県民音楽のひろば 群響クラシック・スペシャル(ソリスト:角野隼斗)

昨日、久しぶり(3年ぶりくらいかな)のホールコンサートを聴きに、群馬県の桐生市まで行ってきた。

結論から言って、

「行 っ て よ か っ た !!」

この一言に尽きる。

もうね、角野隼斗が最高だったのは言うまでもなく、群馬交響楽団がすごかった!

指揮の藤岡幸夫さんが魔法使いだった! マエストロ!!

このトライアングル・ハーモニーの調和がね、相乗効果がね、一体感がね、すごすぎた!

ソロのかてぃんさんはソロとして個性的でかっこよくて楽しくて最高なんだけど、それだけじゃなくって、ポップスでもジャズでもジャンル関係なく、「誰かと合わせる」ときのかてぃんさんは別枠の真骨頂があると思ってて。どっちが本当のかてぃんさんか、ってことじゃなく、どっちも真の姿だと思う。

私はこのセッションで見せるかてぃんさんの表情とか音がとても好き。
なんというか、寄り添う姿勢が好き。

というわけで、レポをしようと思い立っているんだけど。角野隼斗の一挙手一投足を! というよりはオーケストラのレポ込みになると思う。それから、魂抜けてたから断片的だったり、ココがすごい! みたいなピンポイントじゃなくて、ふんわりとした印象で語ってしまうことをご了承クダサイ。

では!

【チャイコフスキー/歌劇《エフゲニー・オネーギン》作品24からポロネーズ】

クラシックに馴染みがない人でも耳にしたことはあるんじゃないかな。華やかな社交界を思わせる舞踏のリズムに心が踊る曲。

もうね、金管のファンファーレが響いた瞬間、お城の舞踏会に招待されちゃったみたいな感動!

ここでまず驚いたのが、群馬交響楽団(群響)の揃い方。一糸乱れぬとはこのことか! っていう音。複数人で構成されてる各パートが、それぞれひとつの楽器みたい。音色も、リズムも、動きも、全部がぴったりと合ってた。

特にヴァイオリンの揃いがすごかった。オーケストラのヴァイオリンって、同じフレーズを弾いていてもコンマスの音がひときわ響いていたり、楽器の響きがそれぞれ違って聴こえたり、弓の動かしかたも個性があったりするなーって思ってた。もちろんそれらが重なることで生み出される多重な音が素晴らしいと思うんだけど、それとは別枠の感動がそこにあったよ。

例えば……バレエの群舞で、足の高さとか顔の動かし方がぴったり揃ってるみたいな、そういうのをみた時の感動が近いのかな。シンクロ率が100%超えてた。平たい言い方したらCGか! っていうくらいの揃いかた。

うわー。このオケのラフ2、やばい。そういう期待が否が応でも膨らんだ。つうか泣いてた。

角野隼斗出てくる前から泣いててこれから先どうなるんだよ、って心の中でセルフツッコみしたら妙にツボってしまったりもした笑

泣いたり笑ったり、既に感情のリミッターはココで解除。きっとこの日の1曲目をコレにした思惑にまんまとハマったんだと思う。ワクワク感がMAX。

そして満場の拍手で曲を終えたら、ステージの隅からピアノが移動。ピアノに合わせてオケが二度目のチューニング。こういうのでもうドキドキする。

【ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18】

そして殿が颯爽と登場! 配信でも常々思ってたけど、足の長さがすごかった。(生の第一印象そこかよw)

私、乱視が結構強いのに生活には支障ないからってここ何年も裸眼で過ごしてて、そのためステージにいる人の細かい表情や動きはあまりよくわからない。それでもオペラグラス越しでみる生って好みじゃないので使わない。

それでも、17列目のど真ん中という席は画角がすごかった。もうね、本当に目の前。通路に面した席だったから、人の頭とかそういうのナシで、ステージとほぼほぼ同じ高さに目線がある。かてぃんさんが座ると、鍵盤は見えないけど鍵盤を押さえる瞬間の指もちゃんと見える、そういう目の高さ。

うわー。生かてぃんが動いてる。なんかそんな感覚。もっとぎゅんぎゅんした興奮がくるかと思っていたんだけど、現実感がなくてぽかんとしてしまった。

そして最初の1音までの時間、私は何を思ったか、目を閉じた。自分が初めて聴く音、あの低音を逃したくなかったんだと思う。でもよく考えたら、見ろよ自分! 最初の音を弾く前の仕草とか、指の置き方とかをさ、見た方が良かったんじゃないの! って、大反省。

でも後悔はしてない。
誰もが息をひそめてその音を待つ長い静寂が、とても心地よかった。そして初めて私の中に入ってきた音は、低く、静かで、落ち着いていて、「聴きたかった音だ」って痺れるような感覚だった。

目を開けたら、そこに角野隼斗がいた。

オーケストラに囲まれて姿勢を正す凛々しい青年が、目の前にいた。時に指揮者を見つめ、時に長い前髪を大きく揺らし、全身を音にして真摯に音楽を奏でていた。

大好きな低音がピアノの弦を震わせ、独特の金属音が幾重にも折り重なってた。
端まで綺麗に鳴らせる稀有の高音は、予想していたよりももっと、もっと、透き通ってた。

そのどれもが、紛れもなく1台のピアノの音なんだけど。他の何でもないピアノなんだけども。単に「ピアノ」と形容するには収まりきらない多彩な音色だった。

散々彼の特殊で類稀な音色を聴いていて、その魅力に憑りつかれているはずなのに、生の音にはまだその先があった。

特に高音がすごすぎた。妖精の足音みたいに小さな音でも、遠くまで鳴り渡ってた。何に例えると近いかな……物理的に細い金属の弦が鳴ってる音だからそのまんまだけど、ものすごく綺麗な金属音で……丁寧に鋳造されたおりんとか、そういう感じ。耳の奥に、あの高音がずっと残ってて、ずっと脳をくすぐる。金属なのに、頭の中を柔らかい羽根でくすぐられてるみたい。

そんなだったから、1音目から、泣いてる場合じゃないと思った。聴き逃しちゃいけない。そんな気持ちでめっちゃ演奏に集中した。

今回のかてぃんさんは、最初の方で書いたように、藤岡さんと群響の音に合わせている感じがした。生で聴くのは初めてだけど、それとは別に、いつもと違う音色のセットを使っていたように感じた。初めて聴く音だなと思った。

一言で言うなら「ノーブル」。
一糸乱れないオケと足並みを揃えた、伝統と気品に溢れる音色。生まれた瞬間から王子様でしたけど何か、みたいな、特別じゃない、当たり前の「ノーブル」が佇んでいた。とにかく高潔。とにかく上品。とにかく美しい。あと崇高というか、神職の清涼感とか、そういう感じもした。

そもそもオケがすごくて、流れるように曲が進む。オケもかてぃんさんも、大人しそうな、従順そうな規律ある音の中にいるのに、抑圧的なんかでは決してなくて。それを自分の意思でやっているんだって感じがすごく力強かった。オケと、かてぃんさんが、同じ方向を見て進んでるのが本当にすごくすごく美しかった。

オケが藤岡さんの動きに合わせて、蜂の群れが移動するみたいな音の動きをして右に左にと、うねる。この上なく品があって、それなのに力強さとか芯のしっかりした、大地に根差した音。緻密で繊細、かつ大胆。動く時、止まる時に一切のためらいも乱れもない。

がてぃんさんが少し溜めるような感じでいくときも、オケと音が全然離れなかった。指揮のタイミングなのか、セッションの呼吸なのか、両方なのか、全部に気を配って見れていなかったからわからないけど、聴いている間じゅう「おお、ジャスト!」「うわ! ここも合ってる!」「この疾走感までシンクロってどういうこと!?」「引き際あぁぁぁ!!! ピッタリかよ!」みたいに、驚きっぱなしだったのだけ憶えてる笑

本当にね、自分が角野隼斗目当てで行ったことを忘れて聴いてた。ハーモニーのバランスが素晴らしすぎた。これも含めて角野隼斗鑑賞なんだろうけど、オケ好きだからどうしてもオケも聴いてしまう。だからかてぃんさんだけを見ていられるように、リサイタルもいつかぜひ生で観たいって思う。

第一楽章で印象に残ってるかてぃんさんのパートは、最後のとこ。夢みたいな音だった。高音はコロコロとよく歌ってて、低音は雄大に響いてて、この部分だけでもいいからYouTubeに公開してくれないかなって思った。これ聴いたらきっとみんなアーカイブ購入しちゃうよ! って。

第二楽章はフルートとかの管楽器と一緒に演奏するところとかが本当に甘くて、フルートさんたちが心配になるレベルだった。私なら心臓もたないって思った笑
甘いフレーズの色気、PTNAの時より後からどんどんマシマシになってるよね。第二楽章の終わりのピアノも美しかった。というか夢中になっちゃって、各楽章の入りと終わりが見える後半しか憶えてないのかも笑

そして私の大好物、第三楽章の入りのバネる低音のとこ(PTNAの25:00からの2秒間)! ここは絶対何があっても聴き逃さないぞって気持ちで聴いてたんだけど、そこへ向かう時のペダル捌きがすごかった。

他のとこでもすごかったんだろうと思う。足でバスドラ叩いてるドラマーかってくらい動いてた。ペダル踏む音もアツかった。(ペダル音は他のとこでもときどき聴こえてた)あと足といえば、曲を通してペダル踏んでないときもリズムにあわせて足が動いてた。YouTubeライブとかで見せるノリノリの左足ほどじゃなかったけど、クラシック曲でこんなに足がノリノリなピアニスト珍しいなって楽しくなった。私が知らないだけかもだけど。個人的にはクラシックだって、奏者も観客も、もっと体動かしていいと思う。

それとココでもオケがジャストで、それも合わせて体が熱くなった。ストリングス全体のボウイングの刻みとうねりが、ピアノと入れ代わり立ち代わりながらきっちり揃う。第三楽章は耳がピアノモードになってたけど、オケがぴったり重なってて、コントラバスがピアノを押し上げてくるのがゾクゾクした。(妹がコンバス奏者だったので耳がそっちいきがちw)

終わりに向けて、かてぃんさんがやや走るかのように一瞬感じたんだけど、そこも計算通りですよーって感じで同時に全体にも疾走感がついて一気に加速した。こんなにノーブルなのにアツいってどういうこと? っていうクライマックスだった。最後のバスドラ(大きい太鼓)の大一番もジャスト!

もうね、フィギュアスケートで言ったら、プログラムの技のとこ全部がパーフェクトに決まったみたいな演奏だった。演奏終わった瞬間、決まった! ってなった。

新しいラフ2を聴いたなって思った。本当に「美しい」って言葉がよく似合う、素晴らしい演奏だったと思う。藤岡マエストロ、ブラボー! 群響ブラボー! もちろんかてぃんさん最高にブラボー!! 同時に、オケによってこんなに色を変えるかてぃんさんのラフ2、今回だけで終わらせられないなと思った。一度は観たいと踏み込んだ生の世界は底なし沼だった。

ちなみに私には、一生に一度絶対に生で味わいたい角野隼斗の演奏が、3曲ある。
ショパンの英雄ポロネーズと協奏曲1番、それからこのラフマニノフの協奏曲2番。

行きの電車の中で、今日ラフ2を聴けるし、8月のショパ協1番はチケットあるし、あとは英雄だけだ、とか思ってたけど、とんでもない。PTNA特級グランプリをとったサントリーホールでのラフ2だっていつか聴きたいし、海外のオケを招いて共演する機会だってあるかもしれないと思ったら、何度でも聴きたいと思ってしまう。どんどん欲張りになる。

もしまだ生の演奏を聴いていない人がいたら、覚悟して欲しいと思う。ここは沼です。一度味わったら抜け出せない、何度も欲しくなる沼。でもとっても気持ちのいい最高の沼だよ(*^艸^)

そして長いスタンディングオベーションの末に、かてぃんさんがしょうがないなぁって笑顔で「一曲だけね(表情だけ)」と人差し指を立てた。ソリストのアンコール! 群響さん藤岡さんありがとうございます!!!!

【EN:角野隼斗/7 levels of "Twinkle Twinkle Little Star"(きらきら星変奏曲)】

まさかコレを聴けるとは! 
ノリノリの足踏みと指パッチンを繰り出しながらも、TPOに合ったクラシック寄りの雰囲気。それでいてTPOには合わせつつも、音の出し方が角野全開。ラフ2は協調性重視、アンコールはノーブルだけど饒舌! って感じで、リラックスして鍵盤の上を軽やかに駆け抜けてた。はあ、このオマケご褒美すぎた。

すごくすごく名残惜しいけど、かてぃんさんの出番はココでおしまい。

【チャイコフスキー/交響曲 第5番 ホ短調 作品64】

この曲でようやく私は藤岡さんの動きに注目したと思う。静かめのフレーズから始まる、慎重なタクト。そこからだんだんと盛り上がるにつれ、指揮台の隅々までを使って各パートに指示を出してた。もっと広いサイズの指揮台が必要なんじゃないかと思うくらい笑

そうか、この的確な指揮と、それに応える力のあるオケだから、こんな演奏になるんだと、この時初めて感じた。要は、なんだかんだ言って前半は殿しか見てなかったらしい笑

そう思ってから、よりオケと藤岡さんの関係に注目して聴く。すると今までよりさらにシンクロ率が上がったようにさえ感じた。

金管とパーカッションがかっこいい曲で、管楽器の流れるようなフレーズがメロディアスな曲。特にティンパニーがかっこよかった!

そして何よりも。後半になって弦楽器の動きが凄まじいことに気付いた。流麗なフレーズに引っ張られてあんまりそこに目も耳もいかなかったんだけど、これコントラバスにとって恐ろしく難曲なのでは? ものすごい速さで弾き続けるコンバスに最後らへん数分間ずっと釘付けだった。コンバス、弦が太いから速弾きかなり大変なはず。こんど妹に聞いてみようって思いながら聴いてた(そしてすっかり忘れてた笑)

最後のほう全部の楽器がフルスロットル怒涛の音の洪水なんだけど、楽譜どうなってるんだろうってくらい弦のみなさんがえらいことになってて。藤岡さんの指揮も右に左にとすごいことになってて、だから他の楽器もえらいことになってたと思う。だけどものすごい勢いなのに本当に綺麗に揃う動きで、ため息が出るくらい美しかった。

【藤岡さんの挨拶】

大きな拍手とスタオベの中、藤岡マエストロが挨拶をしてくれた。
「角野さんファン、後半はいないかと思ったらずっといてくれた(*´▽`*)」みたいなこと言ってて「そんなわけないじゃん笑」って心の中で叫んだ。もちろん藤岡さんの本心じゃなくて軽いジョークなんだと思う笑

かてぃんさんのファンはTwitter上でも礼儀正しい人ばかりだし、クラシックのプログラムを聴きに来るようなガチ勢は、自分が演奏をする側の人も少なくないし、かてぃんさんが演奏する曲だけじゃなく全部の曲を楽しみにしてる。聴く専門だし詳しくもないけど、私もクラシック大好き。

それに、これはバンド時代からの推し事の心得でもある。ファンのマナーが悪いとバンドの活動に障るっていうのがある。ライブハウスの周囲にゴミを散らかしたり、そばのコンビニや飲食店で行儀悪く過ごしたりすると、あのバンド呼ばないでと苦情が入ったりするから。

ここまでのことはクラシックの観客では滅多にないことだとは思うけど、YouTubeやストリートピアノなどの活動でファンを増やしてるかてぃんさんなら、今後はあり得ない話じゃないかもしれない。

だからこそ、クラシックの世界に迷惑をかけないようにって思うし、同じ行くなら「角野隼斗を呼ぶと客席の反応がいい」って思ってもらえるほうが嬉しい。小さいことだけど。

【EN:エルガー/夕べの歌】

アンコールは今日の思い出をアルバムにしまうような、そんなイメージで聴いた。ああ、これで本当に終演なんだなぁってしんみりする気持ちと、素敵な一日を過ごせて幸せだなぁっていうあったかい気持ちが胸に溢れた。あとで調べたら、エルガーは「朝の歌」も作っているらしい。なので夕べ=一日が終わる、みたいな曲なんだろうな。だからきっと終わりっぽい感じがしたんだな。

【おわりに】

まためっちゃ長くなったけど、本当に素晴らしかった! 知性的で、実直で、真面目を極めた圧巻の演奏だった。

でもひとつだけ、気になったことがあって。

それは、会場の音響。
私がいた席は17列目で、横通路に面したど真ん中だったんだけど、ステージからの音がね、目の前までしか来てない感じがしてしまった。

それでも上記したとおりすっかり楽しませてもらったから問題はないんだけど、これはやっぱり、換気のために扉を開けていたからなのかなあと、ちょこっとだけ残念だった。

音は聴こえていたんだけど、生のホールで味わえるはずの会場全体から返ってくる音が全然なかったから。

ちょうどこの横通路の両側が換気のために開けられていて、休憩時に見た限りだと表のガラス扉も解放されていたから、この通路を境にして全部外に出て行っちゃったのかなと思った。

告知にも館内は換気のため解放するとあったから、不満ではない。だけどホールにとっては最高のパフォーマンスじゃなかったかもしれないってことだ。

だから、換気とかしなくて良くなったら、また桐生に群響を聴きに行きたい。

そして同じく、最高のホール状態で、角野隼斗を聴きたいと思った!!
絶対に聴く!!

Twitterで仲良くしてくださってるみなさまとも触れ合えなかったし……本当に本当に早くこの状態が落ち着いて欲しい。コ〇ナのばかーーーーー!!

というわけで、初めて生で観たかてぃんさんは足が超長かったし、透き通る高音は消えない残響となって脳をくすぐる中毒性を持っていた、というお話でした!(雑な〆)

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。





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