選択肢を超えろ
あれはハタチになるかならないかぐらいのこと。
改めて書くと恐ろしいが約20年前だ。
2連休初日だった友人と、その期間しばらくお休みしていた私の二人は、朝の開店から日が変わってしばらくするくらいまでカラオケを堪能していた。
この時期、というか、18〜ハタチ過ぎくらいの間は週に7回以上カラオケに行っていた時期なのでよく覚えているのだが、この日の夜もたしか彼の仕事終わりの18時過ぎから夜中2時半くらいまでカラオケをしていたはずだ。
毎日そうしていたから間違いない。
そこから一旦帰り寝て、6時間ほどしてふたたび合流し、またカラオケをする。今思い返しても元気なもんだ。。。
カラオケ屋を追い出されたワレワレは、ジュースに酒にポテチやスルメイカを両手いっぱいに買い友人の部屋になだれ込んだ。
ゲーム全盛時代に生まれたワレワレ。そこから始まるのは夜通しゲーム大作戦だ。
ひたすら対戦格闘ゲームをしつつ盛り上がっていたのだが、かなり眠くなったワレワレは対戦格闘に飽きてきていた。
しかし、せっかくの休み(彼は。)、寝るのはもったいないじゃないということだったのだろう。
何かを思い立ったかのように、彼はこういった。
マリオ3やろう。1−1からワープ無しで。
マリオ3。プレステやサターン全盛の時代に8bit機って。
とお思いだろうが、ワレワレは普段からちょくちょくマリオ3やっていたので、さほど驚くことではなかったのだ。
※ちなみに彼はその当時、ずっと初代ファミコンの「水滸伝2」をやってた。
マリオについて
ゲームを触ったことがない人でさえその名を聞いたことあるであろうおそらくは世界一有名な配管工おじさんだ。(公式では配管工が本職とは書かれていないらしいが)
おじさんと書いたが公式設定だと25〜26才らしい。
一回り以上も下じゃないか。私のほうがよっぽどがおじさんだった。
配管工だけでなく、大工や解体工などガテン系にはじまり、テニスやボクシングの審判、お医者さんなど色んな職歴を持っている彼。
実に多彩な技術を有しているのだが、しばしばその仕事を休まざるを得ないため、どうも要職につくことは出来ないらしい。
というのも、これまた「誘拐され屋」として名をはせるマリオの恋人ピーチ姫が、相も変わらず大きな亀の化け物にさらわれるためだ。
さらわれ続けるお姫様を迎えに行く物語の3作目、それがスーパーマリオブラザーズ3(以下マリオ3)だ。
さすがにこうも続くと、亀の化け物と結託して恋人の気をひこうとしてる説まである。まぁ、そんな陰謀論みたいなのはどうでもいいや 笑
ゲームウォッチの頃のマリオは画面の上の方にいるゴリラめがけていくゲームだったが、ファミコンのスーパーマリオシリーズになってからは基本的に左から右に進んで、ゴールまで行くと次のステージに進む横スクロールタイプのアクションゲームだった。
ちなみに最近のは3Dでグリグリ動くやつ。私は酔うのでできない。
マリオ3はすごろく板のようなマップボードの上を進みながら、関所のように配置された各面に入り、クリアすると先に進める、といったゲームだ。
今調べてみたら全90面あったらしい。
友人氏が「ワープ無しで」と言った言葉からわかるように、このスーパーマリオというゲームはすべての面をクリアしなくてもかなり終盤まで行けるような「裏技」というやつが存在する。
大人になって開発系のことをしたりするようになると、あぁアレはそもそもデバッグ機能を「これ、隠し要素で入れたら面白いんじゃね?」とした大人たちの遊び心なんだろうなぁ、とか思ったりする。
とにもかくにもその裏技のワープを一切使わず、全90面をクリアしていこうと言うのだ。朝の3時か4時から。
しかも、そもそもクリアしなくても進行には関係ない面も沢山あるにも関わらず、だ。
彼もまぁまぁ狂っている人だった。
しかし私もまぁまぁ狂っていたので、異を唱えることなくスタートした。
ひとつひとつを越えていく
ひさしぶりにやるマリオ3ではあったが、そこはゲームキッズのワレワレ、最初はそんなに手こずることもなく進めた。
2人でマリオ3をやる場合は、一人が面クリア、もしくは途中でやられたらもう一方が動かせるようになる仕組みで、我々スーパーマガイモンブラザーズは眠気と体力の限界から、幾度となくミスをしつつも、ひとつ、またひとつと歩みを進めていった。
まるで人生という名の壮大なゲームを少しずつ乗り越えていくように。
先程YouTubeで見たが、マリオ3を全面クリアしている人の動画は6時間15分だそうな(※権利の関係があるので貼りませんが、マリオ3全90面とかで調べたら出ます。)
改めて思い出すと、おそらくそのくらいの時間はかかっただろう。
チュンチュンいいながら窓の外が明るくなったのはそこそこ始めの頃。
完全に陽光が高く昇る気配と共に、我々はゲームの最終局面となる大きな亀の化け物の前にたどり着いた。
亀の野郎の名はクッパ
亀の化け物の名はクッパ。有名なトゲ亀だ。
こいつの後ろには姫君が待つ扉があるのだが、クッパは火を吐いたり、フットプレスをかましてきたりして我らがブラザーズの行く手を阻む。
コントローラーを持つは私マリオ。残機はゼロ。
つまり負けたらラストコースのはじめからやり直しという局面だ。
手に汗握る、、、かと思いきや、基本的にシリーズを通して実はクッパ自体は非常に弱い。そこまでの道中が嘘のように簡単に攻略できてしまうのだ。
マリオ3のボス戦は要約するとこうだ。
まず①の状態で始まる。
そして②のようにフットスタンプしてくるクッパをよけると
③のように床に穴があく
これを繰り返し④のようにクッパを穴に落とすと晴れて後ろの扉が開く。
何度もやった簡単な作業だ。当然のようにあっけなく勝負はついた。
亀の化け物は自分の作った穴に落ちていき、勝利の音楽と共に姫が待つ部屋の扉が開かれた。
【図解 クッパを倒した後】
何時間もの時をかけた冒険の結果がそこには確かにあった。
二人して「ッしゃぁ!」などと叫んだと思う。もうすぐお昼が来ようかという頃に。
もはや残るミッションは姫の救出のみ。
拒むものはなにもない。
・・・はずだった。
寝ていないことがもたらす災い
人間は、寝なければならない。
それも夜は寝るようにできている生き物だ。
覚えてはいないが、子供の頃よくよく怒られた気がする。
夜ふかしすると大きくなれないよ!と。
結果、夜ふかしはしていても体は大きくなってはいたが、寝不足のあとはだいたい病気や怪我をしてしまうケースが多かったように感じる。
確かに睡眠時間が少なくなると、肉体的な疲労感だけではなく、すぐイライラしたり集中力がなくなったり、精神的にも負担がかかることはこれを読んでいる皆様ももちろん経験があることだろうと思う。
繰り返すが、人間は寝なければならないのだ。
亀の後ろにある扉
扉は開いた。後は姫を助けに行くだけだ。
というか、開いたんなら出てこいや、とは思うが、
こういうときはナイトが助けに行くものだから仕方がない。
しかし、前述した通りワレワレはそれなりに何度もマリオ3をクリアしていた。つまり亀を倒して姫を助け出すことにもはやなんの感動も得られない。
そして、、、
「待てぇぃクッパ!逃さんぞ!!」と言いつつ、亀の作った穴に飛び込んだ。これはよく覚えている。銭形警部風に言った。よく覚えている。
スーパーマリオというゲームは、穴に落ちるとコースミスとなる。
それは、たとえクリアが確定している画面でも同じこと。
終わりを告げる音楽と共に、GAME OVER!を告げられた。
私のとった行動は彼の「えぇぇぇ!!!?」という驚愕を誘った後、驚くほどの爆笑を生んだ。それを受けて、私も大笑いした。
そして、ファミコンの電源をオフにした。
ブレイクスルー
人生というやつは、強制的に選択をさせてしまう選択肢の出し方がある。
マジシャンが客に好きなカードを選ばせ、その絵柄を当てるマジック。
そういったものをマジシャンズチョイスなどというのだが、アレは実はマジシャンに選ばされているのだ。
そのマジシャンズチョイスはよくビジネスにも使われる。デザイナーもよく使う。覚えていても損はしない言葉のひとつだ。
ワープを使ってもおよそ1時間はかかるマリオ3。
その最終局面でボスを倒した者にとって、その穴に飛び込むという選択肢は通常見えないものだ。
あの時ワレワレは、確かにマリオ3の新たな可能性を生んだ。
行動を起こしたのは私だが、それはきっとあの場の空気と、酒と、極限の無睡眠状態が引き起こした選択だった。
ブレイクスルーだ。
クッパを追いかけ自死を選ぶという選択が正しかったかどうかはさておいて、人生においては、なるべくこのマジシャンズチョイスにかかりたくないな、と思う。
いや、かかってもいいのだが選択肢を把握した上でかかりたいものだ。
選ぶときはあくまでちゃんと選びたい。
自分で選べば後悔なんて生まれることはないからね。
次に電源を入れたときもマリオは同じようにピーチ姫を助けるため、クッパの元へ向かう。
が、それはきっとクッパを追いかけ穴に飛び込んだ勇者マリオとは違うマリオだろう。
かのマリオは今もクッパを追いかけているに違いない。
改めて見ると目つきがもう。。。
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