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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 おまけ 真菜とリトル・グレイのお茶タイム

発信者∶ 真菜 マイジェンダー∶ 女性

出身地∶ 地球、愛知 趣味∶ ドリームゲーム


世界中が、アンティグア・バーブーダの海の前から今、生中継配信の絵美とジョニーくんの結婚式を祝福している。

うちの年代もののテレビもその状況を大きくやっていて、現地の砂浜でタキシードを着たお父さんが純白のドレス姿の絵美のエスコートをしたり。

袴と着物姿のおじいちゃんたちとおばあちゃんたちが喜んだり泣いていたり。

お母さんがテレビの取材にハキハキと答えていたり。

白い砂浜に作られた、赤いバージンロードの近くの、家族みんなの様子もテレビを通して伝わってくる。

『真菜サン、お茶だヨ』

わたしがボーッと始まった中継を見ていたら、家の中のことをすっかり覚えた友だちのリトル・グレイがお茶を出してくれた。ズズッと口にすると、ちょうどいい温度。

「……ありがと、グレイ。お茶の作法もそんなふうに出来るなんて、優秀なんだね」

たぶん、グレイがうちの道具を使ってお茶を出してくれたのは、初めてのはずだ。

わたしなんて、お母さんにだいぶ言われないとお茶出しの作法も分からなかったけれど。

宇宙人はやっぱり、絵美とかジョニーくんたちみたいに、優秀なのかな。そうでないと、空気も重力もない危険な宇宙になんて行けないよね。

『……グレイはみんな同じグレイだから、グレイの出来るコトは、ダレカのグレイが覚えたコトの一瞬のコピーだヨ、真菜サン。真菜サンがお母さんにしっかり教えてもらって、伝わっていくコトの個別のケイケンに比べたラ、かんにんぐぺーぱーなんダ』
「……そうなの?」
『ウン』
「でも、いいなあ。なんでも、誰か兄弟や姉妹が覚えたことは、一瞬で自分にも出来るようになるのと一緒だもんね。わたしと絵美なんて、姉なのにわたしのほうがいつもダメ人間だったから。今も、みんながアクセスして盛り上がってるふたりの結婚式は、テレビでボーッと見てるだけ」
『それもいいんじゃなイ? 真菜さんの大切な休暇だヨ』
「……そう、かも、ね。休暇、かあ」

そういう考え方をしたことはなかった。

妹の大切な結婚式へ行かないことを、留守番を理由に決めたわたしは、ヒネクレ者のひがみ屋だと今だって思ってる。

休暇なんかじゃない、ただの引きこもり、自宅警備員が結局華やかな場所を拒んだだけ。そんなふうに思ってしまうけれど、宇宙人のものの見方は違うみたい。

『グレイと違っテ、地球のヒトたちハ、ひとりひとり、思うことモ、考えたリ、得意なコトも、ひとソレゾレ。ひとつのことヲ、みんな同じデやるだけなラ、ソレゾレ違う素晴らしサはナニ?』
「そうね。そうだけど……また、わたしの結婚は、とか、彼氏はとか、妹と比べて言われたらウザい。そういうのもイヤで行かないことを決めたわたしは、最悪な選択をしたと思うの。フツーに行けばいいのにね」
『フツーは、ひとソレゾレ! その真菜さんのイライラや、コーカイや、ナヤミも、グレイにとってハ、とてモにぎやかナ感情なんだヨ! グレイにハ、ないモノだヨ』
「……バカにしてる?」
『ウウン、ちっとモ』

わたしは、無表情の小さな友だちの顔をまじまじと見つめてしまった。ふふっ、とわたしの心の中から笑いが顔を出す。

そうだね、いつも無感情で無表情なのも、悲しくてすこし寂しいことなのかもしれない。

「ありがと、グレイ。グレイは優しいね」
『コーカイしていル、真菜サンも、ひとを思うこころがあるかラ、コーカイをしているんだかラ、優しいんじゃナイ?』

……結婚とか、彼氏とか。そして妹とわたしを比べるあらゆる話は、本気で正直ウザいと思う。

けれど、もし理想のひとは? と言われたら、わたしは、今、世界の一大イベントになっている妹の結婚式へ行かないと決めた自分と、一緒にのんびりテレビを見てくれているこの小さくて可愛い宇宙人ですと答えてしまうかもしれない。

「グレイ。グレイは、いつまでもわたしと友だちでいてくれる?」
『ウン、宇宙のどこかラでモ、UFOに乗っテ3分で来るヨ』
「……約束ね。グレイのひとさし指、出して?」
『コウ?』

グレイがちっちゃなひとさし指を出す。

その指先にチョコン、とわたしのひとさし指を合わせて、昔々のSF映画のようにわたしたちは「ずっと友だち」の約束をした。

(了)


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