ピアニカと芸術と常識と

(今回いつも以上に話が遠くへ行きます。最後なぜか全然違う楽器の話になってるし)

かてぃんさんがまた面白い動画をアップしてくれた。

鍵盤ハーモニカ(たぶんヤマハのピアニカP-37D)をプロ並みに歌わせてノスタルジブリ感を存分に響かせてくれた。もうアコーディオンとかバンドネオンの音。

このピアニカ自体、子供が学校で使うアレよりかは鍵盤数も多いし、音色も豊かで、多彩な表現をしやすいモノではあるみたい。それにしたって弘法筆を選ばず。きっといわゆる普通の鍵盤ハーモニカでだってそれなりのものを奏でられるはずと思う。(追記:普通の鍵盤ハーモニカ演奏してました。しかもトルコ行進曲! 音はしょぼカワイイ感じだけどガチすごい! 参照『卒業式ピアノドッキリおまけ(ポケットウィズ)』

鍵盤ハーモニカの持つ能力に驚いてググってみたところ、学校で扱うリコーダーやカスタネットにハーモニカ、そしてこの鍵盤ハーモニカなどが、とても奥深い楽器だと知る。もっかい小学生に戻ってやり直したい気分。というか、各楽器習う時にさ、プロの模範演奏とか面白い演奏の動画とかたっぷり観てからとかしたらすっごいモチベ上がると思うんだけど。ピアニカがこんなカッコイイ楽器だと知ってる子供、あんまりいないはずだし、例えばカスタネットだってトライアングルだってスゴイ鳴らし方あるのに(少なくとも私の学校では)ダサ楽器扱いだった。せっかく習うのに、なんか勿体ないね。

それはさておき。このピアニカ演奏でかてぃんさんの音が多彩で多才な理由がなんとなく分かったというか。むしろ確信したというか。ピアニカ奏者の動画とかブログを漁って、その技法の難しさと探求の面白さについて少し触れることができた。特にタンギングという舌の技は本当に歌と言っていいくらい、微細な変化が音に影響するらしい。彼はきっとこういうのを試すことが好きなんだろうなと。

大学では研究者で、なんていうか、条件を変えた時の結果の変化とか、そういうものに面白みを感じる脳があるんだと思う。彼のピアノが時々、数値化されているような音に聴こえるのも、そういう理系なとこなのかなとか。

ここでいう数値化、は機械的で冷たいとかの意味ではなくて。彼のピアノはシンセみたいに多彩な音色を体が記憶していて、それを自在に出力している感じがするから。エレクトーンみたいにスイッチがあるわけでもないのに、指の当て方、腕の筋肉の使い方、そういうのの最適解を数値化したものがインプットされてる感じ。

川の流れ、海の中、水滴、雨……水だけでもきっと何種類もあって、楽器でいっても低音はコントラバスだったりエレキベースだったりするし、中高音も金管楽器だったり木管、弦とか様々で、特にガチでハープの音色があるの凄いし。彼の中で、「こんな音出るんだ、面白れぇ」で蓄積されてきた膨大なデータが、きっとあの多彩な音なんじゃないかなって。さらに彼の感情がエフェクターになって、より豊かで個性的な音色になる、みたいな。

知る限り、ピアニストさんは少なからず音色を複数持ってる。でもここまで多彩な人ってそう多くはないと思う。その差が、ここなのかな、なんて。ピアノだけじゃなく音に対して、まるで子供みたいに何でも試してみる感じ、ホント芸術家だし研究者。イマイチ使いどころのない『おりん』を衝動買いして持て余してしまうとか、失敗したら「失敗だということが分かったから成功」的な研究者のポジティブさもあると思うw

これは、諸刃の剣かもなぁとも、思ったり。どっちがどっちと言い切れるものではないんだけど、どちらかといえば保守的なのが演奏家、賛否両論を巻き起こしたり、時には炎上もありうるのが芸術家、って感じで思ってる。芸術家寄りのかてぃんさん、知名度や注目度が上がるにつれ、賛否両論を呼ぶタイプじゃないかなと。

実は、大好きなかてぃんさんだけど「ん?」と思ったことが一度だけあって。ライブで、ティロンティロンって鳴らして笑いをとったアレ。ちょっと、ドキっとした。311を思い出すんだ。ウチは言ってもたかだか震度6弱で家も人も無事な程度の被災者だけど、あの音は、いまだに心臓が嫌な跳ね方をする。ウチより被害が大きかった人たちがどう感じるかなとかも考えた。でも、それを責める気にはならなかった。彼を好きだからというのもあるけど。クラシックにも似た音が出てくるし、即興で指を滑らせていたらこんな音もここで出せるよ、となるのは自然なことだし。でもモヤは残った。

そのモヤを、このピアニカの演奏を聴いて吹っ切れた気がする。彼が多彩な音を生み出し続けるために、彼のアンテナで拾ったあらゆるものを音にするのは当然のことなんだ。それがちょっとアレなアレだとしても。それこそ、「こんなの音楽じゃない」とまで言われる前衛音楽に取り組んだっていいと思う。内部奏法とか縁を叩くのとか、既にいくつか使ってるし。そういう彼の好奇心旺盛な性格が、多彩な音の探求と蓄積にも関係していると思うから。

物事を既成の善悪で捉えて全方向に配慮して小さくなる必要はない。それがイコール優しくない、は絶対に違うと知っているから。誰しも、自分と距離がある物事に関して、その恐怖や悲しみを渦中の人と同じには感じられない生き物だから。彼がとても優しい人であることは、なによりも音を聴いていればちゃんと分かるから。

なるべく炎上とかしないでほしいけど、本当に自由に、自由に生きてほしい。常識を超えていくかてぃんさんを、もっと、ずっと見続けたい。


緊急地震速報の話になったから作曲者さんのことも載せとく。
伊福部達(いふくべ とおる)さん。電子工学の分野で様々な大学の名誉教授になってる方。叔父さんはゴジラの作曲で有名な伊福部昭さん。東大繋がりで、かてぃんさんとも縁がある、かもしれない。(下記は氏の2012 年「音の日」記念講演より「緊急地震速報チャイムの誕生秘話」)

あと、好きな前衛音楽というか楽器も載せとく。アナログ感! スチームパンク感! バンドマンなんだけどコレ作るのに2年かかったらしいw かてぃんさん、いろんな楽器ひととおり買って試し終わったら自作するかもなぁ、なんて。さすがにそれはないか。


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