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システムアーキテクト PoCを活用した情報システム開発【論文の書き方】(令和4年春問1)

2023/3/15 誤字の修正を行いました。
2023/7/19 メンバーシップ開設に伴う修正

本記事ではシステムアーキテクトの午後II(論文)対策として、令和4年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し論文骨子を設計するところまでやっていきます。

※本記事は、メインである論文の書き方については無料で読めます。論文本文のみ有料部分なので、読みたい方は記事の購入またはメンバーシップの加入をご検討ください。


問題(令和4年問1)

過去問は試験センターから引用しています。

表題:『概念実証(PoC)を活用した情報システム開発について』

設問文は以下の通り。


何が問われているかを把握する

問われている中心は掲題にもある通りPoC(概念実証)です。PoCは流行り言葉(バズワード)の一つと言えると思います。
もし「聞いたことが無い」という方は本問を選ぶのは少し難しいかもしれません。
意味は「概念実証」と書かれている通り、本番導入前の検証の一種であり、手早く実現性を確認して採否を決定できるというメリットがあります。

PoCの方法として中段に製造業の製品外観検査業務が例示されており、論述量としては最も大きくなることが期待されています。
設問イで問われていますね。

設問アではPoCの背景や前提条件として
対象業務・システム開発の目的・採用しようとした技術
が問われています。

PoCをやるからには「それまで導入したことのない新技術」の実証が主な目的なので、単純な基幹業務・情報系システムでは論文が書けないでしょう。
本文にもある通り、IoT、ビッグデータ、AIなどといった新技術を素材にする必要があります。
理由は後述しますがAIを一部でもいいので採用した形の方が書きやすいのではないかと思います。

設問ウでは検証結果と適用可否が問われています。
また本文には「効果やリスクなどから総合的に判断する」という文章があるので、新技術を導入することによる効果はもちろんリスクについても触れて判断していることを論述しましょう。


まとめると問われていることは次の通りです。

設問ア
 対象の業務
 システム開発の目的
 システムに適用する技術
設問イ 実施したPoC
 設定した仮説
 検証方法
 PoCにおける工夫
設問ウ
 検証結果
 適用可否


出題要旨と採点講評からの分析

試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して出題の意図と論述のNG例を把握します。


出題要旨

採点講評

出題要旨の3文目に、「仮説を立てる」ことの重要性が強調されています。仮説を検証するための(小規模な)情報システムを構築しているかが重要なポイントです。

採点講評でも「仮説やPoCの内容を明確に述べていない」という文がありますが、仮説に基づいてPoCを行う点が曖昧だったり意味を履き違えていないか、確認するようにしましょう。
「はじめに仮説ありき」で仮説を確かめるためにPoC(の具体的な方法)が設問イで述べられてなければいけません。

また「業務への適用可否の判断理由が曖昧」という文がありますが、判断は本文中にもある通り効果とリスクを踏まえて総合的になされなければなりません。
結果だけチェックしてOKとしていないかなど、改めて注意をしましょう。

リスクの方は問題文から例示やヒントは無いので、経験や過去問から「その技術を採用したら当然発生するであろうリスク」とその対処法について設問ウで述べられるかがカギとなります。


論文を設計する

問われていることの概略を把握したら自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめてどのように論述を展開するかを設計します。


設問アの設計

設問アは設問イにつながる前段として「業務」「目的」「技術」の3点が主に問われています。

PoCをする以上は、「技術」から考えて用意してきた論文シナリオを選ぶのがよいでしょう。

私はデータセンタにおける機器の現地での保守業務を例にとり、AIとAR(拡張現実)ゴーグルを用いた支援システムを開発するシナリオとしました。

1-1. 対象の業務

データセンタの保守業務とし、後述の情報システム開発のために、現状でも「作業ミスが発生すると影響が大きいこと」をネタ振りとしていれました。


1-2. システム開発の目的

問題文の1文目にある「業務の効率化や品質向上を目的として」という文に対応している箇所です。

作業ミスを減らすために、

  • 業務品質向上

  • 特定の作業員負荷の軽減

  • ノウハウの水平展開による業務効率化

を目的としました。


1-3. 適用する技術

問題文の1文目に「IoT、ビッグデータ、AIなどに代表される新技術」という文に対応している箇所です。
いわゆる"枯れた技術"ではなく、業界や競合他社においてもまだ採用が本格化していないような技術がよいでしょう。
基幹システムのパッケージなどで書くと、PoCをやる意味がなくなり不合格となってしまいます。


設問イの設計

設問イでは「仮説」「検証方法」「工夫」が問われています。論述量が最も大きくなるのは具体性も必要になる「検証方法」ですが、大きく合否を左右するのは「仮説」との関係性でしょう。

いきなり具体的な「検証方法」から書きたくなるかもしれませんが、それはよくある「したした論文」(やったことを散文的に書き散らしているだけでシステムアーキテクトとしての考えが分からない)になってしまいます。

また問題文本文にも最も記述量が多いところなのでよく読み、設問との対応付けをしっかり頭に入れておきましょう。


2-1. 設定した仮説

問題文の2段落目の1文目に
「外観検査員と同等の制度の検査をAIによって実現できる」
という仮説の例示があります。

これに合わせると
「現地作業員と同等の制度の検査をARゴーグルによって実現できる」
といった仮説になります。

全く同じ構文としてしまうとかえって経験や理解を疑われる
(採点講評にも「本文からの抜き出しただけの論述は表面的」でありNGとされています)
ので、少し肉付け・言い換えをするとよいでしょう。

たとえば、
「ARゴーグルの導入によりどの作業員でも一定以上の作業品質を得られる」
などです。

また仮説は設問アの1-2.で述べた「システム導入の目的」との整合性も意識すると良いです。
「なぜそのシステム導入が現状の業務課題を解決することになるのか」
という視点ですね(本来この観点はITストラテジストの範疇ですが)。
ですので仮説から1歩進めて、仮説が立証されたなら課題も解決でき、1-2.の目的も達成できるという文章を連ねると考え方のアピールにもつながるでしょう。

たとえば
「ノウハウの水平展開が促進され業務全体の効率化と品質が向上する」
などです。


2-2. 検証方法

問題文の2段落目の最後にある3点の箇条書きが対応しています。
簡単にまとめると以下です。

  • A. 具体的なデータと正解データをもとにAIに学習させる

  • B. AIに実施させた検査の精度を測定する

  • C. AIが誤ったデータは再度正しく学習させ精度を高めていく

PoCを行う以上、短い期間・小さいコストで実現可能性を見極める必要があります。
AIの学習精度のように、何サイクルか回して効果を確認できる新技術であることが本文からは期待されているように思われます。またAIであれば、PoCで学んだ学習モデルを本番にも適用できるメリットがあります。

以上より、本論文の技術テーマとしてはAIを一部でもいいので盛り込むことをおすすめします。


検証の方法としては上記A.~C.を意識しつつ、私の場合は次の4ステップで論述しました。

(1)機器の画像を収集し、機器の種別などの情報をAIに学習させる。
    → A.に対応
(2)解析データ上に、電源スイッチなどを付加情報として表示できるように、AIに学習させる。 → A.に対応
(3)機器の識別・付加情報の表示をAIに実施させ、識別精度を測定する。
   → B.に対応
(4)AIが誤ったデータに関しては再度正しい情報を学習させ精度を高める。 
   → C.に対応


2-3. PoC における工夫

問題文の3段落目
「経験豊富な外観検査員の参加」「画像データの撮影条件の変更」
に対応しています。

他の設問との関連性は薄く、実際に経験した工夫を書けばよいでしょう。

私の場合は問題文の例示に寄せて、
「効率的なAI学習のため、PoCの段階でベテラン作業員を参画させる。」
「画像データによっては光源の位置や機器の配線の重なりで正しく判定できなかったので、撮影する位置・角度・距離を工夫した。」
としました。

さらに問題からは求められておらず、PoCの主旨でもないですが、
「可能である限り機器・配線も整理し直して、保守業務自体の品質も上げられるようにした。」
という点も論述し、自分自身が様々な経験と能力があること(この例示はITサービスマネージャの範疇と言える)のアピールをしました。


設問ウの設計

設問ウでは「検証結果」「適用可否」「判断理由」が問われています。
さらに本文4段落目からは「効果やリスクなどから総合的に」という指定もあるので加味します。

論述の骨格としては、PoCの結果~リスク判明~対応策~適用を判断とするのが書きやすいと思います。

節立てとしては3-1.を「検証結果」としてリスクの内容までを書き、3-2.で「適用可否と判断理由」としてリスクへの対応策と判断を書く、などが考えられます。


3-1. 検証結果

PoCの検証結果とは2-1.で設定した仮説の検証に他ならないので内容が対応しているか確認しましょう。
導入しなければ分からないこと(生産性アップや売上アップ)などを書いてしまうとNGです。

私の場合は「作業員の作業品質が上がること」が仮説なので

  • AIによる判定

  • AIのサポートがあれば導入効果が見込まれるかを作業員自身にアンケートをとる

ことにより検証の効果を確認しました。

その結果リスクとして
「AIの誤判定による作業品質の低下を作業者自身が考えている」
ということが表面化したという筋書きとしました。

※検証する前から分かるようなことですが、実際にアンケートを取り結果を評価したというプロセスが重要です


3-2. 適用可否と判断理由

作業品質低下の懸念の理由はAIの誤判定なので、

  • 学習モデルに判定させる光学データが不確実

  • AIの判定が不確実

の2点に分けて対応策を検討します。

ここで新システムが実装された後の保守手順に言及して次のように展開しました。

 (1)作業員は二人ともARゴーグルを装着する。
    →二人のうちのどちらかのゴーグルが正しく判定すればよいのでリスクが減る
 (2)オペレータはAI誤判定している場合は正しい情報に書き換える。
    →人の判断を介入できるのでリスクが減る


なお(1)は2-3.で触れた「画像データの問題で正しく判定できなかった」という課題を伏線として回収しています。
※この対応付け(2-3.と3-2.)までは本問の出題要旨としても求められてはいないとは思いますが、論文試験に慣れているアピールができると思います。


論文骨子

以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。

1.PoCを実施した情報システム開発の概要
 1-1.対象の業務
 データセンタ保守業務。
 作業員は二人一組で現地作業を行い、遠隔からのオペレータの指示に従う。
 万一の作業ミスは影響が大きい。
 1-2.保守業務支援システム導入の目的
 業務品質向上、特定の作業員負荷の軽減、ノウハウの水平展開による業務効率化。
 1-3.保守業務支援システムに適用する技術
 膨大な数の機器を識別・学習できるAI
 現地作業員に装着させるゴーグル
 ゴーグルの内側に付加情報を表示させる拡張現実(AR)
2.実施したPoC
 2-1.設定した仮説
 ARゴーグルを導入すればどの作業員でも一定の作業品質を得られる
 ノウハウの水平展開が促進され業務全体の効率化と品質が向上する
 2-2.検証方法
 小規模な検証環境を構築した。小さいコスト・時間で仮説の正当性を素早く見極めるため。
  (1)機器の画像を収集し、機器の種別などの情報をAIに学習させる。
  (2)解析データ上に、電源スイッチなどを付加情報として表示できるように、AIに学習させる。
  (3)機器の識別・付加情報の表示をAIに実施させ、識別精度を測定する。
  (4)AIが誤ったデータに関しては再度正しい情報を学習させ精度を高める。
 2-3.PoCにおける工夫
 効率的なAI学習のため、PoCの段階でベテラン作業員を参画させる。
 画像データによっては光源の位置や機器の配線の重なりで正しく判定できなかったので、撮影する位置・角度・距離を工夫した。
 可能である限り機器・配線も整理し直して、保守業務自体の品質も上げられるようにした。
3.PoC検証結果と業務への適用可否
 3-1.検証結果
 PoC期間を経てAIによる学習制度は誤判定率が平均的な作業員相当の2%まで低下。
 作業員にアンケートを取得。新技術導入の効果やリスクを総合的に判断するため。
 一部にはAIの誤判定による作業品質の低下を危ぶむ声もあり。
 3-2.適用可否と判断理由
 作業品質リスク軽減のため保守業務の手順を見直した。
 (1)作業員は二人ともARゴーグルを装着する。
    →二人のうちのどちらかのゴーグルが正しく判定すればよいのでリスクが減る
 (2)オペレータはAI誤判定している場合は正しい情報に書き換える。
    →人の判断を介入できるのでリスクが減る
 以上のようにリスク軽減できると判断し、保守業務支援システムの導入を決定。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
本記事ではシステムアーキテクトの午後II(論文)対策として、令和4年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
どちらかと言えば新技術・攻めのシステム投資に対する問題でした。

また、他の区分・過去問の【論文の書き方】の記事については以下リンクを参照ください。

論文の書き方 カテゴリーの記事一覧 - スタディルーム by rolerole

今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。

ではそれまで。

論文全文

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■設問ア
1.PoCを実施した情報システム開発の概要
 1-1.対象の業務
 対象の業務は自社が運営するデータセンタの保守業務
である。データセンタに配備されたサーバ・ストレージ
・ネットワーク機器などの機器の設置・交換・配線など
が主な作業である。作業員は二人一組で、遠隔にいるオ
ペレータの指示に従い現地作業を行う。誤った機器に対
して作業をすると自社の情報システムのみならず他社に
貸し出している範囲の情報システムまで影響が出てしま
うので、細心の注意が求められる。

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