ITストラテジスト 改修要望の分析と対応方針の立案【論文の書き方】(令和5年春問1)
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、令和5年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し論文骨子を設計するところまでやっていきます。
問題(令和5年問1)
過去問は試験センターから引用しています。
設問文は以下の通り。
何が問われているかを把握する
問題文を読むと「分析」に紙面の多くが割かれているのが分かります。第二段落の中身とその後に続く箇条書きは、分析に必要な情報とプロセスが書かれています。
テーマとしては、利用部門から上がってきた改修要望を、いかに分析して真の問題点にたどり着き対応方針を定めるか、です。
設問アは、背景にある「事業環境」「ITシステム」「利用部門の改修要望」「利用部門の問題意識」が問われています。利用部門の目線で見た切り口が必要です。
設問イは、分析のための「収集した情報」「分析したプロセス」「工夫点」が問われています。
経験が少ないと利用部門から上がってきた改修要望を鵜呑みにしてしまいがちですが、ITストラテジストとしての考えに立脚して要望を分析するプロセスが重要です。
設問ウは、「利用部門・関係部門との協議」「対応方針」が問われています。改修要望をそのまま対応しないことを説得力をもって説明し、方針を立案します。
出題要旨と採点講評からの分析
試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して出題の意図と論述のNG例を把握します。
出題要旨
出題要旨の1文目に、
とあります。
「変化の速さ」はここ数年のIPA試験のキーワードです。設問アで述べる事業概要や事業特性で、変化の速さを伺わせる題材を選ぶようにしましょう。
3文目に
とあります。
ITストラテジストは利用部門の視点と、全社の視点の両方を持ち合わせる必要があります。
その視点をもって、2段落目にある
について述べるのが出題趣旨のメインでしょう。
採点講評
「全問共通」の採点講評はここ数年同じことが書かれており、
とあります。
論文用紙の前にある、下の画像のような論述の概要を記載する用紙ですね。
試験センターも明確に「評価の対象」と言っているので、手を抜かずに記入しましょう。聞かれる項目はほぼ毎回同じなので、予め回答を想定して準備しておきましょう。
問1の採点講評では、NG例が2つ紹介されています。
まず1つ目として2文目に
とあります。
ウォーターフォールモデルでは要望を要件定義して掘り下げますが、本問では単なる要件定義を求めている訳ではないことを意味します。
2つ目として4文目に
とあります。
"特性要因分析"、"AI による対応" は一見 分析手法や技術の具体例のようですが、試験センターの求める「具体性」とは、論文内で書かれる業務やシステムの具体性を踏まえているかがポイントです。
どのように論文を設計すればNG例に抵触しないか、次節より説明していきます。
論文を設計する
問われていることの概略を把握したら自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめてどのように論述を展開するかを設計します。
設問アの設計
設問アは「事業環境」「ITシステム」「利用部門の改修要望」「利用部門の問題意識」を問われています。
設問アの執筆に着手する前に、(利用部門からの)改修要望と、(最終的な)対応方針の骨子は作っておきましょう。
ざっくりと本問の構造は
設問ア:改修要望(A)
設問イ:(A)から(B)に到達するプロセス
設問ウ:対応方針(B)
と捉えられるので、AからBの骨子を始めに考えます。
骨子が定まったら肉付けとして、設問アに書く「事業環境」「ITシステム」「利用部門の問題意識」を考えましょう。
ここで、問題文や出題要旨には
という記載があるので、事業を取り巻く環境には変化の速さがあることを盛り込むとより良いでしょう。
例として、
事業:衣料品の卸売業
服飾業界は小売り・アパレルメーカー共に業態多角化の傾向で流通の変化が著しい
などが考えられると思います。
設問アの骨子の例をまとめます。
設問イの設計
設問イでは設問アの「改修要望」から設問ウの「対応方針」の間をつなぐ「分析プロセス」について詳しく述べる必要があります。
改めて設問イの設問文を確認すると、
どのような情報を収集したか
どのように分析したか
どのような問題の真因を特定したか
工夫したことともに述べよ。
と書かれています。
問題文には設問イに関して最も多く紙面が割かれているので確認しましょう。
問題文からは、「1. 収集する情報」の例として、
(利用部門の問題認識)
現状の業務プロセス
ITシステムの概要
ITシステムの利用状況
などが挙げられています。
1つ目の「利用部門の問題認識」は設問アで触れているので、他の3つが「収集する情報」の候補ですが、全て触れる必要もないですし、ここで挙げた以外の情報でもよいでしょう。
重要なのは、「全社視点での多面的な分析」を行うために必要な情報である、という点です。
また問題文からは、「2. どのように分析するかの例」として、
利用部門の認識を個別最適では無く全体最適の観点で見直す
他のサービスや業務に関連する問題や改修要望は無いか
他の業務プロセスやITシステムに関連する問題は無いか
ステークホルダに関連する問題や改修要望は無いか
が挙げられています。
全てに触れると紙面が足りなくなると考えられるので、1つか2つを参考に分析のプロセスを展開するとよいでしょう。
また「3. 問題の真因」については問題文の例がありません。論文執筆時の冒頭で設定した「改修要望」と「対応方針」から、「問題の真因」を設定するようにしましょう。
最後に「4. 工夫したこと」についても問題文には例示がありません。工夫の中身は考える必要がありますが、「どこに対する工夫」かは、「2. どのように分析したか」に対する工夫として書くのが無難でしょう。
設問イの骨子の例をまとめます。
設問ウの設計
設問ウは設問文からは
「どのように協議したか」
「どのような対応方針を立案したか」
が問われています。
「どのように協議したか」に関連する問題文の箇所に、以下の記述があります。
「解決手段、スケジュール、実行体制、投資効果など」について触れておくのがよいでしょう。
全て触れる必要はありませんが、ITストラテジストとしては投資効果には触れておいた方が無難かと思います。
「どのように協議したか」の記載の後に、「立案した対応方針」を記載するのが自然でしょう。
論述のやり方はさまざまありますが、協議の際に複数の対応案を提示して、投資効果などに触れて理由付けし選定した案を対応方針とする、といった論旨展開が一例として考えられます。
設問ウの骨子の例をまとめます。
論文骨子
以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、令和5年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
利用部門からの提案を鵜呑みにせず、ITストラテジストの考えで全体最適の観点から対応方針を立案する姿勢が重要です。
私自身の受験記もまとめているので合わせて参考にしてください。
■ITストラテジストの合格秘訣まとめ■
今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。ではそれまで。
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■設問ア
1.事業概要、ITシステム概要と改修要望
1-1.事業概要とITシステム概要
J社は衣料品の卸売業を営んでいる。論述の対象とす
る業務は顧客である小売業向けの販売業務である。論述
の対象とするITシステムは商品の紹介・見積もり・受
注・発送を行う機能を備えた統合販売支援システムであ
る。同システムは、J社の販売業を一括して支援するた
めに1年前に構築された。
J社を取り巻く服飾業界は小売り・アパレルメーカー
ともに営業形態が多角化しており流通の変化が著しい。
たとえばアパレルメーカーが自社のブランドを守るため
にパートナー契約を締結した卸売業・小売業にのみ自社
商品の再販を許諾するケースがあるが、限定された商品
にのみ許諾したり許諾期間が制限されたりと契約条件が
細かく規定されるようになってきている。そのような折、
J社販売部より次の改修要望がシステム部に寄せられた。
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