ファミコン版「ファイナルファンタジーIV」は、「ファイナルファンタジーシリーズ」の続編としてその名に恥じない作品ではあります。が、同時に進行しておりましたスーパーファミコン版「ファイナルファンタジーV」の完成度はストーリー性、ビジュアル、キャラクターの動き、イベント等どれをとってもIVを大きく上まわる作品であると判断いたしました。無論、これはスーパーファミコンというハードウェアの力に負う所も多いのですが、スクウェアといたしましては、より優れた作品をファンの皆様に提供する責任があり、この時点で「ファイナルファンタジーIV」の開発中止を決定いたしました。
(後略)

FFVに関する名称変更のお知らせならびにお願い    

なお、マル勝ファミコンでは「作品性を判断できるレベルまで出来ていたとすると『FC版FF4』は70%以上は完成していたのだろう」という見解を述べており、これがFF用語辞典での「70%はできていたらしい」の記載の元になっている。

・その後

開発中止の発表以降にも『ファミコン版FF4』について語っている記事があるので紹介していく。

マル勝ファミコン 1991.3.8•22

ー さっそくですが、発売中止の理由は?
平田氏(以下:平) シナリオでは誰にも負けない自信がありますが、システム的に納得いくものができなかったということですね。
 (中略)
FCのハードではシステム的にもう限界なんです。『III』を越えられない。ソフトの価格を上げれば可能ではありますが。

マル勝ファミコン 1991.3.8•22

FC版FF4はFFシリーズの続編として、その名に恥じない作品」だったはずなのだが、ファミコンでは『FF3』を越えられなかったのが開発中止の理由と語るのは、スクウェア広報の平田氏。
インタビュー内でハードの限界は最初からある程度わかってたのでは?とのツッコミを受けている。

さらにFF4発売後のインタビューでは、ディレクターの坂口氏も質問を受けている。


HIPPON SUPER 1991年8月号

ー では、ゲームの成立ちの部分でぜひお聞きしたかったことなんですけど、あの、ボツになったFC版の・・・・・
坂口 ああ、IVですか。ありましたね。そんな話も(笑)。
ー まったく別の企画として進行していたんですか?
坂口 そうですね。実際は、ほとんど初期コンセプトだけ作った、という時点でストップしちゃってたんですけどね。
 (中略)
坂口 いや、シナリオもまだ完成していませんでしたから。結局、ペンディング状態のまま流れちゃったんですね。

HIPPON SUPER 1991年8月号 

更に話が変わって、平田氏が自信ありと言っていたシナリオは完成していなかったし、作ったのは初期コンセプトだけだったと語られている。FFシリーズの続編として、その名に恥じないのはコンセプトだったのか。
同インタビューによるとSFCの方の『FF4』の初期コンセプトが作られたのが1990年5月なので、同時にスタートしたFC版の開発はこの頃にストップしたのだと推察される。

★雑誌記事のまとめ

判明した情報をまとると、このようになる。

【ファミコン版FF4について分かった事】
・『ファミコン版FF4』を発売するとは言ってない
・ロゴや画面も公表されることが無く、開発中止
寺田憲史氏が参加していた
・『SFC版FF5』と同時に開発がスタート
初期コンセプトのみ作って開発はストップし、スタッフは全員『SFC版FF5』に参加
開発中止の理由は『SFC版FF5』に見劣りするし、ハードの限界で『FF3』を超えることも難しかったから

ウワサに聞く『ファミコン版FF4』とはだいぶ違うと思った人もいるのではないだろうか。
次に、ウワサがどこから発生したのかを確認していく。


◆ファミコン版FF4のウワサ

・画面写真

以下の画像をネットで見た人もいると思う。実際にゲーム雑誌で見た記憶がある人もいるだろう。

ファミコン版FF4?

この画像の正体は、『ファミコン版FF4』も『SFC版FF5』も発表前のファミコン通信1990年11月9日号のRPG特集。
人気作の続編を予想している記事の右上、記者が独自に作成した予想画面を抜き出したものである。

ファミコン通信 1990.11.9の特集記事

記事内では他にもジョブの追加(手品師、神父、コック、大工)なども予想していて、これを本物の『ファミコン版FF4』の記事として読んだと記憶している人も一定数いるようだ。

・実は8割できていた

8割ほど完成していたというウワサ、の大元となったと思われる2001年の書き込みが掲示板『2ちゃんねる』の過去ログに残されている。

幻のFC版FFⅣについて語るスレ

この書き込み自体は、怪しげなリンクを踏ませる為のいわゆる"釣り"。
インタビュー内容は捏造なのだが、8割完成したデータが存在するというロマンに惹かれた人たちによって今なお伝播されている。

・聖剣伝説2になった

『ファミコン版FF4』がFFUSAになった、ゼノギアスになったなど色々な後のスクウェア作品になったと言われる中で、最も多く言われているのが聖剣伝説2。
2006年8月24日に電撃オンラインに掲載されたインタビューでの田中弘道氏の発言が元になっている。

『FFIII』の制作終了後に、もう少しアクション寄りで、戦闘を切り分けたスタイルじゃなくて、フィールド上でダイナミックに遊べないかないう方向で考え、『FFIV』を制作しはじめました。それが、いつの間にか『IV』ではなくなって……最終的には『聖剣伝説2』として発売されたわけですが、実はそれ、開発過程では『クロノトリガー』と呼ばれていたものなんですけどね(笑)。

インタビュー『ファイナルファンタジーIII』 -電撃オンライン

世に出なかったFF4の話ということで『ファミコン版FF4』と結びつき、「ファミコン版FF4は後に聖剣伝説2になった」と実しやかに語られるようになった。

実際どうかというと、別のインタビューで田中氏が語って曰く

『聖剣伝説2』のシステムはもともと『FFIV』のシステムとしてデザインしていたもので、(中略)『FFIV』で坂口さんがそれまでフィールドで表示されていた16*16ドットの正方形のプレイヤーキャラクターと世界の箱庭感っていう物にこだわっていて、私はバトルの方の頭身、16*24ドットの少し頭身が高い方のキャラクターでフィールドもやったほうがいいっていうので衝突した部分があって、『FFIV』から離れてしまったんですよね。
スーパーファミコンになって解像度や表現力が上がったのに、未だにファミコン時代の小さいサイズのキャラクターにこだわるのかっていうところに疑問があったんですよね。

『ファイナルファンタジーIII』30周年記念スペシャルインタビュー Vol.1

ということで、田中氏のFF4案はスーパーファミコン用の初期案の一つであったことが示されており、『ファミコン版FF4』の話では無いことが分かる。

◆ファミコン版FF4の幻

田中氏のSFC向け企画については別のインタビューでも語られていて、それは『FF5』ではなく『FF4』であったという。

小山田氏:
 聖剣2の,ごく初期の企画書を見たときに,「ファイナルファンタジーIV」って書いてあって,石井さんが描いた戦士のドットキャラが並んでいて驚いたことがあります。

「『聖剣伝説』25th Anniversary Concert」開催記念インタビュー第2弾。


何故にSFC用ソフトとしてのFF4が検討されていながら、ファミコンでFF4を出すことになったのか。
何故に見劣りするのが明白で、開発も初期で止まっていたファミコン用ソフトを後で出すかもと公表するまで至ったのか。

その答えに近いと思われるのがアニバーサリーアルティマニアでの時田貴司氏の発言。

結局、FC版『FFIV』の中止が決まり、SFCで『FFIV』を発売することになったんですが、目標としていた『ドラゴンクエスト』の作品のナンバーに追いつき追い越せで、SFC版を『FFV』として売ろうか、なんて話が出たりもしました。いま思えば、おおらかな時代でしたよね(笑)。

ファイナルファンタジー 20thアニバーサリー アルティマニア File2:シナリオ編 118頁

開発中止の発表時の出来事なら欠番にする話が出ただけで"おおらかな時代"とはいうのは大袈裟な感じだが、これが『SFC版FF5』が発表される前の話で、最初から4を永久欠番にするつもりで5を発表していたのなら…
それは"おおらかな時代"と言うのがしっくり来るだろう。

実際に並んだ2つのV
マル勝ファミコン1990.12.21付録


ドラクエに追いつき追い越せでFFに欠番に作ろうとした話は、コンサート中のトークで植松伸夫氏も語っている。ただし欠番になるのは5と言う話で。

これは氏の覚え違いor言い間違いで『FF4』の話だったのではないか。
『ファミコン版FF4』の持つ不自然さは、社長命令との苦闘の産物だったのではないか。


偽記憶。妄想。思い込み。推測。


ファミコン版ファイナルファンタジーIV。
それは、幻。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?