浅草ロック座 2023年6月公演「REBIRTH」

▼1景 ハートの女王 橋下まこ        (※以下敬称略)

パッと見て”おお! カッコいい!”というのが第一印象。沙羅さんのときには普段のキャラクタからの意外性に何より圧倒された感があったけど、橋下さんだとまた違う。キャプテンフック(これも上演候補にはあったみたいだ)なんかで見せた強さがここでも出ている。ハキハキした振りで、沙羅さんの女王よりも陰影が濃くなったような、そんな感じ。爪の先、羽扇の先まで神経が通っているかのような身体のすみずみまで行き届いた美しさは沙羅さんと共通している。
笑顔とドSの緩急がうまいのか、とっても愛らしい女王様だ。ベッドショーで前盆に向かってくるときの「手拍子小さいんだけど(イラッ…」からの「そうそうそう! もっともっと(ニッコリ」!! コレですよ、コレなんですよ! 徐々にベッド着、パンティと脱いでいくときの恍惚がある一方で、思いっきりサムズダウンしてみたり。手でハートをつくって決めポーズしたかと思えば舌を出して帰っていく……このいじらしいまでの感情の起伏の激しさがなんともカッコよくてかわいい
沙羅さんの初演時と比べたくて、ステージ写真を2枚(群舞とベッド着)買いました。首もとのアクセサリーやガーターベルトなど、細かくその人に合わせて衣装を調整しているのがよくわかります。

▼2景 酒呑童子 白鳥すわん

2景から踊り子全員集合! 群舞の豪華さに特別な公演だということを改めて気付かされる。群舞の殺陣では決まり過ぎず、かといってなまくら過ぎずの”妖怪っぽい間”が絶妙にうまい。1景を終えてすぐのまこさんが最後の切り札的に群舞に登場してくる瞬間が好き。すわんさんの役、前回は熊野あゆさん・桃瀬れなさん・宇野莉緒さんがやっていた演目で、そのときもパワフルさや狂いっぷりだったり、静かな狂気だったりに魅了されましたが、今回はひとことで言うと「情念」! って感じです。美しい人が本気で表情を歪ませて、叫びながら演じているその本気度に圧倒されます。驚きとか戸惑いのしぐさ、表情が迫真です。
ベッドショーでは目を見開いてブリッジする姿がとくに印象的。ベッド着も半脱ぎ状態で、実際の絵巻物でデフォルメされてる怪物の雰囲気そのものという感じ。恐れや震えの中で切るポーズも見ごたえあり。
そういえば2景がくるたびにやんごとなき匂いがふわっとしてきたのですが、伽羅系(もしくは白檀?)の香水をまとっていたのかな。

なお、ここまで1・2景については2020年以降の演目の再演なので、前回公演時のメモを残してあります。まとめたものをここから見られます

▼3景 銀河鉄道の夜 ののか

3景はとっても不思議な演目でした。世界観はしっかりしている(なにせ有名な元ネタがちゃんとある)一方で、表現する手段は抽象的で踊りもコンテンポラリーな感じ。演出するのも踊るのも楽しくて難しい演目なんじゃないか。前回は今回4景を担当するゆきなさんが踊っていた景なのだとか。
群舞は金のもふもふを身にまとったジョバンニののかさんと、銀もふのカムパネルラうれあさん。群舞前半は朗読劇のようでもあって(ののかさんが踊りながら喋っているらしい。すごい!)、後半のコンビダンスはステップが揃っていてとっても綺麗でした。
ベッドショーは衣装の綺麗さとののかさんのとっても切ない表情がグッとくる。「こんなに大人しい演目はなかなかない」とご本人がSNSで言っていましたが、そのぶん切ない目もとがとっても饒舌に物語の世界を語っているように見えます。スワンのポーズを切るときや背を反らすときにピンと張ったベッド着、黒くて照明に透けて、色とりどりのラメが光るさまは鉄道が走っていく銀河を想像させて、ずっと見ていたいと思わせるのでした。

▼4景 狐の嫁入り ゆきな

過去公演ではどうやらトリの演目だったみたいです。今回は中トリとして再演。お正月公演以外でがっちり和装・日本髪でやる演目は少ない気がするので、ラインナップの中でも特徴的で面白い景になっていると思う。にわかに増えた外国人客にもウケそう。曲も三味線ヒップホップ的なもの→雅楽→J-POPとコンセプトをはっきりさせつつ微妙にジャンルを変えていて工夫されている。
ベッドショーは日本髪で頭が大きめになっている(これだけでも重いからまた大変なはず)こともあって、打掛を脱いだときの華奢さがより印象に残る。ゆきなさんのもともとの魅力もあって新婚初夜的な初々しさ、かわいらしさが満載な一方で、ポーズ切りには大胆さもあって、このあたりのメリハリがまたアクセントになって面白い。
18年ごろも今と同じシステムだったのかわからないですが、トリを務める踊り子さんがある程度固定されている現状では、こういった普段トリではない踊り子さんによる再演はもっとあってもいいのかな。


幕間に選外のリクエスト上位演目紹介動画が流れました。私が毎公演見始めた2020年以降の作品も多くランクインしていますが、noteに書いているせいもあるでしょうが割と記憶は残ってます。浅草側もまだ再演するには早いと見たのかもしれません。
個人的にはこの期間だったらコロナ休業前後にやっていた「Muse」の演目がひとつふたつ入っていてもよかった気がしたのですが、時期が時期なだけに劇場に行かなかった人も多かったのかもしれませんね。
リクエスト再演企画、個人的には5年区切りくらいで定期的にやってほしい。

▼5景 Talking Flower 桜庭うれあ

傘を使った群舞が印象的な演目。踊り子全員集合景その2。前回公演が「WONDERLAND」で演目名が「トーキングフラワー」と来るとモチーフはアレなのですね。だとすると傘を使った演出はすこし抽象的だし、景の全体を考えても想像力を必要とさせる翻案だと思った。ライトを照らして影をつくったり(全員ヌーディーな格好なので影がすごくエッチだ)、スクリーン代わりにプロジェクタからムービーの投影なんかもあって工夫を感じる。記憶では全員金髪で出演していて、うれあさん×金髪が似合うというのは前々から言っているのですが、今回はまこさんの金髪姿が見られて個人的には新鮮に感じた。かわいい。
うれあさんのベッドショーは客席からの振りマネもあって、ここ最近の来演時以上にノリがいい感じ。うれあさんと客席との間で温度差を感じたりせず、しぜんにアオってノせられて……という素敵な関係性でした。群舞のときはペイスティースにハイレグパンティ、ベッド着は前開きのワンピースというかキャミソールというのかで、ベッド着のほうが隠れているところが多いという珍しい展開。

▼6景 チャップリンの演説 空まこと

チャップリンの某映画ラストの演説シーンが流れる中での群舞。正直、これは前回公演でも空さんが演じたんじゃないかと思うほど”空さんらしさ”を感じた演目だ。ワークキャップにジャケット、ホットパンツ、ブーツで舞台装置もなくシンプルに演じられる前半。1曲目はダンスも雰囲気もまさにコンテンポラリーアートを見ているようだった。
とはいえ、真に空さんらしさが見えるのは、むしろ着替えて前盆に出てきてからだと思う。ベッド着はたぶん、これまでの演目で使った布のはぎれを組み合わせてる
んじゃないか(わかりやすいところで今年5-6月公演「ADVENTURES」のフィナーレ衣装の市松模様があったし……)。衣装も”REBIRTH”を体現する使い方なのかもしれない。そう考えると、今回公演をもっとも象徴的に表したのがこの景のように思えてくる。空さんが自由に無軌道的に踊って、その間じゅういつも笑顔をたたえている様子。それを客がいっぱいの手拍子で迎え入れる様子。発展的なスクラップ&ビルド、つまりはリバースの極致のように感じた。

▼7景 巴 真白希実

個人的には真白さんのイメージっぽくない景でこれまた面白い。でも前回公演の演者も真白さんだったというので少し意外だ。トリが唯一、前回公演と同じ人が演じる景になるのか。
群舞はとにかく運動量が多い。小道具の薙刀をぶんぶん振り回す。
トリ演目は優雅に舞う雰囲気のものが多い気がするし、真白さんは背がやや高めだし、ここまでキビキビと動く群舞は見映えがしてとてもよかった。
ベッドショーでは小道具を短刀に持ち替える。ベッド着は胸から下が袴っぽい衣装で、これも意外だった。いつもドレス→全身裸、のような構成が多くてスラっとした姿は頭に浮かんでくるのだけれど、今回はバストアップだけ裸の真白さんで、とてもたくましく見えた。短刀と鞘でどこまでもエロをにおわせながらも、あくまで上品に巴御前を演じきる姿が凛々しい。

フィナーレも過去公演のモチーフをいくつか組み合わせて作っているようで、サンババージョンだったり、タンバリン、フレンチカンカン……浅草を見続けているとピンとくる要素がいくつか混ざって構成されていたようです。

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