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大事なものが壊れる音

 大事なものを壊してしまった。「パリーン」と見事な音がした。僕はそれをとてもとても大事にしていた。どんな時でも大事に思ってきた。うれしいときも、かなしいときも、やめるときもすこやかなるときも。壊してしまったものには形があったから、音が鳴った。かん高くいい音だった。こんなに大事にしてきたのに、暇さえあれば一緒にいたのに、不思議と悲しくなかった。

 数年前も別の大事なものを壊してしまった。そのときは音が鳴らなかった。音が鳴らなかったせいか、鈍い痛みになってしばらく消えてくれなかった。壊れるときは激しい方がいいのかもしれない。大きな痛みを伴うが、きっとその分傷がどこにあるのか分かりやすい。

 もしかしたら今回の痛みは後から大きくなるかな、と思いながら割ってしまったガラスの破片を夢中になって拾い集めた。


おしまい

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