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ガヤーダリー、カモとネズミの子どもたち

その兄と妹の双子は、カモの娘が生んだ卵から出てきたとき、カモの仲間たちには「こんな醜いカモはいない! 親ともども出ていけ!」と群れの住むところを追い出されました。

それほどカモたちから嫌われてしまったのは、カモの娘と水ネズミとで交わった結果、双子がカモたちとは違う姿をしていたからです。

双子の姿は、ネズミのような体に手足に水かき。口はカモのくちばし。カモでもネズミでもありません。ガヤーダリー、と呼ばれました。

カモの娘はガヤーダリーの双子を育てましたが、嫌われたことをとても苦しんだためか、ふたりをおいて、早くに亡くなってしまいました。

「なあ妹。俺たちはカモにもネズミにも、仲間じゃないと言われるな」
「そうだねえ、お兄ちゃん」

寂しげな顔をするガヤーダリーの兄に、妹はふんわりと微笑みました。

「じゃあ俺たちは何なんだ? 姿かたちはカモでもネズミでもない、中途半端すぎるじゃないか」

兄は自分の手足やくちばしを嘆きます。

「そうかなあ、お兄ちゃん。誰かに違うと嫌われたって、わたしたちはわたしたちだよ。ガヤーダリーはガヤーダリー。それでいいんじゃない?」

のんびり屋の妹は、そんな姿のガヤーダリーであることを悩んではいないようでした。

「カモでもネズミでもないことを、苦しまなくてもいいって言うのか、これほど、カモにもネズミにも嫌われているのに」
「嫌われたって、わたしたちがガヤーダリーなのは変わらないもの。考えてみよう、お兄ちゃん。わたしたちにカモの翼はなくて飛べないけれど、ネズミのように速く走れもしないけれど、なにかこの体で出来る、素敵なことはきっとあるよ」
「そうだなあ……」

兄はしげしげと自分の手の水かきを、よく見てみました。

「そうだ。ネズミにはないこの水かきで、きっとたくさん泳げるな!」
「うん。カモにはないこの手で、どんぐりだって掘り起こせるよ!」

ふたりは笑いました。カモでもネズミでもないけれど、カモやネズミにもできないことが、ふたりならできる。それが分かったガヤーダリーの双子の兄と妹は、仲睦まじく暮らしたそうです。

おしまい

※ 今回は、アボリジニの神話、ガヤーダリー(カモノハシ)にまつわる伝説からインスピレーションを得て作りました。卵を産み、母乳で育てるカモノハシは、天然キメラと呼ばれるオーストラリアの希少生物。昔から不思議だと思われていたのでしょう。絶えないでほしいものです。

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