世界よ、これが角野隼斗だ

角野隼斗の最新版ラプソディー・イン・ブルーがYouTubeに上がった。同曲は既に2014年、2019年の演奏が別チャンネルにあるが、これは今年、2021年2月にサントリーホールで行われたもの。そうだ、この時を待っていた。

待っていた、のには理由がある。角野隼斗は規格外のピアニスト、そんなのは沼では既に常識すぎる常識。テレビに映画に引っ張りだこのピアニスト清塚信也氏や、Jazzのレジェンド小曽根真氏をはじめ多くの実力者たちにも妬けるほど愛されまくる魅力を持っている。だけど少し離れたところから眺めると、他のピアニストとどう違うのかがいまいちピンとこないのではないかと感じていたからだ。

ここのところテレビやラジオでどんどん知名度を上げていって嬉しい限りと思っていた。けれど、テレビやラジオ、既存のYouTube動画では見られない規格外の部分を彼はまだ外に出していなかった。よくYouTubeのコメント欄に「これが無料でいいんですか!」なんて褒め言葉が書かれているのを見て、私はいつも心の中で思っていた。「これが無料は確かにありえないレベルだけど、お金を出すと、それはもう更にありえないレベルのものを見ることになるよ!」と。

念の為に断っておくと、彼は無料だからここまでにしとこうとかそんな制限をかけて出し惜しみしているわけでは決してないはず。ただ、ライブになると時には本人でも記憶が曖昧になるほどにぶっ飛んでしまうらしい。同じようにしようとしても家撮りとはまるで別人のようになる。

以前アルバムの先行でハンガリー狂詩曲の動画を観たレポを書いたのだけど、半月後に行われたサントリーホールリサイタルでの生の同曲は、ここまでバグったレポ(参考記事)を書く羽目になった衝撃さえ序の口だったのかとさえ思うほどにヤバかった。ぶっちゃけ狂気だった。クラシックのコンサート、という言葉に抱くような、お上品なお行儀の良いイベントを観たっていうのと全然違った。素晴らしいものを観た! っていう感動はもちろんなんだけど、どちらかというと恐ろしいものを観た! って気持ちのほうが近かった。(生といっても彼にとっての生であって、私は配信視聴でしたが)

けど大抵の人はあのヤバいところまではなかなか観ることはない。たぶん人は凄いものをみると「そこが上限のように感じる」のかなと思う。かてぃんさんのチャンネルには個人撮りYouTuberとしては本当に最高峰の演奏動画が山のように上がっていて、視聴者はシンプルにそれを「凄い!」と感動し、チャンネル登録してその中で満喫する。無料でここまで観られるのなら、これ以上わざわざお金を出してもたいして違わないだろうと。ごく自然な流れだと思う。けれど人類がまだ宇宙のその向こうを知らないように、多くの視聴者はYouTubeのその向こうにある角野隼斗をまだ知らないのだ。

角野隼斗に限らず、熱狂的なファンが世界だとか宇宙だ神だと言っているのを傍から見ていると、ずいぶん大袈裟に見えることがあると思う。けれどそれは見ている深度がおそらく違う。

バンド然りアイドル然り、テレビサイズで知ることができる魅力には限りがある。人気のある人になればなるほど、その向こう側が深く広い。沼とはよく言ったものだと思う。似たようなものが2つあるとして、100までしか測れない測定器では同じように100として見えていたものが、1000まで測れる測定器を使うとまるで別の結果になる、そういう感じ。

クラシックに話を戻そう。有名なピアニストともなると時々コンサートのフル尺放送があったりするけれど、まだ角野隼斗にはそこまでの知名度はない。なくて当然、ここから、今からの人なので。YouTubeに登録者が70万人いるのはとんでもなく凄いけど、お茶の間的にはまだまだ無名というアンバランスな状態。先日放送された「バース・デイ」や「題名のない音楽会」でも限られた時間の中での出演だった。もちろん充分すごいことだし、単独ドキュメンタリーや伝統あるクラシック番組出演なんて破格の扱いだし、感動したし、新たなファンも増えたと思う。けど何度もいうが角野隼斗は規格外なのだ。1000の測定器でも足りるかどうかという怪物度は、30分やそこらの番組ではとてもじゃないけれど紹介しきれない。

本当は生で観てもらうのが一番いいのだと思う。けれどちょっと興味を持ったくらいの人がいきなりクラシックのコンサートなんて敷居も高いし、このご時世だから、会場に足を運ぶのも難しいことだってあると思う。だいたい、コンサートは数千円(有名になると万単位)と、決して安くない。

配信なら2000円くらいからあるのでだいぶ近づきやすくなるが、それでもランチ数日分。何をするのにもお金がかかる今の時代、腹も膨れない娯楽にお金を払うという行為は、そもそも血迷った人の選択肢だとすら思う。だからせめて1曲、なにか1曲、これまで有料でしかみられなかったものをフルで無料公開してほしいとずっと思っていた。

そうしたらYouTubeの中で完結しているファンや、これからテレビやラジオで知って検索した人、どこかの大御所さんが突然に角野隼斗の名前を出したりして「誰?」となった時に観てもらえばだいたいのことが分かると思うから。

そして動画が公開された。はっきりいってこのページの最初の動画を観てくれさえすれば、その後の私の文章など読まなくてもいい。ダラダラ書いてみたところで、私が観てほしかったものはそこにあるし、私が言いたいのはタイトルの言葉だけだから。

世界よ、これが角野隼斗だ!!

そうは言っても生で聴いた音色は動画とは全然違ったし、上で書いた狂気の演奏もあるし、何よりも2ヶ月前の角野隼斗は現在の角野隼斗を説明するには既に古い。それくらいのスピードで進化している規格外のピアニストなのだ。

私はこれからも彼の進化を見続けていこうと思う。
それは歴史の一幕をこの目で見るということとイコールだ。
そしてこのラプソディー・イン・ブルーは間違いなく歴史の1ページなのである。

相変わらずのヲタクの長文を最後まで読んでくださった方には本当に大感謝です。ありがとうございました!

最後に、かてぃんさんの敬愛する小曽根真さんの演奏も置いときます!
(note公開当日はYouTubeにあったこの動画を載せたかったけど公式か不明だったので控えていました。オーケストラがなんと同じ日本フィルさんなのです! 最高か!)


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