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「過去未来報知社」第1話・第89回

「私っ?!」
「危ない!!」
 叫ぶような声と腕を引く強い力に気がつき、笑美ははっと気がついた。
 緑の渦巻きに、飛び込むように自分の体が投げ出されている。
 その腕を右手で懸命に掴んでいるのは慶太だ。
 崖の縁に左手を引っ掛け、必死の形相で笑美を引き止めている。
 その遙か頭上では、見えない壁に阻まれ、こちらに近づいてこられないアカシの姿が。
「どう……なってるの?」
「六合の胎動が始まったんだ」
 響く声に顔を向ければ、大家がふわり、と宙に浮いている。
 いや、大家が浮いているのではなく、ネコが大家を咥えて飛んでいる。
 その尻尾は三つに裂けていた。
「胎動……?」
「六合は、もともと誰もいない土地だった」
 大家が笑美の体に触れると、笑美の体はわずかに浮く。
 慶太が少しほっとした顔になる。
「そこへ、まず猫がやってきた」
 大家はネコを見る。ネコはにっ、と笑って見せた。
「しかし、ネコだけでは、荒地に住むのは環境が厳しすぎた。
 そこで、ネコは人間をこの地に呼び寄せた」
「呼び……寄せた?」
「どこにでもはびこる人間が六合にいなかったのは、偶然じゃない。
 わけがある。もともと、六合に人間は適用していなかったんだ」
「意味がよく……」
「六合というのは町の名前だが、同時にこいつの名前でもあったからだ」
 大家が渦の先を指差してみせる。
 その先を見つめ、笑美はあっ! と声を上げた。
 渦の先に、口が見える。目が見える。鼻が見える……。
「かつてここに済んでいた『六合』という人間の成れの果てだ」
 緑の渦はにやっ、と笑美に笑ってみせた。


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