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テストUP(2)「弔問代理人」(シナリオ)

【人 物】
伊藤隆大(25)フリーライター
香月峻(32)役者
香月の付き人(24)
骸原唯夫(60)故人
石田規生(52)石田葬祭・社長
石田慶子(49)規生の妻
藤田俊江(24)弔問客
記者A 週刊誌記者
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○葬儀場・外
   鯨幕が張られ、花輪が飾られている。
   看板「骸原家・告別式」。
   石田規生(52)と石田慶子(49)その
   他スタッフが喪服で葬儀の用意。
   慶子、居並ぶ立派な花輪を見上げ、
慶子「こんなに立派な花輪を飾るのに、喪主
 さんがいないなんて」
石田「人様には色々な事情があるもんだ。そ
 んな事、葬儀屋の俺達が干渉しちゃなんね」

○香月のマンション・前
   豪奢なマンション前、報道陣で鈴鳴り。
   黒塗りのベンツが止まっている。
   伊藤隆大(25)、なんとか前に出よう
   とするが、他記者に肘鉄を食らう。
   サングラスにファーのついた毛皮姿の
   イケメン俳優・香月峻(26)出てくる。
   群がる報道陣と黒スーツの伊藤。
記者A「ドラマで共演した噂で噂になった女
 優さんが自殺未遂されたそうですが?!」
   伊藤、隙間から懸命に録音機を出す。
伊藤「今のお気持ちを一言でお願いしましす?!」
香月「一言?」
   香月、ばっ、とサングラスを外す。
   切れ長の目が伊藤を睨む。
   伊藤、ひるんで録音機を落とす。
   録音機、香月の足元へ。踏む香月。
伊藤「あーっ!」
   香月、鼻を鳴らして車に乗り込む。
   発進する車。追掛ける報道陣。
   踏み潰され、粉砕される録音機。
 伊藤「(叫び声)」

○伊藤のアパート・全景(夕)
   二階建ての古びたアパート。
   
○同・伊藤の部屋
   デスクとカラーボックスがある和室。
   カラーボックスの上にハムスターの籠。
   デスク上に壊れた録音機と請求書の山。
   机に突っ伏す伊藤。
   伊藤、肩を落とし、籠を見る。
伊藤「ごめんな、アーサーキングジュニア。
 お前を病院に連れていく金どころか、今月
 の水道代もない」
   伊藤、籠を開けてハムスターに触れる。
   はっとする伊藤。
   そっとハムスターを取り出し掌に。
伊藤「そうか。お前やっと楽になったんだな」
   ハムスターを撫で、震える伊藤の背中。
伊藤「葬式、あげてやりたいけど……」
   鳴る携帯。伊藤、鼻を啜って出る。
伊藤「はい……。稲生編集長? ええ、空い
 てますけど。代理? 俺が? 葬儀に?」

○葬儀場・外(夜)
   伊藤、黒スーツに黒ネクタイで立つ。
伊藤「(花輪見上げ)骸原。すげぇ、名前」
   花輪見上げ、胸ポケットをさする。

○葬儀場・中・受付
   慶子、伊藤から香典と端を折った稲生
   の名刺を受け取り、芳名帳を指す。
   伊藤の手、止まる。まっさらな芳名帳。

○同・祭壇前
   中央に祭壇と遺影。僧侶が読経。
   伊藤、胸に手を当てて入室。
   落ち着きがない様子。
   並んだパイプ椅子。誰もいない。
   石田、伊藤に気がついて駆け寄る。
伊藤「あの、喪主の方ですか?」
石田「はい、この式を取り仕切らせていただ
 いております。石田葬祭の石田と申します」
伊藤「喪主が葬儀屋さん?」
石田「はい。故人には身寄りがなく、私ども
 がご依頼で喪主を……、お宅様は?」
伊藤「あ、俺、いや、私、集談社の稲生編集
 長の代理で来ました、ライターの伊藤です」
石田「代理、の方、ですか」
伊藤「まずいですか。代理が葬儀に出ては」
   石田、オーバーリアクションで、
石田「いえいえ! とんでもない! 大歓迎
      で、いえ、どうぞ、お焼香を」
   伊藤、石田に勧められて祭壇の前に。
   骸原の遺影が見下ろしている。
   伊藤、胸をそっと押さえる。
   焼香を済ました伊藤、椅子に座る。
   藤田俊江(24)入室してくる。
   喪服の似合うスレンダーな美人。
   石田と短く言葉を交わす俊江。
   焼香を済ませた俊江、伊藤の横に。
伊藤「(小声で)ご親族の方ですか?」
俊江「あなたは?」
伊藤「あ、私は代理のものでして」
   俊江、小さく笑う。
俊江「私も、なんです」
   伊藤、その横顔に見惚れる。
     ×   ×   ×
   読経、終わる。
   椅子には伊藤と俊江だけが座っている。
   石田、もったいぶった様子で司会。
石田「それでは、最期のお別れを」
   伊藤、弾かれたように立ち上がる。
   慶子、伊藤らに白い花を渡す。
   石田、棺の上半身を開ける。
   骸原の白い顔、覗く。
   伊藤、唾を飲み込み懐から袱紗を出す。
   小さく丸い膨らみがある。
   伊藤、花と紫の袱紗を棺に。
   伊藤、屈み、骸原の遺体に囁く。
伊藤「(小声)ごめんなさい、ごめんなさい、
 許してください、お願いします!」
   伊藤の目に大粒の涙が溢れてくる。
   伊藤、棺からそっと離れる。
   白い花の中の骸原と紫の袱紗。

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