寝息

「会わせたい人に会わせてあげてください」
と医者に言われました。曽祖母に会いに行きましょうと母から連絡がきた。

曽祖母は、今年101歳になるらしい。

会わせたい人に会わせてあげてください。
遠回しだけど分かりやすい言葉だ。

曽祖母は、物心がついた時から今もあまり変わらない。
絵に描いたような丸い笑顔で笑い、柔らかい白髪に細い腕、ぬいぐるみがたくさん置いてある部屋、カラオケが好き。

母が曽祖母の細い手を握り、眠ってしまった姿を見つめながら目元を拭うのを視界の端で捉えた。

寝ている曽祖母を起こさないようにそっと、手を握る。思ったより柔らかい。

父も見えないところで泣いていたらしい。トイレから帰ってきたと思ったら、その目は赤くなっていた。

隣の部屋で持ってきたプリンを食べる。
母はベッドの側を離れなかった。
曽祖母の体に優しく触れているのが見える。転んでできた傷、細い腕、髪、頬、肩。
甘いプリン、静かな室内は曽祖母の寝息が聞こえてくる。

また来るね、と声をかけて家に帰ってきた。
母は何度も目元を拭っていた。



夜中の1時、母が私の部屋に飛び込んできた。
亡くなったんだって。と歪んだ顔が子供のようで、母もこんな風に泣くのだなと思った。


棺の中、曽祖母にみんなが声をかける。みんな必ず泣き、必ず笑った。
曽祖母の手はあの日と違い、冷たかった。
驚いたけれど、不思議と嫌な感じはしない。
あぁ、もうここにいない。いなくなってしまった。


お通夜もお葬式も、本当にあっという間に終わった。
棺の白さ、お線香の匂い、誰かの鼻をすする音。
叔父の「またね」の優しい声色。
火葬場の穏やかな空気、赤くて丸いボタン、低く唸る機械の音、お骨の白さ。泣き顔。


この2日はあまりにも一瞬で過ぎてしまった。

家に帰ってきたら、息が苦しい。
明日も普通の日常が続くのか。ご飯を食べて、寝て、笑って、泣いて、生活をしていく。
今夜は眠れるだろうか、と思いながらも、もう思考が止まり始めているのを感じる。
あぁ、本当は眠りたくなんてないのに。





気持ちの整理としてここに残すことにしたけど、残そうと思って書いた言葉や記憶、自分のものだけの言葉や記憶、いつかは忘れてしまうんだろう。





悲しくて、寂しい。

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