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中国、「体制」と合わせ鏡な「反体制」の皮肉

皆さんは、「大翻訳運動」をご存知でしょうか。

大翻訳運動」とは、簡単にいうと「中国のおかしな言説を外国語に翻訳して、その愚かさを世界に知ってもらおう」というムーブメントのことです。その活動は、ネットで集まった反体制的な中国人を中心に展開されています。

「翻訳」の対象となるのは、主に中国で報道される国際ニュースや、それについてのネット上の差別的なコメントなどです。「これが中国の真実の姿だ」と言わんばかりに、過激なコメントが次々に各国語に翻訳されています。

そもそも、この活動はロシア・ウクライナ問題に際して出てきた、中国国内の差別的かつ倫理的に看過しがたいようなネット上のコメント(「戦争から逃げてきたウクライナの美女を引き取ります」というような下品なものが多数あり、中央が厳しく注意する事態にもなった)を、上記の反体制的なグループが世界に知らしめようとしたことが契機になり、大きくなっていったようです。

この活動はすでにドイツやアメリカなど海外のメディアでも取り上げられており、彼らのTwitterアカウントは開設から1ヶ月足らずにも関わらずすでに10万人近いフォロワーを獲得しています(この記事が公開される頃には10万を超えてるかも)。

中国国内では歓迎すべきでないものとして注目されはじめていて、中国のSNSでは「#大翻译运动」のハッシュタグが利用禁止になりました(このあたりの対応は、もはや中国で何かコトが起こった時のテンプレになっています)。

さらに、政府系のメディアである環球時報がこの「大翻訳運動」に対する批判記事を出す事態まで起きています。いま中国は習近平主席の指示のもと「愛される中国」を目指そうという方針であり、こんな時に国内の恥ずかしい言説を世界に垂れ流されてはたまったものではない、ということなのかもしれません。

今日は、この「大翻訳運動」に関する所感を書いてみたいと思います。

おそらくは、広がっていかないだろう

反体制的な言説が厳しく取り締まられ、言論の自由がないとされる中国において、このような活動が起こることはある意味では健全さを感じさせるものではあります。こういう動きが発生する余地が中国に残っているのだな、と知れるだけでも、この運動には価値はあると思います。

しかしいっぽうで、この運動はそこまで大きなものにはならないだろうな、と個人的に予想しています。

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