見出し画像

テストUP(1)「復讐の権利」(シナリオ)

 【人 物】
佐賀尚也(32)会社員
佐賀由実子(30)佐賀の妻
岡山敏(42)
古売屋の店員(22)
スーツ姿の男(45)役者・外人風
トレンチコートの女(38)役者・外人風
---------------

○シカゴ・アパートの一室(ドラマ中ドラマ)
   七十年代の雰囲気。全員アメリカ人。
   スーツ姿の男、よれよれのトレンチコー
   トを着た女に詰め寄られている。
スーツ男「私がやった証拠でもあるのかね」
   女、もじゃもじゃ頭を掻いて笑う。
女「うちの旦那がね……」
   プツッ、とブラックアウトする画面。

○東京・尚也のアパート・夜
   佐賀尚也(32)、ジャージ姿で鑑賞中。
佐賀「(絶叫)」
   襖を開けて現れる佐賀由実子(30)。
   エプロン姿で包丁を持っている。
由実子「何よ。ビックリするじゃない」
   佐賀、膝で歩いて由実子に詰め寄る。
佐賀「お、俺の『女刑事ブラウン』第67話『
 復讐を抱えて起きろ』の、ラ、ラストが!」
   由実子、ああ、と頷き微笑む。
由実子「だって、歩君が『ひるどき』のゲス
 トに出てたんだもん」
佐賀「もん……じゃ、ねぇっ!」
   佐賀、わなわなと震える。
   室内写る。六畳の和室にTVと卓袱台、
   壁に向かい合った棚が二つ。
   一つは洋物のビデオ・DVD・本等が。
   もう一つにはアイドル物のそれらが。
佐賀「録画予約していったんだぞ!」
由実子「仕方ないじゃない! 生放送だし、
 髪型変えて、初めてのTV出演なのよ!」
佐賀「どうせ、すぐまた髪型変えるだろ!」
由実子「だから、観たいんじゃないの! あ
 なたのは、もう録画してあるじゃない!」
   由実子、洋物の棚を指差す。
   VHSの背表紙に『女刑事ブラウン』
   第67話「復讐を抱えて起きろ」の文字。
佐賀「あれは編集版! こっちは日本初放送
 のノーカット版なんだよ!」
由実子「何よ、犯人変わるの?」
佐賀「変わるわけないだろ!」
由実子「じゃあ、問題ないじゃない」
   由実子、腕を組んで見下ろす。
由実子「大体、録画中に他のチャンネル観ら
 れないデッキって、いつの時代よ! もっ
 といいの買える様に稼いでくればいいのよ!」
   佐賀、うっ、と言葉に詰まる。
由実子「あたしがどれだけ苦労して、家計を
 やりくりしていると思っているのよ」
   佐賀、由実子に背中を向ける。
佐賀「あーあ。家でアイドル番組チェックす
 る片手間に家事やってりゃいい女は、言い
 たい放題言えて、気楽でいいよな~!」
   由実子、表情凍りつき、包丁握る。
   
○葉山製作所・工場・食堂
   作業服姿の社員たちが食事をしている。
   沈鬱な表情で弁当を見ている佐賀。
   岡山敏(42)、食事の乗ったトレイを
   持って後ろを通りかかる。
岡山「お、いつも愛妻弁当でいいな、佐賀は」
佐賀「……交換しましょうか」
岡山「いいのか?」
   岡山、弁当を覗き込み、仰け反る。
   アルミの弁当の中身。真っ白。
   (弁当内訳「白米・茹でホタテ・大根
   出汁煮・アスパラサラダ・鳥ササミ等)
岡山「……何した、お前」
   空になった弁当と食事トレイ。
   佐賀、薬缶のお茶を佐賀に淹れている。
   お茶請けにうなぎパイ。
佐賀「あ、これ、俺の大好物っす」
岡山「製造の山田が里帰りした土産だってさ。
 で、この一週間、カラー弁当なんだって?」
佐賀「そうなんですよ!」
   佐賀、机を叩く。
佐賀「最初は赤、次は黄、その次は緑って、
 弁当戦隊ゴレンジャー、とかですか?!」
岡山「なんか、楽しそうだな、それ」
佐賀「知ってますか? 味が良くて栄養バラ
 ンスも完璧なのに、色が一色なだけでうま
 くないんですよ! 新手の拷問ですよ!」
岡山「無駄に力作だな」
佐賀「しかも、俺の靴下全部裏返しにしてあ
 るし、調味料のブランド、全部変えられて
 るし、帰宅時真っ暗だし、一日中敬語だし」
   佐賀、頭を抱える。
佐賀「お前、調味料まで揃えさせてるのか?」
佐賀「え? 普通でしょ?」
   岡山、静かに立ち、佐賀の肩を叩く。
岡山「悪い事は言わん。謝っちまえ」
   佐賀、ばっと顔をあげる。
佐賀「被害者は俺なのに?!」
   岡山、うんうん、と頷く。
岡山「俺は分かるよ。お前の悔しさと怒りが。
 お前は正しい。でも、これは話が別だ。お
 前が悪いんだよ」
佐賀「なんで?!」
岡山「夫婦で男と女が喧嘩になったら、男が
 悪いんだよ。地球の摂理だ」
佐賀「そ、そんな」
岡山「バツ2男の忠告は、聞いておくもんだ」
   岡山、佐賀の肩を優しく叩く。
岡山「いい嫁さんじゃないか。明日からの三
 連休しっかりサービスして許してもらえよ」
   岡山、トレイを持って去っていく。
   丸めた背中が寂し気。
佐賀「ひょっとして、2回の失敗って、それ
 が原因、なのか……?」
 
○東京・尚也のアパート前・夜
   見上げる佐賀。部屋、真っ暗。
   スーツ姿の佐賀、ため息をつく。
   手に鞄と洋菓子の箱を持っている。

○東京・尚也のアパート・中
   真っ暗な玄関。靴を脱いで入る尚也。
   台所の明かりを点ける。
   置手紙がある。慌てて手に取る尚也。
由実子の声「颱風のライブツアーに行ってき
 ます。夕飯は冷蔵庫の中です」
   佐賀、ほっと肩を落とす。
佐賀「そう言えば前から楽しみにしてたっけ」
   壁のカレンダーに印がついている。
   三日分、ハートマーク等で賑やかに。
   対照的に写るテーブル上の洋菓子の箱。
佐賀「自分は梅田歩のおっかけかよ!」
   カレンダーの横、ジャニーズっぽいイ
   ケメンのポスター。微笑むタレント。
佐賀「復讐がお前だけのものだと思うなよ!」
   鞄を机に叩きつけて、飛び出していく。
   
○繁華街・夜
   怪しいピンク系の店が並んでいる。
   佐賀、鼻息が荒く、目が充血している。

ここから先は

1,026字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?