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サイエンスで突き抜けろ!               BioNTech : JPM2021 ハイライト

皆さまこんにちは。しゅーです。
先日はBNGOの記事を書かせていただきました。

今回はBioNTech(ティッカーシンボル BNTX)について簡単にupdateをさせていただきたいと思います。

今月にJP Morgan Healthcare Conference 2021がバーチャルで実施され、製薬企業をはじめとする400以上のヘルスケア関連の会社が発表をしました。
もちろんすべてを聞けてはいないのですが、BioNTech, Alnylam, Teladoc, Regeneron, Progyny, Genmab, BMSなどは聞いた中で非常に興味深く、投資する価値がありそうだと感じました(まだまだこの作業は続きます)。

常日頃つぶやいているAlnylamも非常に良いプレゼンだったのですが、BioNTechのUgur Sahin CEOのプレゼン、というかサイエンスの力には非常に感銘を受けましたので、この感動がなくならないうちに、まだ聞いていない方へ共有したいというのがこのnoteのきっかけです。

Disclaimer : 
株式投資は自己責任でお願い致します。
個人的にはBioNTechを応援しておりますが、現在J&Jを筆頭に多くのCOVID-19ワクチンが開発され、これらのワクチンの臨床試験結果によっては、一時的にBioNTechの株価に大きな影響が出る可能性があります。

1. 会社の呼称はきちんと統一すべし

まず、JP Morganのファシリテーターから「それでは次のセッションはビオンテックのUgur Sahin CEOです」と紹介があったのですが、「ありがとう。バイオンテックのUgur Sahin です」といきなり会社の名前ですれ違い…
「ビオンテック」なのか「バイオンテック」なのかと聞かれた際に、どっちでもいいよ、なんて言うからこんなんになるんだよ!とツッコミをいれたくなってしまいました。

ちなみにBioNTechとタイピングするときにいつも面倒だな、と思うのがNTという部分が大文字なんですよね。
実はこのNTは"Novel Technology"というマインツ大学で実施していたプログラムの名前を社名に入れるためにあえて大文字にしているようです。
下記のFTの記事に載っていますが、重要な部分だけ日本語にします。

2016年にドイツ最大のバイオテクノロジー取引で14億ドルで売却されたGanymedの大成功にもかかわらず、夫婦はmRNAをあきらめることはありませんでした。事業を運営しながら、彼らはマインツ大学で研究を続けた。「NT - Novel Technologies」と呼ばれるプログラムの下で、彼らは数十件の特許を出願し、それが後にBioNTechの基礎となり、その名を冠した大文字が当時へのオマージュとなっています。

ちなみに最初に立ち上げたGanymedを買収した会社は日本のアステラス製薬です。

2. COVID-19ワクチンの進捗

まず、このプレゼンでPfizer/BioNTechのワクチンの商品名をはじめて知りました。
COMIRNARY(カタカナで書くとたぶんコミルナリィ)という名前のようです。

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すでにEUA等を含めると45カ国で承認がされています。(日本、頑張れ!)
プレゼンの時点で3290万回分のワクチンがすでに輸送されていますがこの数字は、毎日増えているので参考程度です。
色々とニュースになっていますが、データを復習すると、43,000人を対象としたPhase3試験で95%の有効性を示し、65歳以上の高齢者でも一貫した有効性と高い忍容性が確認できています。
次世代(改良版)のCOVID-19ワクチンも開発中とのことがあり、温度制限などはかなり改善されることが期待されます。

そして、最近、南アフリカタイプの新型コロナウィルスについては、現在のワクチンでは有効性が落ちてしまう可能性があるということで、各社新しいワクチンを作製しているらしいという情報もあります。
mRNAワクチンの強みとしては、新しい配列のワクチンをわずか6週間で作製できることです。
一度mRNAワクチンの効果が確認できているので、1塩基だけ配列を変えるぐらいでは、臨床試験は必要なし、または免疫応答を少人数で見るぐらいですぐに承認がもらえるのではないかと思います。
(毎年インフルエンザワクチンの治験なんてしていませんよね)
そして感染症分野としては、インフルエンザ、HIV、TB(結核)、その他に未公開の6つのワクチンプログラムを走らせているとのことでした。

皆さん、日本のインフルエンザワクチンはどのように作られているかご存じでしょうか。ぼくもついこの間までは全然興味がなかったのですが、なんと孵化鶏卵(ヒヨコになる前の卵)にインフルエンザウイルスを接種してウィルスを卵の中で増やし、そこから精製、不活性化してワクチンにしています。

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mRNAワクチンとどっちが安全なんでしょうか。
圧倒的にmRNAワクチンだと思いませんか?卵のタンパク質はほぼ除去されているとは言え、やはりアレルギー反応の可能性は否定できないですよね。
また、これはぼくのSpeculationなのですが、Pfizer/BioNTechやModernaのワクチンが他のDNAワクチンなどと比べて有効性が高いのは、mRNAワクチンが非常に有効であるという可能性もあるのではないか、つまり免疫反応をある程度持続的に起こすことで、十分な免疫反応が惹起されるのではないかと推測します。そのような観点で考えると、インフルエンザワクチン等も将来的にはmRNAワクチンが主流になっていく未来が描けているのではないかと感じました。
もし、ぼくの予測が当たれば、新型コロナウィルスのみならず、インフルエンザワクチンも毎年BioNTechから供給されることもあるかもしれません。
また、毎年世界では数十万人がインフルエンザで命を落としていますが、インフルエンザでの重症例や死亡は減らすことができるかもしれません。

3. パイプライン

COVID-19ワクチンの成功で莫大なCashがBioNTechに入ってきます。
Yahoo Financeのアナリスト予測ですと、2021年の売上高は$17.86B,営業利益を$7.95Bと見込んでいます。
もう立派なメガファーマ並みですね… 
BioNTechはもともとはmRNA技術を用いてがん治療薬を研究・開発する会社として設立されましたが、ワクチンで得たCashを新薬の開発に回すことができます。
このパイプラインからいくつか紹介させてください。

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がん領域パイプライン1 : FixVac
がん細胞特異的に発現しているがん特異抗原(ネオアンチゲン)のmRNAをがん患者さんに投与することで、患者さんのがん細胞に対する強いT細胞応答が誘導され、自分の免疫でがん細胞に対して攻撃できるようにしたものです。

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これぞ、テーラーメイド医療と言える画期的な治療法になる可能性を秘めています。類似のプログラムがModernaにもありますが、昨年にCEO自らがfirst authorでNatureに臨床試験の中間解析の結果について論文を出しています。
現在は、順調に進捗しているようです。

がん領域パイプライン2 : iNeST (Individualized Neoantigen Specific Immunotherapy)

こちらもFixVacとは似たようなものですが、こちらは患者さんのがん細胞のゲノム解析から完全テーラーメイドのmRNAを作製し、そのmRNAを投与するような技術になります。

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こちらもマウスの研究がNatureに載っています。
この研究はGenentechとの共同で臨床試験が進められています。


がん領域パイプライン3 : CARVAC

これは個人的にすごく驚いたものでした。
現在、Novartisのキムリア、そしてGileadのイエスカルタがCAR-T細胞療法という治療法で承認を得ています。
日本でもキムリアが1億円超えの治療法としてニュースになったことで記憶にあるかもしれません。
このCAR-T細胞療法とは、患者さんのT細胞という免疫細胞を取ってきて、CARという遺伝子を入れて増やして患者さんに戻すことで難治性のがんを治療する方法です。

もちろんCARを導入されたT細胞は体の中でがん細胞と戦うのですが、時間が経てば細胞の活性や細胞数は減って、効果も限定的になります。

BioNTechのCARVACはmRNAによってこの患者さんの体内のCAR-T細胞を活性化し、その数を調整するような治療法です。

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CAR-T細胞療法は、がん細胞の中でも特に注目されていますし、CRISPR-Cas9の会社(CRISPR Therapeuticsなど)もこの技術を応用した治療法を開発しています。
この注目の治療法をサポートすることで、その有効性を増大、維持させるという非常に画期的な技術だと思います。

そして、この研究も超一流誌であるScienceに昨年発表されました。


その他にも二重特異性抗体(bispecific抗体)と呼ばれる最近流行りの抗体の両方の腕に別々のものを認識させる抗体があるのですが、その抗体をコードするmRNAを入れることで、抗体打つよりも少ない頻度で大丈夫ですよ、など、各パイプラインが新規性に富んだ技術のものばかりでした。

4. パイプラインはがんだけにとどまらない

ぼくが最も注目したものは、がんの後に続くまだ初期フェーズのパイプラインで多発性硬化症(MS)に対するmRNA治療です。

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MSは神経細胞のミエリンというタンパク質を自分の免疫が攻撃することで神経組織が障害を受ける自己免疫疾患なのですが、現状では免疫抑制剤などが使用されています。その結果、感染症などの副作用が問題になっています。
BioNTechのプログラムではmRNAワクチン抗原(mRNA-LPX)というものを用いて、免疫寛容の自然なメカニズムを模倣し、自己免疫を抑制することを示しました。
ぼくも100%理解できているわけではないのですが、MSのような難治性の治療にも自己免疫疾患をコントロールすることでその病態の進行を遅らせることができる可能性が示されました。
(ただし、この免疫寛容を用いた方法は昔から様々な方法で試され、失敗してきた過去もあるようです)

これは、今年Scienceに基礎研究の結果が発表されています。

自己免疫疾患として知られている疾患はたくさんありますよね。
1型糖尿病、バセドウ病、SLE(全身性エリテマトーデス)などなど。
この画期的な技術はもしかすると他の疾患にも応用できると難治性の疾患に対するブレイクスルーになることが期待されます。
mRNAなどの核酸を体に届けるDDS (drug delivery system)を研究しているGenevantという会社とコラボしているプログラムがあるのですが、それがこのプログラムであると思われます。

5.今後のBioNTechは

これまでのパイプラインで見てきた通り、この会社はCEOを中心とした研究者のサイエンス力が他社(Modernaを含めた競合)と比べて優位性があるのではないかと考えます。
あのワクチン開発で忙しかった昨年にNature, Scienceに論文を出すとか、普通じゃないですよね…
今後もBioNTechは天才CEOのもと、Scienceを追求し、mRNA技術を生かした画期的な新薬候補がパイプラインに入ってくるかと思われます。

今回は、Regeneronとの共同研究のことを記載しましたが、HPを見ると、その他にも、Lilly, Sanofi, Genmab, Bayer, Pfizerなどとも共同研究を進めているようです。Pfizerとは、COVID-19のみでなくインフルエンザワクチンの共同研究もしているようですね。

BioNTechのような若くScienceが強い会社は、臨床試験のノウハウがないため、臨床試験はどうしてもメガファーマと組まないと先に進めないことがあります。
今回のPfizerとのCOMIRNARYの開発はBioNTechにとって、臨床試験を実行する開発力をつけるという意味でも非常に良い機会になったのではないかと想像します。
たくさんの会社とのアライアンスもありますが、非常に面白い点は、BioNTechが自身で臨床試験を進めているがんのパイプラインもあり、製薬会社としての力をつけてきているのではないかと感じます。

6. まとめ

今回、Nature, Scienceなどのリンクも貼りましたが、あえてこの会社、というかCEOのサイエンスがずば抜けていることを皆さんに紹介したくて貼らせていただきました。
このような会社はあるのかと考えると、実は科学者の中で非常に人気のあるサイエンスにひたむきな会社があります。それは、Regeneronです。

RegeneronのCEOであるLeonard Schleiferは会社の立ち上げ時にコロンビア大学で大活躍していたGeorge YancopoulosをChief Science Officer (CSO)として雇い、3名のノーベル賞受賞者をboard memberに据えました。
そのようなサイエンスに重きを置いたRegeneronはGeorge Yancopoulosを中心とした研究で完全ヒト抗体を作製する技術をはじめ、EylaやDupixentなどブロックバスターの開発を成功させました。

Science誌が毎年発表しているTop Employerという科学者向けのアンケートでは、Regeneronは今年も1位で、10年間1位または2位という結果です。
BioNTechはヨーロッパの会社ということでランクインしにくい状況ですが、来年以降はアメリカでのラボも立ち上がっているので、このようなランキングも将来性を占う意味では注目かもしれません。


皆さん、いかがでしょうか?
PfizerやBMSなど、良いパイプラインを有する会社や技術を買いまくって、自社で開発するメガファーマも新薬を患者さんに届けるには必須です。
ただし、BioNTechのような会社は長期で応援すべき会社としてリストアップしても良いのではないかと感じました。
個人的にはこのサイエンスに重きを置いているBioNTechとRegeneronの2社がコラボしているiNeSTという技術の成功を信じたいと思います。


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それでは、今回の記事はここまでにしたいと思います。
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では、次の記事でまたお会いしましょう!

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