再掲・諏訪湖での出来事

 十三年前に書いた日記を再掲する。
 これは私が一身上の身勝手な都合により、行方をくらませて、東京から福岡までヒッチハイクで帰るという、かなり無茶なことをやっていたときのことを思い出しながら書かれたものである。
 本文は拙い部分があるものの、あえて修正せず、初稿を公開した当時のままで残してある。

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 道の駅おぶちさわを経由。ここの道の駅には足湯があり、のんびりする。そのあと諏訪湖まで連れて行ってもらう。湖や川や海はいつ見ても綺麗だと思う。とにかく静かで雄大である。山は登るのがいいけれど、湖や海は眺めるのがいいな、と正直思う。よほど気に入ったのか、六月三十日の日記には「今日は諏訪湖に抱かれて眠る」と書いてあるが、そのあと色々と問題が出てくる。まず、打ち上げ花火がひっきりなしに鳴り、少々煩かったのと、冷え込みが激しいというダブルパンチであった。打ち上げ花火は人工的なものであるから、こちらに向けられない限りいつか終わるとしても、夜の寒さはいつ終わるともつかないものであるからして、正直どうしたものか、と思う。最初は、「ああそうか、あったかい空気をためればいいんだ。あったかい空気を入れるためには、毛布みたいなもので包めばいいんだ。毛布はないけれども、かさばるものといえば……そうだ!新聞紙を服の間につめればいい!」という、見事に安直な発想にて服の中に、拾ってきたスポーツ新聞をぐしゃぐしゃにして丸めて入れていたのだが、どうにもこうにも暖かくならなかった。のちになって知ったことだが、寒いときは雨ガッパをきると保温効果が生まれるとのこと。どうやらビニールハウスの発想なのだろう。実際にやってみると、水滴がついてしまい、二度目きるときは、ちゃんとかわかさないと少々ぺたぺたして気持ち悪いのだが。
 とにかく寒いため、この寒さに対して何かしらの対策を取らなければならない。近くのコンビニにて大盛りのカップ焼きそばをずるずると食べたあと、駅へと向かう。駅の中であるならば、寒さもしのげるであろう、と思ったのだろう。寒さがしのげるとはいえ、微々たるものであって、それほど寒さをしのげていないはずなのだが、中にいる安心感と、風がよけられるというだけで、だいぶ安心できたのだと思う。
 看板をたてにしてしばらくした後、二人の人に覗き込まれていた。びっくりして起き、とりあえず挨拶をする。少し簡単に自己紹介をして話を聞く。二人は、女性の方と男性の方。女性のほうは、どうやら旅館で働いている人らしく、始発の電車で先に向かうということであるらしい。男性の方は話によると板前かなにかをしていたようだが、今は部屋を追い出されてホームレスをしながら働いているのだとか。その経緯は、男性がときどき駅で寝ている人を泊めてあげたりしていたらしいのだが、ある時、泊めた方がなにやら騒いだのかなんだかわからないが、大家のほうに言ったらしく、それで部屋を追い出されたということらしい。女性の方は少し同情的で「全く恩知らずもいたものだねー」と怒っていた。女性の方は、男性に助けてもらったらしい。
 女性の方の身の上話は、とにかく凄い事になっていた。お水の世界で働いていたとき、生意気な女性がいたらしいので刺したりしたという。ひええ、暴力反対。それで追い出されてさまよっているうちに、男性に助けられ、旅館で無事に働いているという。旅館では女将とよく喧嘩したりしている。言いたいことははっきり言うからだそうだ。旅館では、若い男の人の人手が足りていないから、よかったら働きにこないか?と誘われる。ありがたい話ではあるのだが、正直まだ旅のはじまりであり、ここで終わりというのもどうかと思うし、他にやるべきことはたくさんあると思ったので曖昧な返事でお茶を濁す。こういう風に曖昧な返事でごまかすところは、自分の汚いところであるな、とは思う。連絡先を教えていただき、「働く気になったら連絡しなさい、私の名前を出せばすんなり行くと思うから」ということになる。その後、近くのデイリーヤマザキで朝まで話を聞くこととなる。デイリーヤマザキではカップラーメンを持込でお湯入れる際には10円必要ということで、やたらと細かい話であるなと思う。
 男性の方がカップ麺を渡してくれた。みす知らずの人間にこうやって声をかけるのは正直ありがたいなと思うが、もしかしたらタコ部屋に入れられていた可能性もあるのだな、と今になっては思う。だけれども、あまり細かく疑っても仕方が無いことではある。