~神話・民話の世界からコンニチハ~ 16 イシュタルさまからの求愛 ギルガメシュさまとエンキドゥさま
第十六回は! 第十四回で熱い友情に結ばれ、第十五回で杉の森の怪物フンババを退治に行き、倒して故郷の都市ウルクに凱旋した英雄ギルガメシュさまとエンキドゥさまのその後のお話&インタビューです。
今回のお話
レバノンの森の番人であった怪物フンババを倒し、杉の木を故郷の都市ウルクに持ち帰ったギルガメシュさまとエンキドゥさまは、街の男女あらゆるひとびとに祝福されて迎え入れられました。
昔、暴君として恐れられていたギルガメシュさまは、フンババ退治の凱旋によって、ついにウルクのひとびと誰もが憧れる存在となりました。
なかでも金星の神さまであり、豊穣、愛、戦、王権授与など、そして都市ウルクの守護を司る美しくもとても気まぐれな女神、イシュタルさまがギルガメシュさまのその雄姿に惚れてしまいました。彼女はいくつもの贈りものと、女神としてギルガメシュさまに与える権威の強さを示して、求愛を迫りました。
しかしイシュタルさまにはドゥムジさまという夫がありながら、120人以上の愛人がいることや、彼女の飽きた愛人や、自らに与(くみ)しなかった者に対する冷酷で残忍なさまを知っていましたから、ギルガメシュさまは彼女からの求愛をきっぱりと断りました。
これに怒ったイシュタルさまは、ウルクの街もろともにギルガメシュさまを滅ぼすため、天の聖牛グガランナを送るように天空の父神アヌさまに訴えました。しかしアヌさまもイシュタルさまの気まぐれと愚かな行いを知っていましたので、退(しりぞ)けていました。
すると、イシュタルさまは冥界から多くの死者を蘇らせ、地上に生ける者を喰わせると言ってアヌさまを脅したため、アヌさまはとうとうグガランナをイシュタルさまに与えてしまいました。
イシュタルさまがグガランナをウルクに差し向けますと、グガランナは大地に大きな穴を開け、ウルクは地面が割れ、水が干上がり、7年のあいだ飢饉が訪れ、多くのひとびとが死にました。
これに立ち向かったのは、やはりギルガメシュさまとエンキドゥさまでした。ふたりで力を合わせ、とうとうグガランナを打倒し、その心臓をシャマシュさまに捧げました。
しかし、フンババを倒し、さらにイシュタルさまの意趣返しによって現れたとは言え、神々の送った聖牛グガランナを殺したことに神々は怒り、ふたりに罰を与えることに定めました。
エンキドゥさまは不思議な夢を見ました。神々が会議を開いており、天空の父神アヌさまが
「森番フンババと聖牛グガランナを倒したために、2人のうち1人が死なねばならぬ」
とおっしゃいますと、風、嵐の神エンリルさまが
「エンキドゥが死ぬべきだ」と答えました。
太陽神シャマシュさまは
「(ギルガメシュたちは)自分の命令に従って牡牛どもを殺したのに、何故エンキドゥが死ぬべきか」と反論しました。
エンリルさまは
「何故ならば、お前(シャマシュさま)は毎日ギルガメシュとエンキドゥの仲間であるかのように行動するからだ」と怒りました。
神々はついに
「ギルガメシュは罰を受けてはならない」として、ついにエンキドゥさまに死を与えることを決めたのです。
そうした夢のことをギルガメシュさまに告げますと、エンキドゥさまはすぐに病に倒れました。急に病気になったことに対し、驚き、恐れ、とまどい、いっそのこと野人のままであれば良かったと、自分を人間にしたシャムハトをも呪おうとしました。しかしシャマシュさまが「シャムハトのお陰で人間らしくなれ、ギルガメシュという親友ができたのだ」と諌め、エンキドゥさまの心を落ち着かせました。熱病に倒れてから12日目、ギルガメシュさまとこれまでの思い出を語り合い、共に冒険し寄り添った親友に看取られながら、エンキドゥさまは息を引き取りました。
ギルガメシュさまは親しい友の死に悲しみのあまり気が触れたようになり、エンキドゥさまの体が腐り始めるまで彼の側を離れませんでした。
イシュタルさま、恐い……! 女性が本気で怒るとむちゃくちゃ恐いのは、紀元前からだったという衝撃の神話。
それでは、ギルガメシュさまとエンキドゥさまのインタビューと参りましょう!
すー: ギルガメシュさま、エンキドゥさま、よろしくお願いいたします。
ギルガメシュ: 俺を直接呪わず、俺が一番失って苦しむ人間を死なせるとか、最低な神々だよな! イシュタルもエンリルも!
すー: あわわ。そんなふうにきっぱりおっしゃいますと、また良からぬ呪いを受けちゃうかも。
ギルガメシュ: 俺は畏(おそ)れぬ!
すー: そういうとこ、ほんとに恐いもの知らずの英雄神ですね(笑) エンキドゥさまも、災難を一手に引き受けて、ほんとにお疲れさまでした。
エンキドゥ: ……オレにとって、親友の死を見ず、先に死ねたことは、それは幸せであったのかもしれない、な。ギルガメシュ、心苦しい思いを、させて、すまなかったな。
ギルガメシュ: 今はこうして、酒を酌み交わせるのだ! 昔の苦しみなど忘れよう、エンキドゥ!
エンキドゥ: おう!
すー: ギルガメシュさまも、最初は街の乙女たちを略奪しちゃう暴君でしたけど、この聖牛グガランナ退治のころには、イシュタルさまの不貞を指摘するくらいには、分別がついていたんですね。
ギルガメシュ: 俺を何だと思っているんだ(笑) ウルクの民の憧れだぞ??
すー: イシュタルさまの贈りものや、王権授与の権威を与えることをきっぱりと断るというあたり、潔(いさぎよ)いとは言えますけど、もうちょっと何とかならなかったものでしょうか。イシュタルさまのお気持ちをヨイショして、俺にはもったいない女性だよ、とほめておけばもしかして悲劇はなかったのでは……?
ギルガメシュ: 真の英雄とは、媚びぬものよ! なあ、エンキドゥ?
エンキドゥ: おう!
すー: まあ、イシュタルさまの性格からして、引くも押すも地獄、という感じはしますけどね(笑)……ああ、恐い恐い。おふたりの、悲しみの別れとなったあとのお話は、また次回に。ギルガメシュさま、エンキドゥさま、ありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。
次回予告
第十七回は、親友のあっけない死により、死ぬことを恐れるようになったギルガメシュさまが、不死の力を求めるお話&インタビューを予定しています。お楽しみに~。
※見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからhajimebさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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