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~神話・民話の世界からコンニチハ~ 21 ルガルバンダ叙事詩より、王子の活躍

おはようございます。最近は、朝と言ってもまだだいぶ暗い夜明けですね。

第二十一回は! 第十九回で父王エンメルカルさまとともに行軍中、病気になって洞くつに置いていかれたところを神々の加護のもとに治してもらい、第二十回で、自分の軍を探している途中に、怪鳥アンズーの助力を得たあと、超人的な脚力をもってついに自軍と合流したルガルバンダさまが、苦戦する軍の要となって活躍するお話&インタビューです。

今回のお話

ルガルバンダさまがようやく合流した父王エンメルカルさまの軍は、山岳地帯の都市国家アラッタを攻めましたが、強い抵抗に遭(あ)い、苦戦をしていました。抵抗に難儀する軍のため、治める都市国家ウルクの守護神であり、また戦の神でもあるイナンナさまに策を乞おうと思いついたエンメルカルさまは、

「ウルクへ行って女神に伝言してくれる者はおらんか」

と、軍の皆に問いました。しかし息子たちを始め、誰も進み出る者がおりません。エンメルカルさまがそのことに両の拳を握りしめて苦悩していますと、ルガルバンダさまが隊列の中からただひとり、名乗り出ました。ルガルバンダさまは単身で行かせてほしいと言い、小さな頭(こうべ)を王の前に垂れると、イナンナさまへの伝言と軍旗を受け取りました。

ルガルバンダさまの兄たちは、一番末の弟王子を心配して

「何故そう、ひとり、ひとりと言うのだ。まだ子どものお前を行かせる訳にはいかない」

「この山々は大変危険なのだから、生きて帰ることなどできやしない。そうなれば、我らと再び食卓を囲むこともできなくなるのだぞ」

と、口々に引き留めました。しかし、ルガルバンダさまは

「時間がもったいないので、もう行きます」と淡々としているので、兄たちや従者らはついに諦めました。

軍隊の姿が視界から見えなくなるまで歩いてから、ルガルバンダさまは怪鳥アンズーにもらった疲れ知らずの脚力を存分に使い、風のように駆け抜け、7つの山をあっと言う間に越えました。夜にはウルクへ到着し、部屋のクッションにもたれかかり、くつろいでいるイナンナさまのもとへと参じてその小さな頭を垂れました。

「何故たったひとりでやってきたのですか。アラッタから何か知らせでも?」

イナンナさまは、ルガルバンダさまに優しく尋ねました。ルガルバンダさまは、父王エンメルカルさまに伝言を賜ったことを告げ、その内容を話しだしました。

「わが父王エンメルカルは、ずっと昔にイナンナさまから王権を授かって以降、沼地にすぎなかったウルクの水はけを良くし、都を築き、正義と平和によって国と人々を治めて参りました。けれど、今になって何故、アラッタとの戦争において、王を見捨てたのでしょうか。王をアラッタに置き去りにし、戦の女神である貴女が、ひとりウルクにいらっしゃるのでしょうか。父王が言うには、自分がもう不要になったということだとしても、軍隊だけは無事ウルクへ帰りつかせてくださいとのことです。さすれば王は槍を下ろし、帰還した暁には女神によって王の盾が打ち砕かれましょう」

これを聞いたイナンナさまは、謎めいた言葉を告げ始めました。

「向こうの浅瀬に、神の池がある。そこには小さな魚(スフルマシュ)が一匹、水草を食べ、それより大きな魚(キントゥル)が一匹、ドングリを食べ、一番大きな魚(ギシュシェシュ)が一匹、跳ねまわっている。そして池の水際に生命の木タマリスクがあり、更にそのほとりに一本だけ孤立したタマリスクがある。王がアラッタに勝つためには、その池を見つけ、離れて立つタマリスクを切り倒して器を作り、一番大きな魚を入れて神々に捧げなければならない」

そして、現在苦戦しているエンメルカルさまの軍のために、助言しました。

「そうすればウルクの力が勝り、アラッタの力が衰えます。ただ一つ、王が心に留めなければならないことは、アラッタを討ち滅ぼしてはならない、ということです。もし王が、アラッタの彫刻品や、それらを作った芸術家や職人を護り、更に、戦いで傷んだアラッタを復興させるならば、そのとき初めて、エンメルカルは大王として勝利と祝福を得られるでしょう」

このイナンナさまの言葉をしっかりと胸に刻み、ルガルバンダさまは超人的な脚力でもって山を駆け、アラッタを攻めているエンメルカルさまの軍へと戻り、伝えました。イナンナさまが助言したのは、征服するのではなく、平和解決をしなさいということでした。それをルガルバンダさまの口から伝えられたエンメルカルさまは、もともとアラッタの誇る美術品や貴金属の加工技術などが欲しかっただけで、滅ぼす必要はなかったことに気づき、兵を降ろしてアラッタと和平交渉を結び、かの都市国家との交易をすることになりました。


……小さな王子、ルガルバンダさまの大活躍! きっと、古代のメソポタミアに住んでいた子どもたちも、この叙事詩であるお話が当時のお芝居や歌で披露されたときは、ワクワクしながら聞いていたことでしょうね。それでは、インタビューと参りましょう! 

すー: ギルガメシュさま、エンキドゥさま、よろしくお願いいたします。

ギルガメシュ: 人生の苦味とか、悩みというのは俺の叙事詩のほうには強いが、父上の話は、すがすがしいくらいの成功譚だな!

すー: そうですね、ギルガメシュさまのお話ではフンババやグガランナといった敵を倒す、という側面がとても強いですけど……。ルガルバンダさまが、イナンナさまのお言葉として伝えたのは、和平交渉ですもんね。戦の神でもあるイナンナ/イシュタルさまの描写が、ルガルバンダさまとギルガメシュさまのお話でここまで違うのも物語として対照的です。

ギルガメシュ: 王たるもの、避けられぬ戦には勝たねばならぬ、という面が俺の話であり、できれば和平交渉でもって、敵を滅ぼさずに実利を得る、という理想の話が父上の話に凝縮されているよな。

すー: 戦わずして勝つことが最上、というのは君主がひとびとを治める条件としては確かですけど。

エンキドゥ: オレも、無謀な戦いは、避けるように言ったぞ、ギルガメシュ。

すー: フンババ退治の時は、エンキドゥさまが止めようとされていましたよね。

ギルガメシュ: 王たる者、強い敵を求めて戦うことは義務のようなものだ!

すー: ええ……とばっちりで、死んじゃう位置にあるエンキドゥさまのことも考えましょうよ、ギルガメシュさま!

ギルガメシュ: 父上は聡明な君主、俺は暴君。それでバランスが取れているのやもしれないぞ? 光は、光だけでその尊さを分かるものでは無い。闇が夜空を覆うからこそ、星は尊く光るものなのだ。

すー: おお、ギルガメシュさまがいいこと言った!

ギルガメシュ: お前、俺を本当になんだと思ってるんだ(笑)

すー: どこにでも「ああん!?」とかってケンカを売るヤンキーのような……ゲフンゲフン。ともあれ、ギルガメシュさま、エンキドゥさま、どうもありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。


第二十一回「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 21 ルガルバンダ叙事詩より、王子の活躍」は以上です。

すこしでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。

次回予告

第二十二回は、ルガルバンダさまの父王、エンメルカルさまのアラッタ攻略の際、文字を記した粘土板の活躍についてのお話&インタビューです。お楽しみに~。

※見出しの画像は、最近noteに実装されたCanvaというサービスを使って私が素材から作成したものです。

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