神々の球技

地球はひとつのボールだ。その美しく、ときに壊れそうなほど繊細なそのボールの主導権を競って、多くの神々がいつも取り合いをしている。それはさながら競技であり、バスケットボールやラグビーのように、扱いは丁寧だったり、ときにはアグレッシブだったり。

その地球ボールころころ競技の一部分を、これから実況してみよう。

コロコロン、と落ちてきた地球をまっさきに拾い上げたのは、ギリシアの主神ゼウス。

「ふんぬっ、若い神には負けんわい!」

わらわらと集まって我こそ取ろうとする神々の手を退けて、ゼウスは高く地球を片手に持って掲げる。

「そこ、もらった~!」

隙をつき、小さい体ながら機転をきかせてゼウスの手にぴょんとジャンプをして追いつき、地球を獲得したのは北欧の火の神、ロキだ。ポンポンと軽く地球でドリブルをしながら走って行く。

「なんと、そなたに任せては、火の力で地球が熱すぎてしまう!」とひとりの神が進み出た。

「あっ……タケミカヅチ!」とロキが驚く。

ドリブルの途中ですいっと地球を持って行ったのは、日本の雷の神、タケミカヅチノカミだ。

「タケミカヅチだって、雷だらけの状態だと山火事とかになるじゃん!」と、地球を奪われたロキはくやしそうだ。

「ふふふ、わたしも負けませんわよ」

「うぉっ、取られた……!」

タケミカヅチの虚をついて、南米の水の女神、チャルチウィトリクエが地球を取った。

そんな感じで、どんどんと地球というボールの主導権を持つ神々がコロコロと変わって行く。

その地球に暮らすひとびとの声を聞くと。

『気温の上昇と各地の熱波がひどくて……』

『雷での山火事も多い』

『雨が降りすぎて』

悲痛な声が地球のあちこちから聞こえてくる。

実況をしている、大いなるひとつの神とも言われる私は彼ら人間たちに言えない。

『神々のボール競技に巻き込まれて、天変地異が起っているんだよ』

などとは、決して……。


おしまい


※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより増田林太郎さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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